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スタートダッシュ

特定領域研究を基礎に新たなフィールドへ
今村 拓也(京都大学大学院 理学研究科)

新しい研究環境について

昨年3月に、4年間お世話になった基礎生物学研究所から京都大学大学院理学研究科に異動致しました。生物科学専攻グローバルCOEプログラム(阿形清和リーダー)では、『生物の多様性と進化』の教育研究拠点コアプログラムに加えて、新しい『生物多様性学』を萌芽させるため、若手研究者を中心とした特別講座を設置し、運営を始めてはや1年になろうとしているところです。時を同じくして、耐震工事に伴う理学部1号館レイアウト刷新がなされ、そこにプロジェクトスペースをいただいて、日々の教育・研究を進めています。今年はダーウィン生誕200年、著書「種の起源」の出版から150年にあたります。生物多様性学はポストゲノム時代に連動して分子進化から個体・集団進化に切り込む段階に入るべき時期に来たのだと思います。当講座における研究テーマは多岐にわたり、プラナリア・ホヤ・シダ・タバコ・トレニア・昆虫・ダニ・マウス・サルを対象に、ゲノムから細胞・個体そして生態系にいたるまで、複数の階層を結ぶメカニズムを解く研究を推進しています。私のプロジェクトは下述しますが、「内在性機能RNAによるエピゲノム形成とその種間多様性」です。研究対象生物の異なるメンバー達と、進化とは如何に起こるのか、を常に意識した議論をしつつ、性を基点とした繁殖戦略の多様化とその分子基盤にも結びつけて行きたいと夢見ています。写真はプロジェクトスペースに働く人々です。前列左から、布施さん(ハエ発生・環境応答研究)、エリザベスさん(英語教育担当)、川口さん(シークエンス担当)後列左から柴田さん(プラナリア幹細胞研究)、私、藤本さん(事務局)、村角さん(事務局)です。この他、バイオインフォマティクスを一手に引き受けている西村さん、また新年度からは学生が4名の体制になる予定です。

ラボを立ち上げる経験

前任地の基礎生物学研究所には客員部門という名称で5年を期限とする研究室が存在します。東京大学大学院農学生命科学研究科の森裕司先生を客員教授、名古屋大学生命農学研究科の束村博子先生を客員助教授(のちに客員准教授)とする行動制御研究部門(のちに行動生物学研究部門に改称)が2003年度に始まることになり、私は専任の助手として着任・研究を開始しました。常駐するスタッフは私ひとりでしたので、研究環境の立ち上げには随分と苦心したことを思い出します。同時に研究費獲得が全て自分自身にのしかかるというプレッシャーは相当なものでした。勿論、揃えられない機器がたくさんありましたので、逆に躊躇なく近くの研究室に出向いて使いたいものをどんどん使わせてもらおうという立場で活動しました。特に、本特定領域でも大変お世話になりました諸橋研・長濱研を中心に出向いて、支障なく研究に打ち込めたことは大きな財産です。今思えばこのときの経験が京都での研究環境の立ち上げに大きく役立ったように思います。

諸橋憲一郎先生には本特定領域の公募研究に私の研究が採択された後に声を掛けていただき、2ヶ月に一度のプログレスレポートに参加しながらラボ運営を見せていただけたのも充実した経験でした。プログレスレポートはラボにより異なる方式があると思いますが、一週間のスパンで1-2時間を割き担当を持ち回るケースが多いように思います。諸橋研のプログレスレポートは、性分化特定領域の領域会議形式、とでも申し上げましょうか、2日まるまる実験を止めて全員がプレゼンする形式です。2ヶ月という単位は絶妙だったように感じました。一週間の中で研究時間を止めなくて済みます。データがとれなかったという言い訳はききません。みんなの研究の進展具合が一目瞭然です。今のラボでも真似させていただいております。

私のプロジェクトについて

ほ乳類において、タンパクをコードするゲノム領域に発現する非コードRNAは数万に上り、非コードRNAの普遍的な重大さを示唆しています。ところが、遺伝子発現制御域に発現する非コードRNAについては、種間相同性も低く、機能解析まで系統的に試みる必要があります。これまで、RNAによるほ乳類脳のエピジェネティック制御について研究を進めており、脳で機能的であるSphk1遺伝子のプロモーター領域にオーバーラップして発現する1290 bpの内在性アンチセンスRNA、Khps1、を発見し、一本鎖RNAが配列特異的な脱メチル化に機能していることを初めて報告しました。本特定領域では、核内受容体である性ステロイド受容体遺伝子座に発現するアンチセンスRNA群の新規同定にも成功し、脳における発現解析と機能解析を行ってきました。in vivo強制発現系を構築したところ、新規アンチセンスRNAはやはり配列特異的DNA脱メチル化をおこし、mRNA発現上昇を介し性行動異常にまで至ったのです。新規アンチセンスRNAも、二本鎖で働くsiRNAなどとは異なり、一本鎖RNAとして機能的であると考えています。実際、前述のKhps1はエピジェネティック制御に働くRNA分子マーカーとして使っていただけるようになってきました。siRNAより長いRNAの存在については昨年頃から急激に注目され始めましたが、それでもその機能性についての研究は世界的に見てまだまだ黎明期にあると思います。現在は、私たちの見出していた現象について分子メカニズムを掘り下げつつ、種の多様性創出にこのような非コードRNAが関わっている可能性も検討したいと考えており、サルとマウスを対象として種特異的非コードRNAの網羅的取得を進行しています。サル特異的非コードRNAをトランスジェニック技術によりマウスに付与することで、雌雄マウスの脳機能・行動がどのように変わるのか、今から楽しみです。

おわりに

「ゲノム進化・多様性」、「発生生物学」、「分類学」、「遺伝学」、「生態学」をキーワードに、講座の名前に負けない多様な人材を受け入れ、活発な分野間交流を通して私たちも進化していきます。スタッフは、理学研究科における多様性フィールド科学、フィールド科学実習、人類進化実習、生態ネットワーク実習、生物多様性実習、生物物多様性研究のためのトレーニング・コ−ス等にも参加しています。研究室訪問は随時受け付けております。大学院生、研究生・研修員として参加を希望する方、私たちの研究に興味を持たれた方は個別にお気軽にご連絡ください。参考URLは以下です。
http://gcoe.biol.sci.kyoto-u.ac.jp/gcoe/jpn/research/


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