文部科学省科学研究費特定領域研究「性分化機構の解明」 *

領域活動

第2回 冬のワークショップ開催報告

2007年2月26日(月)-28日(水) 静岡県御殿場市

第2回 冬のワークショップに参加して(敬称略)

秦 健一郎 ・今村拓也 / 嶋 雄一 / 平松 竜司

嶋 雄一 (基礎生物学研究所)

 私は、2007年2月26日から28日にかけて、富士山の麓、御殿場高原「時の栖」で開催された、第2回冬のワークショップに参加する機会を得ました。実は私は、昨年度の第1回も参加させていただいたのですが、今年は昨年と違って天候に恵まれ、初日から最終日まで、雄大な富士の景色を間近に堪能することができました。また、肝心のワークショップの内容に関しても、国公立大学入試の前期日程と重なったことから、昨年よりは参加人数が少なかったと聞きましたが、会場にみなぎる熱気は、昨年に劣るものではないと感じました。

 前回も思ったことですが、若手が中心となって構成されるこのワークショップのよい点は、領域会議と違って、(特に分野の異なる研究者の方と)よりフランクに、より細かな点を議論できるところにあると思います。一口に「性分化機構の解明」と言っても、そこに携わる研究者のフィールドは、クロマチン構造に注目する生化学者から、形態形成をテーマとする発生学者、さらには性行動を解析する脳科学者や、日常的に性分化異常症の治療に腐心する臨床医、果ては社会的性を語る心理学者まで、非常に多岐にわたっています。これら全ての分野を等しく理解することは至難の業と思われますが、このような機会を通じてお互いの領域に踏み込んで議論をし、お互いの研究を理解しようと努めることは、特にこの性分化という研究領域においては、重要なことではないかと思います。様々な興味深い発表の中で、特に私自身の印象に残っているのは、2日目の午後のセッションでの、性分化異常症の患者さんに関する発表でした。我々生物学者が普段なかなか意識することはないのですが、現実に、性に関わる疾患で苦しんでいる患者さんやそのご両親の話を聴いて、考えさせられることが多かったです。また、懇親会においては、普段滅多に話をする機会のない研究代表者の方々と、留学やジョブハント、さらには研究に対する哲学などの話を、お酒を飲みかわしながらできたことは、今後の研究者人生を考える上で、とても参考になりました(特に山田源先生、明け方までお話に付き合っていただき、ありがとうございました)。

 私自身は2日目の午前の部の若手オーラルセッションにおいて、「Ad4BP/SF-1のプロモーター・エンハンサーを介した組織特異的転写調節機構の解析」という演題で、特に脳下垂体におけるAd4BP/SF-1の発現制御機構に関して、主にトランスジェニックマウスを用いて行った解析の結果を発表しました。10分間という発表時間は思った以上に短く、実験の背景から結果を踏まえた考察までを、限られた時間の中で表現するのに苦労しました。しかし、どうやって分かりやすく、かつ簡潔に説明しようかと、言葉の一つ一つまで吟味するという作業を経験したことは、私にとってとても役に立ったと思っています。また、質疑応答のときに議論になった、「転写制御に関わる配列が動物種間を超えて保存されているという論理に、例外はないのか」といった問いに対しては、考えさせられました。個人的な考えですが、動物種間の多様性を塩基配列のバリエーションに置き換えると、私が見ている「保存された配列」というのは、多様性の中から抽出された普遍性、あるいは普遍的な生物のメカニズムを観察していることになるのではないかと思います。その生物の特殊性を論じるには、他の種にも共通する普遍性を、まず基準として据えることが必要ではないか、というのが私の考えです(なんだか生意気なようで申し訳ありません)。

 最後になりましたが、今回発表の機会を与えていただき、また思いがけず優秀発表者賞までいただき、大変感謝しております(ちなみに、賞品として領域代表の諸橋先生からいただいた「国家の品格」は、岡崎に帰って1週間で読破いたしました)。自分が研究を進めて行く上で、このような評価をいただいたことはとても自信になることです。今後は、さらに自分の研究を力強く進めると同時に、次に続く若手の方々に、議論や発表の場を与える側に回らなければならないと感じております。そのような意味からも、今回のワークショップを企画運営された、秦先生、今村先生、菊水先生はじめ、スタッフの方々の多大なる御尽力に深く感謝いたします。ありがとうございました。

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