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指針11:臨床試験における対照の選択

一般原則としては、診断的、治療的、予防的介入試験の対照群に割り付けられた対象者は、すでに確立された有効な介入方法を受けるべきである。ある状況の下では、プラセボまたは「無治療」のような、別の比較対照の使用が倫理的に容認される可能性がある。

プラセボは以下の場合なら用いられてもよい。

  • すでに確立された有効な介入方法がない場合。
  • すでに確立された有効な介入方法を差し止めても、せいぜい、一時的な不快や症状改善の遅れをもたらす程度の負担しか対象者にもたらさない場合。
  • すでに確立された有効な介入方法を比較対照として用いると、科学的に信頼できる結果を得ることは期待できず、かつ、プラセボを使用しても、深刻な被害や取り返しのつかない被害を対象者にもたらすリスクが加わることがない場合。
指針11に関する解説
■比較臨床試験で一般に考慮すべきこと

研究中の診断的、治療的、または予防的介入方法の試験デザインは、相互に関連する科学的および倫理的問題を、研究依頼者、研究実施者、および倫理審査委員会に提起する。研究実施者は、信頼性のある結果を得るため、試験群に割り付けられた対象者への試験的介入方法の効果を、同一の集団から抽出され対照群に割り付けられた対象者における対照的介入方法の結果と比較しなけれなならない。無作為化は、歴史的対照や文献的対照などの他の方法が、科学的および倫理的に正当化される場合を除き、各種比較群へ対象者を割り付けるのに望ましい方法である。無作為化による治療群への割り付けは、通常の科学的優位性に加えて、試験参加により予想される利益とリスクが全ての対象者に平等に配分されやすいという利点をもたらす。

臨床試験は科学的に信頼性のある結果を生み出せない限り、倫理的に正当化されない。研究目的が、介入の有効性と安全性を確立することである場合、プラセボ対照の使用は、実薬対照よりも科学的に信頼性のある結果を出す可能性が高い。多くの場合、有効な介入方法を無効な介入方法と区別する試験の能力(その検出感度)は、対照がプラセボでない限り保証されない。しかし、プラセボの使用が、対照群の対象者から確立された有効な介入方法を奪い、それが対象者を重大なリスクに曝すとすれば、特に、それが取り返しのつかないことであるならば、プラセボを使用することは明らかに倫理に反する。

■現行の有効な代替的方法がない場合のプラセボ対照

臨床試験の対照群におけるプラセボの使用は、「ヘルシンキ宣言」(第29項)に述べられているように、「証明された予防法、診断法、治療法が存在しない場合」のみ倫理的に容認できる。通常、このような場合、プラセボは無介入よりも科学的には望ましい。しかし、ある特定の状況では、代替的なデザインでも科学的および倫理的に容認でき、むしろ望ましいかもしれない。一例として、外科的な介入方法の臨床試験が挙げられる。なぜなら、外科的介入の多くにとって、適切なプラセボを考案することは不可能、もしくは倫理的に容認されないからである。もう一つの例として、ある種のワクチンの臨床試験では、研究実施者は、臨床試験中のワクチンと無関係のワクチンを‘対照’群の人々に提供することがあるかも知れない。

■わずかなリスクのみを伴うプラセボ対照試験

プラセボと実治療に無作為に割り当てられる患者/対象者の状態が、わずかな血圧上昇や血清コレステロールの若干の上昇など、生理学的測定においてわずかな変化のみである場合、あるいは、既存の治療の遅延や中止が、一時的な不快症状(例えば、普通の頭痛)を引き起こすのみで重篤な有害反応を生じない場合は、プラセボ対照デザインは倫理的に容認でき、科学的見地から望ましいとされる。倫理審査委員会は、確立された有効な介入方法の差し止めによるリスクが、本当にわずかで短期間しか続かないことについて、完全に納得がいかなければならない。

■実対照では信頼性のある結果が得られない場合のプラセボ対照

既存の有効な介入方法ではなくプラセボ対照を用いることに関する、上記と関連はあるが別の理論的根拠は、既存の有効な介入方法に関する文献が、研究中の介入方法への科学的信頼性の置ける比較対照としてそれを用いるには不十分であり、したがって、プラセボの使用なくしては、科学的に信頼できる研究をデザインすることは困難、あるいは不可能ですらあるということである。しかしながら、これは、臨床試験において既存の有効な介入方法を対照群から奪うことに対して、倫理的に常に容認できる根拠ではない。そうすることが、重篤な危害のリスク、特に取り返しのつかない危害のリスクを付加しない場合にのみ、倫理的に容認できる。介入方法が目的とする状態(例えば、癌やHIV/AIDS)が深刻なため、対照群から既存の有効な治療を奪うわけにはゆかないこともある。

後者の理論的根拠(実対照では信頼性のある結果が得られない場合)は、重要性の面で前者(わずかなリスクのみを伴う試験)とは異なる。わずかなリスクのみを伴う臨床試験においては、研究中の介入方法は、風邪や脱毛のような、それほど深刻ではない状態を目的としている。そのため、試験期間中、既存の有効な介入方法を実施しなくても、対照群が奪われる利益はわずかである。プラセボ対照デザインを用いることが倫理に反しないのは、この理由による。実対照を用いて、いわゆる「非劣性」や「同等性」試験をデザインすることがたとえ可能だとしても、このような状況ならば、プラセボ対照デザインを用いても、なお倫理に反することはないであろう。いずれにせよ、研究者は、対象者の安全と人権が完全に守られること、対象候補者が代替治療法について十分な情報を与えられること、研究の目的とデザインが科学的に見て正しいことについて、倫理審査委員会を納得させなければならない。このようなプラセボ対照研究の倫理的許容性は、プラセボ使用期間が短くなるにつれ増加し、また、耐え難い症状が生じた場合、実治療(「回避治療」)への切り替えを許す研究デザインとなっている場合には増加する。

■確立された有効な介入方法以外の比較対照の例外的使用

ふつう経済的または物流的な理由で、既存の有効な介入方法が利用できず、将来的にも利用可能となることが見込めない国や地域共同体で使うことを目的として、ある治療的、予防的、診断的介入方法を開発するためにデザインされた研究には、一般原則への例外が適用されることがある。そのような研究の目的は、当地では利用できない既存の有効な介入方法への有効な代替法を、その国や地域の人々に利用可能とすることである。したがって、提案された研究的介入方法は、研究対象者が募集される集団の保健衛生ニーズに応えるものでなければならず、その方法が安全かつ有効だとわかったら、その集団で無理なく利用可能になるという保証がなければならない。また、科学審査委員会と倫理審査委員会は、研究対象集団の保健衛生ニーズに適した科学的に信頼できる結果を生むとは考えられないため、既存の有効な介入方法は比較対照として使用できないことを納得しなければならない。このような状況では、倫理審査委員会は、プラセボ、無処置、または現地で行われている治療法など、既存の有効な介入方法以外の比較対照が使用される臨床試験を、承認することが可能である。

しかしながら、貧しく不利な状況に置かれた集団からの搾取につながる可能性があるとして、既存の有効な介入方法以外の比較対照の例外的使用には、断固として反対する人々もいる。この反対は、以下の3つの論点に基づく。

  • 既存の有効な介入方法を比較対照として用いればリスクを回避できるかも知れない時に、プラセボ対照を用いることは、重大な危害や取り返しのつかない危害のリスクに研究対象者を曝しかねない。
  • 既存の有効な介入方法を比較対照として用いることが、科学的に信頼性のある結果を生み出さない状況というものに、全ての科学専門家が同意しているわけではない。
  • 研究に参加しなくても既存の有効な介入方法に容易にアクセスできる集団で同じデザインの研究を実施することは非倫理的だと考えられる場合、その有効な介入方法が使えないという経済的な理由は、資力に限りのある国でのプラセボ対照研究を正当化できない。
■確立された有効な介入方法が実施国で利用できない場合のプラセボ対照

ここで扱う問題は、臨床試験の対照群は確立された有効な介入方法を受けるべきであるという一般原則への例外が、どのような場合に認められるべきかということである。

例外を申請する通常の理由は経済面や物流面にあり、研究が行われる国の財政やインフラ整備を考えれば、研究中の介入なら利用可能となるかも知れないが、確立された有効な介入方法が一般的には使用されていない、あるいは入手できないということである。

プラセボ対照試験を提案するもう一つの理由は、確立された有効な介入方法を対照として使用すると、研究が実施される国に関して科学的信頼性のあるデータを生み出すことはできないだろうということである。確立された有効な介入方法の有効性と安全性に関する文献上のデータは、試験実施を提案された集団の状況とは違った状況の下で実施されたものかも知れず、議論があるだろうが、このことが、確立された有効な介入方法の試験における使用を信頼性のないものとするかも知れない。その理由の一つは、疾患や状態の表れ方は集団によって様々であること、言い換えれば、他の制御されていない因子が、既存データを比較目的で用いることを無効にするかも知れないことである。

これらの状況におけるプラセボ対照の使用には、以下の理由により、倫理的に議論の余地が残されている。

  • 研究の依頼者は、確立された有効な介入方法へのアクセスが容易な国では実施することが困難あるいは不可能な研究の実験台として、貧しい国々や地域共同体を利用するかも知れず、また、研究中の介入は、その安全性と有効性が証明された場合、確立された有効な介入方法がすでに利用されている国々で市販され、実施国では市販されない可能性が高い。
  • 研究対象者は、実処置群も対照群も、両方とも、重篤な、命に関わる可能性のある病気を持っているかも知れない患者である。彼らは通常、他の多くの国々にいる同じような患者にとっては利用可能な確立された有効な介入方法を利用する手だてを持っていない。科学的に信頼できる試験の要件によると、患者/対象者の担当医かも知れない研究実施者は、彼らの一部をプラセボ対照群に割り付けることを求められる。これは、患者に対してひたすら献身的でなければならない受託者としての医師の義務への違反と見られかねない。確立された有効な治療を患者に用いることができるかも知れない場合はなおさらである。

プラセボ対照の例外的使用に賛成する論拠の一つは、確立された有効な介入方法は、一般的には利用できないか入手する余裕がなく、将来的にも利用可能性や余裕が望めない国の保健衛生当局が、国民の健康上の問題に対する手頃な介入方法の開発を求めていることであろう。それなら、保健衛生当局が国民の健康に責任を持ち、有益と見られる介入方法を試す保健衛生上の確かな根拠があることから、プラセボを用いるデザインが搾取的であり、そのため倫理に反するという懸念を抱く理由は小さくなるかも知れない。このような状況下では、倫理審査委員会は、対象者の権利と安全性が守られるなら、申請された試験を倫理的に認められると判断してもよい。

倫理審査委員会は、確立された有効な介入方法よりもプラセボを用いる方が倫理的に容認できるかどうか判断するため、状況を入念に分析する必要がある。委員会は、その国では本当に、確立された有効な介入方法が利用可能、実施可能となりそうにないことについて納得させられる必要がある。しかしながら、これを判断するのは難しいだろう。なぜなら、十分な粘り強さと工夫により、以前は入手できなかった医療用製品を利用可能とする方法が見つかるかも知れないことは明らかで、それにより、プラセボ対照の使用により生じる倫理的問題を回避できるからである。

プラセボ対照試験を提案する理論的根拠が、確立された有効な介入方法を対照として使用すると、実施国に関して科学的信頼性のあるデータを生み出せないということである場合、その国の倫理審査委員会には、確立された有効な介入方法を対照群に用いると研究結果が無効となるかどうか、専門家の意見を求めるという選択肢がある。

■プラセボ対照試験の代替としての「同等性試験」

このような状況の下で、プラセボ対照デザインの代わりに用いられる方法の一つとして、「同等性試験」がある。これは、研究中の介入方法を確立された有効な介入方法と比較して、科学的に信頼性のあるデータを得るものである。確立された有効な介入方法を利用できない国における同等性試験は、世界のどこかで現在使用されている確立された有効な介入方法より研究中の介入方法の方が優れているかどうかを判定するためにデザインされるわけではない。むしろ、その目的は、研究中の介入方法の有効性と安全性が確立された有効な介入方法と同等か、あるいはほぼ同等かを検討することである。しかしながら、確立された有効な介入方法と同等もしくはほぼ同等であると示された介入方法が、何もないよりはいいとか、その国で利用できるいかなる介入方法より優れていると結論付けるのは危険であろう。異なる国々で行われた一見同一の臨床試験の結果には、かなりの相違があるかも知れない。そのような相違がある場合は、確立された有効な介入方法がすでに利用可能な国々でそのような<同等性>試験を行うことは、科学的に容認でき、倫理的にも望ましい。

確立された有効な介入方法が入手可能、利用可能になる可能性は低いと倫理審査委員会が結論づけるに足る実質的根拠がある場合、委員会は、研究中の介入方法の有効性と安全性が確立され次第、対象となった国や地域共同体でそれを無理なく利用可能とする計画が合意されていることを、関連団体に確認するべきである。さらに、研究が国外の依頼を受けて行われる場合、承認は、通常、当地の保健衛生ニーズに関して研究を正当化することを含め、交渉と計画の過程に携わってきた依頼者と実施国の保健衛生当局次第となるはずである。

■プラセボ対照群への危害を最小化する方法

本指針の中で前に述べた根拠の一つによりプラセボ対照が正当化されるとしても、対照群に割り付けられることで起こりうる有害な作用を最小化する方法はある。

第一に、プラセボ対照群は無治療にする必要はない。研究中の治療法と標準的な治療法が異なる作用機序を持つ場合、上乗せ試験デザインを用いてもよい。試される治療法とプラセボとが、標準的な治療法にそれぞれ加えられる。標準的な治療法が死亡率や取り返しのつかない疾患の罹患率を下げることが知られているが、標準的な治療法を実対照とした試験は行えない場合、あるいは、そうすると解釈が困難になる場合、そのような試験は特別の位置を占める[医薬品規制調和国際会議(ICH)指針:臨床試験における対照群の選択と関連する問題(2000年)]。癌、HIV/AIDS、心不全など、生命を脅かす疾患の治療法の改善に関する試験において、完全に有効ではない介入方法、または耐えられない副作用をもたらすかも知れない介入方法の改善を見い出すのに、上乗せ試験デザインは特に有用な方法である。上乗せ試験デザインはまた、てんかん、リウマチ、骨粗鬆症などの治療法の研究においても用いられる。なぜなら、このような疾患における既存の有効な治療の差し止めは、進行性の身体障害や耐え難い不快感、またはその両方につながりかねないからである。

第二に、指針8の解説に示されるとおり、無作為化比較試験で試される介入方法が、死亡や障害を防止または延期するためにデザインされる場合、研究実施者は、独立した「データ安全性モニタリング委員会」(DSMB)による研究データの監視を研究計画書に定めることにより、プラセボ比較試験の有害な作用を最小化する。DSMBの役割の一つは、未知の有害反応から研究対象者を保護することであり、もう一つは、劣った治療法への不必要な長期曝露を回避することである。委員会は、ある研究中の治療法が有効であると示される時点を越えて試験が継続されないことを保証するため、有効性に関するデータの中間解析という手段を用いることにより、後者の役割を果たす。通常、無作為化比較試験の開始時点で、早期終了の基準が設けられる(中止規則または中止指針)。

場合によっては、DSMBは、ある特定の臨床試験が研究中の治療法の有効性をいつか示す確率を決定するためにデザインされた「条件付き検出力計算」の実施が求められる。もしその確率が非常に低いならば、その時点を超えて臨床試験を継続することは倫理に反するため、DSMBには臨床試験の終了を勧告することが求められる。

人を対象とする生物医学研究の大部分では、DSMBを設置する必要はない。有害事象の早期発見のため、研究が慎重に監視されることを保証するには、研究依頼者または研究実施責任者は、有害事象の監視システムやインフォームド・コンセント取得手順の変更の他、研究の早期終了をも検討する必要性について助言する責任者を指名する。