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スタートダッシュ

ささやかな研究室の1歩
金子(大谷) 律子(東洋大学 生命科学部生命科学科)

神経細胞へのホルモン(殊に女性ホルモン)の影響を調べたいというのが、大学4年生時に研究室を決めた理由でした。修士2年になる時に、指導教官(当時助教授)が他大学の教授となって異動されて以来色々なことがありましたが、ささやかながら(本当にささやかですが)2年半前に自分の研究室を持つことができました。領域会議にご参加の先生方は錚々たる方々ですから私などが書くのはお恥ずかしい限りですが、ポスドクの方の中には研究を続けていくことにとても不安な方、子育てとの両立に悩まれている方もいらっしゃることと思います。時代が変化していますから、私の例がご参考になるとは思いませんが、この駄文をお読み頂いて、紆余曲折しながらも生物学が好きで続けている人間がいる、「ああはなりたくない」と思って頑張って頂いても、「何とか自分にも続けられるかもしれない」と思って頂いても良いかなと思います。

もう仕事を続けることは無理ではないか、と痛切に思ったことがありました。海外のポスドクをしている時に、関東の某私立大学医学部講師に応募し、すべて順調に決まり帰国した時のことです。それまでのポスドクの職を辞し、ご好意により休職にして頂いていた日本の大学の助手のポジションも辞職した後、新しい大学で教授と仕事の打ち合わせミーティングを終えた時のことです。帰宅前の雑談の中で「子供がいる」と一言私が申した途端に、ニコニコしていらした教授の顔が一変、「僕は子供がいる女の人は雇わない」と仰いました。後は、「子供がいる女性は深夜まで仕事ができないから雇いません」の一点張りでした。それまでの職を辞した後で、突然白紙にされたのは応えました。今から20年弱前のことです。当時は、仕事をする女性の立場は今より弱かったです。子供がいる女性がそんなに嫌なら、何故早くに確認しなかったのだ、理不尽だ、と思っても力関係が圧倒的に不利ですから、泣く泣く引き下がるしかありませんでした。子供を抱えて無職となり、二度と定職にはつけないことを覚悟しました。

その後半年間求職活動をした後、聖マリアンナ医大の解剖学教室に助手として雇って頂くことができました。本当に有り難いことでした。聖マリアンナ医大解剖学の鈴木卓朗(元)教授を始め、当時お世話になったり心配して下さった方々には今でも心から感謝しています。

その職場、その職場で頑張り、自分もその都度その内容を面白がって研究すること。とてもささやかですが、私の願いです。一貫性のある大きな研究はやれないかもしれないですし、研究者としては邪道なのかもしれませんが、そうやって職を繋いできた人は沢山いると思いますし、今後もいらっしゃると思います。研究のスペースも予算も目標もスタッフ数も、人それぞれです(多いに越したことはないでしょうが)。続けて来られたことに感謝し、ささやかでも自分の研究室を持てたことを有り難いと思っています。なんだか年寄り地味た話しですみません。もちろん、若い方には少しでも良いポジションで力を発揮してもらいたいと願っています。



東洋大の研究室は、教授である私一人、以下スタッフは0です。医学部にいた時には秘書さんがやってくれた伝票書きから、講義プリントの印刷まで、すべて一人でやらなくてはなりません。でも実験棟はP1レベルになっていますし、狭い実験室ではありますが、凍結切片(クリオスタット)、細胞培養(クリーンベンチ、インキュベータ)、タンパク質解析関係(遠心機、1次元、2次元電気泳動、転写装置など)、PCR関係(PCR装置、realtime-PCR装置)、形態観察(蛍光顕微鏡、倒立顕微鏡、蛍光実体顕微鏡)など一通りのものを実験室に揃えることができました。また小さな学部ですが共通機器が揃っており、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社)、質量分析機、マイクロアレーリーダー、全反射顕微鏡、ラマン顕微鏡、走査型電子顕微鏡などが共通実験室に備わっています。  学生は、毎年5、6名の卒研生が研究室にやってきます。最初の卒研生の1名が筑波大学の大学院に進みました(岩倉 聖君)。外研扱いにして頂き、東洋大学の私の実験室で毎日実験をしています。現在修士2年生ですが、博士課程に進学して一緒に研究をしてくれるそうです。我が研究室を背負っている長老です。今年度は5名の卒研生のうち、春から4名が東洋大学の大学院に進学します。また3年生で既に実験室に出入りしている学生さんが3名、春から出入りすることになる卒研生が2名加わるはずなので、博士1名(岩倉君)、修士4名、学部生5名となります。一人で指導しなくてはならないのでテーマを考えるだけでも大変ですし、実験室に顔を出すようにさせるだけでも一苦労です。でも少しずつ軌道に乗せ、学生や院生が力をつけられるよう頑張りたいと思っています。

特定領域に参加させて頂き、大変勉強になりました。共同研究をさせて頂く中で、多くの方々の助けをお借りでき、とても感謝しています。更に、今回同定できた雌雄差タンパク質の1つについて、ノックアウトマウスをお持ちの先生と春から共同研究をさせて頂けることになりました。小さな研究室の微々たる歩みですが、視床下部雌雄差形成メカニズムやニューロンに及ぼす女性ホルモンの影響などについて、これからも調べていきたいと思っています。どうぞ今後とも宜しくお願い申し上げます。本当にありがとうございました。


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