文部科学省科学研究費特定領域研究「性分化機構の解明」 *

領域活動

第3回領域会議開催報告

2006年9月11日(月)〜2006年9月13日(水) 兵庫県淡路市

領域会議に参加して (敬称略)

001 和田友香 /002 清水慶子 /003 奥村康一 /004 坂元志歩
005 大竹博之

004 坂元志歩 (サイエンスライター)

「性」の世界に惹かれる

 「性」。この分野に惹かれるきっかけになったのはうろ覚えなのだが、90年代後半に脊椎動物の性分化に関する第一回国際会議が開かれたことを知ったときだった。このネタ、行けそう。絶対売れる。当時某科学雑誌の編集記者だった私は、自信をもって編集会議に提出。ところがあえなく撃沈。

 しかし、私はあきらめなかった。それから数年後の2000年、再び編集会議に提出。「男と女のサイエンス」という非常にベタなタイトルで特集記事の掲載が決まった。ここからがたいへんだった。性の話は、一つひとつはとてもおもしろい。けれども、研究は細分化していて、さらに生きものによっては分子レベルまで進んでいても、ある生きものについては研究者さえ見つからないようなありさまだった。説明しなければならない事柄も、多岐にわたる。染色体、遺伝子、減数分裂、性ホルモン、脳・・・。生物学を学んでいる者には当たり前の知識でも、一般の読者には説明を試みなければならない。言いたいことと、説明しなければならないこと、限られた紙面との戦いの日々。この格闘の日々で、諸橋憲一郎先生や長濱嘉孝先生、佐久間康夫先生、名和田新先生といった性分化を研究する先生方にお会いした。ときに叱られ、しつこい私に半ばあきれられながらも、丁寧にご対応いただいた。こうした先生方のご協力があって、8月号に無事記事を掲載することができた。読者アンケートを見ても、反響は非常に大きかった。この記事をきっかけに私はフリーになることを決断。自分にとっても、とても思い出深い仕事の一つだ。

 辛い思いをして仕上げたその記事のさらに3年後の2003年、懲りない私は今度は別の科学雑誌で性に関する連載企画を提出。ここで森裕司先生や、当時慶応義塾大学におられた星元紀先生にはじめてお世話になった。フェロモンや、無性生殖から有性生殖へ転換させる謎の物質・・・3年後に再び巡り歩く性の世界も、かなり刺激的なものだった。

 そして2006年、再び性の世界へ足を踏み入れようとしている。今回、領域会議に参加させていただいて、驚いた。内容はますます細分化し、研究者の数も以前に比べぐっと増えている気がした。私の調査不足だったのかもしれないが、2000年の頃は、国内で両生類や爬虫類の性を分子レベルで研究している方々を見つけ出すことができなかった。脳の性分化についても、性ホルモン以前に遺伝子が関与しているかもしれないという新しい知見があることを知った。数年前とはまったく異なる理解が展開されている分野もあった。ここ何年かの間に随分とこの分野は分厚く、しかも広がりを見せているのだと実感した。また冷や汗をかき、さまざまな先生方に迷惑をかけながら、自分なりの答えを探す旅のはじまりだ。

 なぜ、これほどこのテーマに惹かれるのかと考える。それはやっぱり人間の根源に関わると思うからだ。ヒトとは何か、どういう生きものなのかを探るとき、いくつもの切り口が考えられる。言語だったり、歴史解釈だったり…そうした切り口の中で、性ほど多くの人を惹きつけてやまないテーマはないのではないだろうか。文学も、絵画も、音楽も、男女のいとなみを追い続けている。一生のなかで私たちは母胎で母のにおいを知り、物心ついて自分の中に父の面影を見る。恋をし、新しい命に出会うたび、苦しみと喜びの、その両方を享受する。死ですら、性と深く関わりあっている。私の分析によれば、世界中の99%までもの人が、この問題を抱えているはずなのだ。この深遠なる性の世界。生きものの数だけ、いやそれ以上にテーマにあふれている。

 あなたと私が、ちゃんと向き合えるように。微生物のふるまいから、マウスの遺伝子から、性ホルモンの挙動から、その小さくて大切な問題にも一筋の光が見えたらいいと思う。

 今はまだすばらしい素材を目の前にしながらも、錆びた包丁で料理もはじめられないような状況ですが、また一から勉強し、感覚を研ぎ澄ましていきたいと思います。みなさまの周辺でうろうろすることと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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