あいさつ

特定領域研究「性分化機構の解明」の発足に向けて

特定領域研究「性分化機構の解析」
領域代表 諸橋 憲一郎



古来より「性」は神聖なもの、そして不思議なものとして、更には万物の創成につながるものとされてきました。日本書紀には、いざなぎの尊(男神)といざなみの尊(女神)によって、大和の國の島々や天照大神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする、万物に宿る神々が産み落とされていったと記されています。もちろん、日本書紀の「神代」の巻に綴られたこれらの内容は単なる物語ではありますが、古代の人々にとって新たな命の創成やそれを可能とする雌雄の存在は極めて神聖なものであり、同時に不思議なものとして映っていたに違いありません。そして2000年の時を経て、我々は未だにその「性」の不思議に魅せられているわけです。

2001年3月、基礎生物学研究所において「性分化研究会」が開催され、その折に「性」に関する特定領域研究について話し合いがもたれました。次いで、2002年10月にはやはり基礎生物学研究所において、国際シンポジウム「Molecular Mechanisms of Sex Differentiation」を開催。この間、内分泌学会、神経科学学会、生化学会、染色体学会、畜産学会、動物学会、分子生物学会等の、実に様々な学会で「性」に関する多数のシンポジウムが開催されています。これらの活動は「性」に関する研究の機運の高まりを強く反映したものであると同時に、特定領域研究「性分化機構の解明」の申請を力強く後押ししてくれることとなりました。そして本特定領域研究の申請に向けた準備を開始したのが2003年初秋のことでした。この申請は多くの研究者の熱意と協力により、幸いにも2004年初夏に採択通知を受ける結果となり、既に昨年7月より13の計画研究をもって発足しています。2005年からは新たに33の公募研究課題を加え、総勢46名の研究代表者が参加する研究領域となりました。

「性」を考える上での重要な視点として、雌雄二つの性が雄性化シグナルと雌性化シグナルのバランスによって創られること、従って性は可塑性を有すること、また性分化の現象には動物種間における多様性と普遍性が存在することなどを上げることができます。これらの視点は本特定領域研究に設定した3つの研究項目、すなわち「性分化の分子基盤の解析」、「脳の性分化と行動の解析」、そして「性分化異常症の解析」の全てに共通する基本的な考え方であります。それぞれの研究代表者には、このような特徴を考慮し、自らが基盤とする性に関する生命現象を分子レベルで解明することを期待します。また、本特定領域研究内での連携はもちろんのこと、領域を超えた共同研究が「性」に関する研究の更なる発展には不可欠であることも意識しなければなりません。そして、本特定領域研究の目標を達成するには、次世代を担う研究者を綺羅星のごとく輩出することが不可欠です。若手研究者の育成は本特定領域研究の重要課題の一つと位置づけています。

科学は不思議を感じるところから出発するものですが、我々の研究は不思議であることや神聖であるための衣を一枚ずつ剥がしてゆくものであります。従って、古代の人々には我々の研究成果はいささか興覚めと映るかもしれません。しかしながら、我々の目指す研究は生物学、医学、農学、薬学などの幅広い研究分野で注目されています。古代人に敬意を払いつつ、本特定領域研究が「性」の本質を明らかにすることを願っています。

p1

top page next page

Copyright (C) 2005 Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas 'Mechanisms of Sex Differentiation' All rights Reserved.