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倫理審査の手順

どのような仕事もそうですが、倫理審査にもコツがあります。限られた時間で、ポイントを外さず、いい意味で要領よく審査を行うには、このコツを身につける必要があります。ある程度の場数を踏まなければ本当に体得することはできませんが、少しでも早く身につくように、時間の流れに合わせて、審査の要領を実践的に解説します。

1. 事前ヒアリング

時間的な制約が大きく、効率的に審議を進めることが強く求められる倫理審査委員会も多いと思います。この問題を解決するため、委員会によっては、審議の論点や懸念される事柄を整理し、研究者や依頼者から審査の前に見解を求めておく「事前ヒアリング」を実施することがあります。

事前ヒアリングは正規の審査ではないので、GCP省令や倫理指針などの規制対象とはなりませんが、あらかじめ、協議に参加するメンバー、位置づけ、ルール、特にチェックしたいポイントなどを明確にし、標準業務手順書などで明確にしておく必要があります。

以下は、事前ヒアリングにおけるチェック項目の例です。

  • 提出資料の過不足
  • 被験薬の安全性・有効性に関するデータ
  • 試験デザインの妥当性
  • 試験薬・併用薬の供給、検査の実施体制
  • 患者の費用負担、補償や賠償の措置
  • 説明文書の内容、苦情・相談の受け付け窓口

事前ヒアリングの開催は必須ではなく、運用方法は各委員会で決めることができます。倫理審査委員会事務局の機能が充実している場合、事務局スタッフが行うことが多く、方法は、書面調査であったり、依頼者や研究者との面談であったりと様々です。事前ヒアリングの結果は、倫理審査委員会に報告書として提出され、審議資料となる場合が多いと思われます。ただし、事前ヒアリングはあくまで審査の補助であり、これが事実上の審査となるような事態は絶対に避けなければなりません。

事前ヒアリングには、審査の能率を高めたり、不要な指摘事項を回避させ、承認の遅れを防いだりするメリットがあります。特に、科学性に関する事前評価はたいへん有効です。一方、研究者や依頼者からは、事前の準備期間が長くなるのでデメリットと見られる可能性があります。

なお、審査において、研究者や依頼者の出席が必要か、審査員の補充や専門家の招聘が必要か、専門委員会などの見解や審査結果が必要かなどは、審査前に決定されなくてはなりません。このような判断は、委員会事務局がしなくてはならない重要な業務であり、標準業務手順書で規定されるべきです。

2. 事前検討

倫理審査の会場は、委員会としての判断を決定する場であって、情報収集の場ではありません。したがって、倫理審査を行う者は、資料に初めて目を通したのが審査の会場だった、などということは避けなければなりません。必ず、事前に資料を受け取り、中身を読んで理解してください。

また、すべての資料が事前配布されるわけでなく、緊急性の高い事柄に関する資料や、一部修正、一部追加の資料は、会議当日に配布されることがあります。当日配布資料に対応するためにも、事前配布資料を前もって検討することは、審査員の重要な仕事となります。

ここでは、事前検討のポイントを3つに分けて解説します。

1) 事前配布資料

倫理審査委員会の最大の使命は、臨床研究実施の可否に関する「判断」を下すことですので、その判断に必要な資料が整っているかどうか、事前に確認しなくてはいけません。(ただし、審査手続き上の必要書類は、事務局がすでにチェックしていると考えて構いません。)

委員は、委員会事務局から資料を事前に受け取り、可能なかぎり目を通します。審査のタイプには、大きく分けて、新規に開始される研究の実施の可否に関するものと、研究継続の可否に関するものの2つがあります。まず、どういった判断を委員会が要求されているのかを知るため、事前配布された審議資料全体を確認します。同封される審査依頼書のコピーに資料の一覧が書いてありますので、確認に利用します。

事前に資料を確認する目的は、審査の当日、情報不足のために審査不能となることを回避することです。したがって、追加情報が必要だと思う場合は、委員会当日に研究者や依頼者が出席するかどうか確認し、必要なら出席の要請を事務局へ行います。何か指摘事項がある場合は、事務局へ事前に連絡することが、審査を円滑に進める上で重要です。

次の項で、審議資料の確認に必要な視点を、簡単にまとめます。

2) 研究計画書の読み方

研究計画書(プロトコール、実施計画書などと呼ぶ場合もありますが、基本的には同じものです)には、臨床研究全体の目的と方法、医療現場での実際の進め方などが主に記されています。研究計画書がない研究は、原則として、研究とは認められません。研究計画書は、審査のためではなく、研究者や依頼者のために書かれるものなので、科学的な背景を持たない委員(いわゆる「非専門家」や、一般を代表する者)にとっては非常に読みにくいものかも知れません。また、たとえ科学的な背景のある委員でも、専門分野の違いなどにより、馴染みのない表現に出会ったり、理解が難しかったりする場合がよくあります。研究計画書を見て理解が難しいと感じた委員は、躊躇することなく、被験者向けの説明文書資料の確認から始めることをお勧めします。

委員は、少なくとも次の2つの視点で研究計画書を見なければなりません(2008年6月20日、東京で開催された「臨床研究倫理国際シンポジウム」でのEzekiel Emanuel氏の講演を参考にしました)。

A. 社会的な価値(social value)
B. 科学的な妥当性と正当性(scientific validity)

研究の「社会的な価値」は、研究の目的に関する価値であり、研究計画書の序段の部分から判断できるはずです。研究の課題名、背景(動機)、目的、引用文献などの項目から、研究者は、どのような価値がその研究にあると考えているのかを読み取ります。「社会的な価値」については、委員の科学的背景の有無にかかわらず、全員が判断できるような内容になっていなければなりません。

では、Aの「社会的な価値」とは、具体的にどういうことをいうのでしょうか。ここでは、次の3つを念頭に、資料をお読みになることをお勧めします。

  • (1) 一般的知識の獲得、前進につながるかどうか。
  • (2) 被験者、患者、地域社会、人類全体の健康の改善が見込めるかどうか。
  • (3) 学会発表や論文発表など、情報の一般化や公表が目的の一部となっているかどうか。

このような判断を可能とする内容が明示されていれば、次にBの「科学的な妥当性・正当性」、つまり、その目的を達成するための手段(方法)についての吟味に移ります。

手段として、研究計画書に記載されていなければならない項目には、試験デザイン、被験者選択の基準と方法、評価項目(主要評価項目・副次評価項目)、評価方法、試験期間などがあります。また、医療機関などの施設要件、研究者となる医師や医療従事者の資格要件を考慮に入れる必要性もあります。これらの項目を吟味するには、それらに見合った科学的背景が委員にとって必要となります。

具体的な着目点は、以下の4つになるでしょう。

  • (1) 研究方法が正確で、現実的かどうか。
  • (2) 信頼できる、解釈可能なデータが生み出されるかどうか。
  • (3) 検出力が十分で、被験者の確保が見込めるかどうか。
  • (4) 手法、評価方法が偏っていないかどうか。

研究方法に関するB「科学的な妥当性・正当性」の判断は、研究目的に関するA「社会的な価値」の判断と密接に関連しますので、総合的に考える必要があります。科学的背景のない委員にとっては判断が難しいと思いますが、必要に応じて、事務局に解説を要請しても構いません。

AとBの視点で研究計画書を読み、AとBのいずれか片方でも欠落していると判断する場合は、これ以外の詳細資料があったとしても、この時点で「却下」という判断を下して構いません。時間の節約のためにも、これ以上の資料の確認は必要ないでしょう。

Bに関してしばしば議論になるのは、研究計画の中に「プラセボ対照」や「ウォッシュアウト期間」の設置など、無治療期間や治療強度を意図的に管理する期間がある場合です。「プラセボ対照」や「ウォッシュアウト期間」が適切かどうかの判断は、倫理審査委員会の重要な役目です。これらについては、第8章第2項で解説します。

3) 説明文書の読み方

研究計画書を読むのが難しいと感じた委員は、被験者向けの説明文書から読み始めるとよいでしょう。その場合でも、「研究計画書の読み方」と同じ姿勢で、研究計画全体を理解します。

なお、たとえ研究計画書を読める専門家であっても、説明文書を先に読む方がいいかも知れません。それは、説明文書だけを読む被験者の立場に立って、研究内容が正確に伝わって来るかどうかを体験できるからです。

さて、説明文書は被験者のための解説書ですが、倫理審査委員会の委員にとっては、被験者保護を実践する重要なアクションツールの一つです。ここでは、説明文書を通じて委員がどのように被験者保護を実践するか、という視点で読み方を解説します。

説明文書に記載するべき内容は、一般の臨床研究については「臨床研究に関する倫理指針」で、治験についてはGCP省令の運用通知で、詳細が規定されています。どちらも近似した内容であり、その違いを議論することはほとんど意味がないので割愛します。

GCP省令の運用通知では、全部で18項目が指定されています(表1)。このため、説明文書には10〜20ページを要する場合がほとんどです。

説明文書を書くのは研究責任者の役目ですが、治験の場合、依頼者から提供された説明文書の見本に、調整や修正を加えて作成する場合がほとんどです。医療機関側が雛型を準備しており、自主的に作成する場合もあります。一般の臨床研究(医師の自主研究)でも、様々な雛形を用いて説明文書を作成することが普通です。したがって、説明文書における説明の流れや雰囲気は、依頼者、研究責任者、医療機関などにより様々です。情報量の多さにビックリする場合もあれば、少なさに驚くこともあります。

説明文書を読む際には、まず、次の3つを確認しておきましょう。

  • (1) 読むのは誰なのか。同意書の署名は誰がするのか。
  • (2) どのような状況で、誰が誰に説明するのか。
  • (3) 説明文書を補足する資料はあるか。

大部分の臨床研究では、被験者として研究に参加する可能性のある人が、自分自身で説明文書を読み、理解し、同意書に署名します。しかし、一部の臨床研究には、未成年者を対象とするもの、代諾者の署名を求めるもの、被験者以外に説明を要するもの、家族やヘルパーなど介護者に協力を求めるものなど、説明の対象者が多岐にわたることがあります。入院中、外来通院中、健康診断中、救急時など、説明が行われる状況も異なります。誰に、どのような情報が、どのような状況下で伝えられようとしているのか、被験者保護のために、全体を把握して評価する必要があります。

上記の3点を踏まえて、研究の内容がわかりやすく記載されているか、平易な文章で表現されているか、専門用語について解説されているか、などが評価の基準となります。また、次のような表現は好ましくないとされています。

  • ア. 自由意思による参加決定及び同意撤回を阻害する表現。
  • イ.権利を放棄させる旨、あるいは、それを疑わせる記載。
  • ウ. 医療機関や依頼者の責任を免除、軽減させる旨、あるいは、それを疑わせる記載。
  • エ. 誘引的な表現。

よく見聞する問題点は、些細な修正に審議の時間が費やされたり、その結果、審議の結論が安易に持ち越されたりすることです。「些細な」とは、上記の(1)〜(3)やア〜エに無関係の、被験者保護の実践に関係しない部分のことです。そのような修正は、誤字・脱字の類として、まとめて迅速に処理されることが望ましいと思われます。

説明文書がある程度長くなることは、国内ルール上、仕方のないものとして割り切るしかありません。規則上必要な説明をすべて並べると、いたずらに読みにくい説明文書になる、という指摘は理解できますが、ルールはルールとして守らなくてはなりません。

ただ、いくら長文の解説をしたところで、書面情報だけでは伝わらないことも多くあります。被験者やその家族が追加説明を求めたり、苦情を申し立てたりすることが容易にできるように、相談窓口、担当者、連絡方法などがわかりやすく書かれているかどうかは、説明文書の中で最も重要なポイントかも知れません。

また、どのような環境下で説明を実施するのか、説明にどれくらい時間を費やすのかといった条件は、説明文書には通常書かれていませんが、重要な事柄です。委員は、そのような状況を想像しながら、説明文書を読むべきです。

3. 審査の基本ルール

委員の定数や審議の成立条件は、各倫理審査委員会のルール(委員会規程)に基づいて決まり、標準業務手順書の中に明記される必要があります。

本項でいう「ルール」とは、委員会規程のことではなく、臨床研究の審査に関わる委員全員が理解して実践されるべき「常識的な約束事」とお考えください。

それは以下の事項です。

  • (1) 進行役を決めて議事を進める。
  • (2) 書面審査である。
  • (3) 情報収集の場ではない。
  • (4) 限られた時間内に結論を出す。
  • (5) 修正がある場合は具体的な指示をする。
  • (6) 議論は議事録に残す。

ここでは、他の場所で説明されていないルール(2)について解説を加えましょう。

倫理審査は、基本的には、提出された書類のみを対象とする審査です。なぜなら、科学性を判断するにも倫理性を判断するにも、その根拠となるのは研究計画書がすべてだからです。研究計画書には、当該臨床研究に関するあらゆる情報が明記されていなければなりません。研究責任者や依頼者に出席を求めることはありますが、それは不足している情報を補うためであり、あくまで参考にすぎません。不足している情報について、研究責任者や依頼者がいくら口頭で補足説明しても、研究計画書に記載されていないのであれば、そのまま認めることはできません。研究計画書はそれほど重要な書類なのです。

逆に言えば、研究責任者や依頼者にとって、委員会に求められない限り、委員会への出席は義務ではありません。研究計画書とは別に、必要以上に詳細な「審査申請書」を提出させる委員会事務局もあるようですが、審査対象は研究計画書だけなので、それ以外の事務手続きはなるべく簡略にし、研究者の力を研究計画書に集中させるべきです。

4. 新規課題

前項のルール(4)にあるように、倫理審査委員会は結論を出すことを求められます。合理的な理由がない限り、結論を持ち越して保留とすることは避けるべきです。一旦、承認という結論が出ますと、依頼者と契約が結ばれた後(受託研究の場合)、研究が開始され、被験者が募集されます。

新規課題は、審議資料が特に多いので、次のような能率的な方法を組み合わせて用いている委員会もあります。「議論が起きない」と悩む委員会も多いと聞きますが、こうした方法を導入することで解決できるでしょう。また、おそらく他にも、よい方法はあると思います。

  • 主担当制
       入念な資料の読み込みを行う専門委員を、課題毎に事前指定します。
  • 分担制
       委員の特性に合わせて、担当委員を、内容毎に事前指定します。
  • 研究者や依頼者の出席説明
      研究の段階や内容によって、出席を求めます。
  • チェックボックス制
       審議項目を列記して、順番に審議を進めます。
  • 事前ヒアリング報告
       事前ヒアリングで指摘された事項から、審議を進めます。

実際の審査は、次のような順番で進行します。

  • (1)委員会の成立要件の確認、進行役の決定。
  • (2)研究課題の説明と論点の整理。
    進行役、主担当者、分担者などが行いますが、依頼者・実施医師などによる趣旨説明も適宜行われます。
  • (3)質疑応答と議論。
  • (4)当該研究の関係者がいる場合は退席。
  • (5)採決のための議論。
  • (6)採決、結果通知内容の確認。

各委員の事前検討で浮かんだ疑問点や確認事項が議論のきっかけになりますが、議論の中で新たに発生し、解決するべき懸案についても、議論を尽くします。進行役の委員は、出席した委員すべてに、意見を述べる機会を作るように配慮するべきです。

修正の条件が発生する場合や保留とする場合は、具体的な修正指示や理由が必要です。たとえば、「説明文書がわかりにくいので、わかりやすく書き直すこと」、「何となく安全性が疑わしいから、もっと安全性データが必要」という類の修正指示や保留理由は、言われた方も対応に困りますし、審査後の対応が複雑になります。どこをどのように修正すれば承認できるのか、どのようなデータが追加提出されれば承認できるのか、具体的な指示が出されるべきです。

ひと通り議論が済んだと思われた場合、委員長もしくは進行役は、採決のため、採決と運営に関係のない人をすべて退席させます。採決に有形・無形の圧力がかかることを防ぐため、委員も含めて、当該研究と関係のある人を採決の場に同席させてはいけません。

審議の進め方は、委員会による違いがあって当然です。ここに示したものは、その一例に過ぎません。法令上の手続きに固執するのではなく、社会に対する責任を果たすという委員会の使命が達成できるように、規則の運用は柔軟に行われることが何よりも重要であると思います。

5. 継続審査

一旦承認された研究課題でも、最低年1回の継続審査が要求されています。ここでいう継続審査とは、採決を保留された課題を続けて審議するという意味ではなく、英語でいえばannual reviewのことで、承認を与えた際の要件が変更されていないこと、承認条件が守られていることなどの確認が主な目的です。研究責任者が、研究の進捗状況、登録症例数、有害事象の発生状況、研究計画書や倫理指針の遵守状況などを、実施機関の長を通じて委員会へ報告することになっています。試験薬概要書の改訂チェックも年1回することになっていますので、これによる研究実施状況の変化についても確認します。

継続審査は、随時実施する委員会もあれば、決まった月にすべての課題について実施する委員会もありますが、いずれにせよ、継続審査がいつ実施されるか、事務局は研究責任者へ伝えておく必要があります。

規則上は年1回で結構ですが、進捗状況報告という観点から、年間複数回の継続審査を求める委員会も存在します。報告書作成が必要なので、研究者側にとって負荷となることは間違いありません。しかし、施設の状況の定期的なチェックが被験者保護につながるという側面もたしかにあります。

6. 研究計画の変更

研究計画書の変更は、被験者や研究実施機関に直ちに影響を及ぼすものと、そうでないものに分類されます。前者については、倫理審査委員会で速やかに調査、審議を行い、判断を示さなくてはなりません。後者については、後で述べる迅速審査で処理できるものが多いと思います。

7. 有害事象報告

研究責任者や研究実施機関には、有害事象を報告する責務が、GCP省令や「臨床研究に関する倫理指針」などで規定されています。報告の仕方や期限については、報告事象や報告相手によって異なります。治験においては、有害事象の情報収集と分析を行う主な責務は、依頼者や規制当局が負っています。

倫理審査委員会での審査の視点に立つと、有害事象報告は大きく2つに分かれます。

  • (1) 審査対象の研究実施機関で発生した有害事象
  • (2) 依頼者や主任研究者などを通じて報告される安全性情報としての有害事象

これら2つは性質を異にするため、分けて説明しましょう。

審査対象の機関で発生した有害事象

当該機関で発生していますので、被験者に必要な措置や処置が講じられているか、報告が手順通りになされているか、報告されている情報が十分か、予防措置が検討されているかなどについて、直ちに審議されなくてはなりません。情報が不足していれば追加情報を要求します。補償・賠償の必要性や進捗状況についても、委員は意見を述べるべきです。

安全性情報としての有害事象

特に治験では、安全性情報として大量の有害事象報告が次々に伝えられるため、これらにどう対処すればよいのか、倫理審査委員会の多くが困っているといわれます。委員会が戸惑う理由は、情報の量(数)が多いこともさることながら、それらの情報の多くは評価できるだけの質を欠いているからです。しかしながら、情報の蓄積や安全性情報の内容に基づいて、被験薬の概要書が改訂されたり、患者向けの説明文書が改訂されたりすることがあり、個々の情報をおろそかにすることはできません。

安全性情報を審議する際には、研究計画書の改訂、説明文書の改訂、再同意の取得などが必要と考えるかどうか、あらかじめ研究責任者(試験責任医師)や依頼者の見解を聞いておくのがよいと思われます。倫理審査委員会は、被験者保護の立場から、説明文書改訂と再同意取得の必要性を十分審議する必要があり、それらの見解は重要な参考となるでしょう。GCP省令第54条では、被験者の意思に影響を与える情報が得られた場合の責任医師の責務を規定しています。倫理審査委員会はその判断の妥当性を検討することになります。

質と量の両面に問題のある安全性情報を吟味することはたしかに大きな負担ですが、倫理審査委員会はチェック機構としての役割を果たさなければなりません。最近、再同意取得に関する判断のアルゴリズムが海外から発表されています。(Dal-Ré et al. Clin. Pharmacol. Ther. 83, 788-793, 2008)。チェック機構としての役割を効率的に果たすためには、適切なアルゴリズムによる安全性情報の分類が役に立つかも知れません。

8. その他の報告と審査

研究によっては、たとえば海外の開発状況などにより、特殊な報告への対応が諮られる場合があるかも知れませんが、多くの場合、定型化された審査の流れに乗せればよいはずです。

審査の対象とするべきかどうか、どのように審査すればよいか判断がつかない場合は、委員長と事務局が協議して方針を決めなくてはいけません。その際、委員全員が納得できるように、委員会へ報告する仕組みを準備しておくことが重要です。通常、「その他」に分類される事象については、委員会の審議にかけて対応する方が無難だと思われます。

9. 採決

採決は、委員全員の意見が述べられ、十分な議論が交わされた後に、行われなければなりません。委員会としての意思を決定する基準は、標準業務手順書に記載されていなければなりません。承認のために必要な採決の条件は委員会によって違いますが、多数決で決する委員会は少なく、出席者の全員一致を求める委員会が多いようです。これは、倫理(皆が認めるルール)に基づく決定という主旨から見て、妥当な方法と思われます。

10. 迅速審査

この場合の「迅速」は、英語ではexpedite(早く片付ける)に相当します。つまり、「迅速審査」とは、スピードが速いというよりも、簡単な手続きで行われる「簡易審査」という意味にとらえる方が妥当です。委員会を開催して行う「通常審査」に対する「簡易審査」です。

もちろん、中には急がなければならない審査もありますが、迅速審査の対象となるのは、通常、被験者保護に直接的影響を与えない変更などが多く、時間的な速さを求められることはそれほど多くはありません。

迅速審査の審査結果は、通常「不承認」や「却下」となることはありません。なぜなら、「不承認」や「却下」となりそうな事項は、開催審査(通常審査)で協議すべきだと思われるからです。迅速審査の結果は、次の委員会開催時に報告することにより他の委員に周知します。

迅速審査の要件について、2008年改正の「臨床研究に関する倫理指針」に、以下の3つが示されました。

  • (1) 研究計画の軽微な変更。
  • (2) 共同研究であって、既に主たる研究機関において倫理審査委員会の承認を受けた臨床研究計画を他の共同臨床研究機関が実施しようとする場合の臨床研究計画の審査。
  • (3) 被験者に対して最小限の危険(日常生活や日常的な医学検査で被る身体的、心理的、社会的危害の可能性の限度を超えない危険であって、社会的に許容される種類のものをいう。)を超える危険を含まない臨床研究計画の審査。

しかし、何をもって「軽微な変更」や「最小限の危険」と見なすかは、各倫理審査委員会の判断に任されます。

なお、(2)に該当する研究計画のすべてを迅速審査の対象とするのは、少なくとも現段階では危険です。なぜなら、「主たる研究機関」の倫理審査委員会が十分な審査能力を有していることが、(2)を認める前提条件ですが、現在の日本の倫理審査委員会には質の保証がないからです。倫理審査委員会の委員長は、(2)に該当する研究を迅速審査の対象としてよいかどうか、極めて慎重に判断するべきであり、「主たる研究機関」の倫理審査委員会の質が確認できない場合は、通常審査を行う方が無難です。

迅速審査の方法については、指針には明確な規定がありませんので、各倫理審査委員会が決め、委員会の手順書に明記されるべきです。

迅速審査に関わる人数も委員会が決めればよく、現状では1名でも可能です。通常は、委員長や、委員長がその都度指名する委員が行う場合が多いようです。ただ、委員の複数名が担当する場合、担当委員が集まって審査をするべきだという見解があります。しかし、1名で審査するのは許されるのに、複数名だと集まるべきだとするのは、論理的に矛盾があろうかと思われます。意見は様々ですが、合理的な審査体制を築くことが重要だと思います。

表1. 治験の説明文書に含まれるべき事項

「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」第51条の運用通知からの抜粋です。治験以外の一般臨床研究の場合は、研究のタイプによって該当しない項目を省略できます。

(1)
治験が研究を伴うこと。
(2)
治験の目的。
(3)
治験責任医師又は治験分担医師の氏名、職名及び連絡先。
(4)
治験の方法(治験の試験的側面、被験者の選択基準、及び無作為割付が行われる場合は各処置に割り付けられる確率を含む。)。
(5)
予期される臨床上の利益及び危険性又は不便(被験者にとって予期される利益がない場合には、被験者にその旨を知らせること。)。
(6)
患者を被験者にする場合には、当該患者に対する他の治療方法の有無及びその治療方法に関して予測される重要な利益及び危険性。
(7)
被験者の治験への参加予定期間。
(8)
治験への参加は被験者の自由意思によるものであり、被験者又はその代諾者は、被験者の治験への参加を随時拒否又は撤回することができること。また、拒否・撤回によって被験者が不利な扱いを受けたり、治験に参加しない場合に受けるべき利益を失うことはないこと。
(9)
モニター、監査担当者、治験審査委員会等及び規制当局が医療に係る原資料を閲覧できること。その際、被験者の秘密は保全されること。また、同意文書に被験者又はその代諾者が記名捺印又は署名することによって閲覧を認めたことになること。
(10)
治験の結果が公表される場合であっても、被験者の秘密は保全されること。
(11)
被験者が治験及び被験者の権利に関してさらに情報の入手を希望する場合又は治験に関連する健康被害が生じた場合に照会すべき又は連絡をとるべき実施医療機関の相談窓口。
(12)
治験に関連する健康被害が発生した場合に被験者が受けることのできる補償及び治療。
(13)
治験に参加する予定の被験者数。
(14)
治験への参加の継続について被験者又はその代諾者の意思に影響を与える可能性のある情報が得られた場合には速やかに被験者又はその代諾者に伝えること。
(15)
治験への参加を中止させる場合の条件又は理由。
(16)
被験者が費用負担をする必要がある場合にはその内容。
(17)
被験者に金銭等が支払われる場合にはその内容(支払額算定の取決め等)。
(18)
被験者が守るべき事項。