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IRBの調査でわかったこと

IRBの実態調査(2006年度)にご協力いただいた皆様へ

平成18年度厚生労働科学研究費補助金による「IRBメンバー教育研修プログラムの開発を目的とするIRBの実態調査」に多大なご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。お陰をもちまして、研究倫理審査の現状を正確に把握し、問題点を整理することができました。

2006年6月の予備調査で、IRBの役割を担う委員会が福岡県下に173ほど存在することがわかりましたので、それらを対象として9月から年度末までに本調査を実施しました。その際、調査票にお答えいただいた上、大部分の施設には個別に聞き取り調査に伺いましたが、お忙しい中にもかかわらずご丁寧にお答えいただきまして、有り難うございました。 その後の検討で、現実的には開かれていない委員会や、親委員会の下部に位置する専門部会などを除き、最終的に137委員会を解析対象としました。

詳細な解析結果は後日あらためて発表するつもりですが、要点を「抄録」の形で以下に掲載いたします。

福岡県における研究倫理審査委員会(IRB)の実態調査

目 的

IRBによる臨床研究の審査という方法は、被験者を保護する重要な手段として定着しつつある。しかし、全てのIRBで適正な審査が行われているとは限らない。IRBの質を高めるには委員の知識と意識のレベルを上げる必要があるが、委員にとって教育研修の機会は少ない。また、どのような教育方法が適するかもわからない。そこで今回、IRB委員の教育方法を考える基礎情報を得るため、IRBの現状を調査することにした。

方 法

福岡県をモデル地区とし、県内の全IRBを対象として、アンケート調査「IRBメンバー教育研修プログラムの開発を目的とするIRBの実態調査」を行った。まず郵送で回答を依頼したが、これだけでは不明瞭な点が多かったため、ほとんど全ての施設に調査員が直接出向いて聴き取り調査し、不明瞭な点を明らかにした。客観的な質問にはIRB事務局の担当者等が答えてもよいことにしたが、やや主観的な質問への回答を含め、最終的には委員長が確認することとした。

結 果

2006年6月に行った予備調査の結果、IRBの役割を有する委員会が福岡県内に173存在することがわかった。これらを対象として9月から本調査を行い、この内163委員会から回答を得た(回収率94.2%)。回答内容に基づき137委員会を解析対象とした。内訳は、治験のみを審査するIRBが71、治験以外の研究のみを審査するIRBが36、どちらも審査するIRBが30であった。

特に問題と思われる結果は、次のとおりであった。

1.委員会の構成員として施設長が含まれる場合がかなりあった。施設長が除外されている委員会は64.2%に過ぎず、含まれる可能性がある委員会が35.8%あり、実際含まれている委員会が29.2%もあった。しかも、施設長が委員長になる可能性がある委員会が32.8%、現に委員長である委員会が21.1%もあった。

2.審査対象となる研究であっても申請されていない可能性があると答えたIRBが15.5%あった。また、審査対象となる研究であっても何らかの判断で審査は不要とされる可能性があると答えたIRBが23.7%もあった。

3.実施上の問題点として一番多かったのは「審議課題が多く、委員会の負担が大きい」ことであった。審査方法として主任審査委員制をとっているIRBは少なく、3.7%であった。

4.承認のため必要な賛成数は「全員」と答えたIRBが58.8%、「3分の2以上」が20.6%、「過半数」が13.2%、「多数決」が2.9%と、かなりばらついた。

5.独自の審査基準やマニュアルを作って審査しているIRBは極めて少なかった。独自に設けた審査基準を持つIRBは2つだけで、大部分のIRBは一般的なガイドラインを挙げるのみだった。マニュアルを用いているIRBは少なく、独自のマニュアルを使っているIRBが7つあるのみであった。

6.倫理性について判断が困難と感じる点として最も多く挙げられたのは「プラセボ使用の適切性について」、次いで「被験者にとってほとんど利益のない研究の可否について」だった。望ましい改善策としては、「IRBのための具体的な判断基準を設ける」ことが最も多く挙げられた。

7.委員のために教育研修の機会を設けているIRBは少なく、教育研修の機会は「ない」と答えたIRBが89.6%を占めた。一方、教育研修の機会が「あった方がよい」と答えたIRBは80.8%に上った。望ましい研修方法として多く挙げられたのは、「講義」「事例検討会」「模擬IRB」などであった。

考察と結論

ある地域に存在するIRBの90%以上を正確に把握できた今回のような調査はまれであり、IRBの実態を示す貴重なデータが得られたと考えている。調査の結果、数々の問題が浮き彫りになった。

アンケート結果としては表せないが、聞き取り調査により、IRBとは「治験を審査する委員会」のことだと誤解しているところが多いことがわかった。臨床研究を審査する委員会ならすべてIRBに該当するはずだが、治験以外の臨床研究の審査だけを担っている委員会には、その委員会がIRBだという認識がないところが多かった。

そういう委員会では、委員の構成についても倫理指針の要求を満たしていないところが多く、倫理性の審査のみで、科学性については審査していないと答えた委員会も少なからずあった。

さらに問題なのは、治験以外の研究はIRBの審査から漏れている可能性が示されたことである。治験以外の臨床研究には法規制がないことが、このような誤解や逸脱を生む原因であろう。

最も知りたかったことの一つである委員教育については、大部分のIRBが必要性を感じながらもその機会はほとんどないことが明らかとなった。

今後、調査対象となった福岡県内のIRBに連絡会(ネットワーク)を設け、委員のための教育プログラムを開発し、講習会や各種メディアを通じて実効性のある教育研修活動を行いたい。

※謝辞
各施設に出向いて聞き取り調査を実施していただいた調査員の濱田有紀さん、中嶋美樹さん、松本純子さん、また、調査結果の解析を手伝っていただいた上口愛さんに、この場を借りて感謝いたします。