← トップページに戻る
スタートダッシュ

独立した研究グループをもつことになって
大久保 範聡(東京大学大学院 農学生命科学研究科)

この度、平成20年12月1日付けで、東京大学大学院農学生命科学研究科にて准教授のポジションを得て、独立した研究グループをもつこととなりました。自身の出身ラボに、ほぼ6年ぶりに戻ったことになりますが、私が学生の頃の指導教官で、魚類の生殖内分泌をご専門とされていた會田勝美先生は定年退職され、今は、魚類の浸透圧調節をご専門とされている金子豊二先生が教授を務められています。つまり、現在は私以外のほぼ全てのメンバーが魚類の浸透圧調節をテーマに研究を進めているラボです。余談ですが、金子豊二先生は本特定領域に参加されている大谷−金子律子先生の旦那様でもあります(なんと世の中の狭いことか!)。ラボの構成メンバーは、金子教授と私の他に、助教、2名のポスドク、9名の大学院生、4名の学部4年生の計18名で、中規模のラボといったところでしょうか。

この原稿を書いている段階では、まだ赴任して1ヶ月ほどしか立っておらず、さらに年度途中から単身で赴任してきたということで、私の学生は一人もおりません。研究グループとは言いながら、まだ一人で研究環境の立ち上げを行っている段階です。実際には、それ以前の様々な業務に多くの時間を費やすことになってしまっており、まだデスク周りの整理を終え、いろいろとプランを練っている程度というのが現状です。デスク自体も現在は、今年度末までの仮置き場として金子先生の教授室内の入り口付近に設置しています。まるで秘書のような感じですが、教授と准教授が同じ居室にいる状況を、学生はさぞかし奇妙に思っていることでしょう(金子先生のお人柄が良い上に、お酒も常備してあるので、妙に居心地が良く、このまま居座ってしまいそうです!)。3ヶ月後には新しい学生もラボに入ってきて、本格的に研究グループとして研究を開始することになります。文字通り「スタートダッシュ」ができるように、まずはしっかりとした環境作りを行っていきたいと思います。

そのような中、久しぶりに東大弥生キャンパスに戻ってきて、最も驚いたことは、大学法人化の影響で廊下に備品を置くことができなくなったことです!他の大学や研究機関ではもはや当たり前のことかもしれませんが、研究環境の立ち上げに当たり、この「縛り」が私の肩にずしりと重くのしかかっています。ただえさえ、ラボに与えられている実験部屋が決して広くはないのに、巨大なディープフリーザーさえ廊下に出せないのか、という方向についつい考えが向いてしまいます。以前は物置としてこっそり使用できた廊下のパイプスペースも今では施錠されており、かなり徹底されているようです。メジャーとカタログと電卓を手に、「研究室内の高層化計画」について思案する日々が続いています。

もちろん、キャンパスの嬉しい変貌ぶりに驚いたこともありました。例えば、事務がシステマティックになっていたことが挙げられます。ほとんど全ての事務作業がウェブやメールを介してできるようになっていました。また、堅すぎてお尻の痛かった弥生講堂の木製椅子にクッションが付いたこと、建物の中庭がきれいなイングリッシュガーデンになっていたこと、学食のうどんで関西風を選べるようになったことなども挙げられますが、あまり研究とは関係ないと言われればそれまでです。

さて、本題の研究についてですが、今後もこれまでと同様、メダカを用いて脳の性に関する研究を進めていくつもりです。当面の目標は、性特異的な行動や生殖内分泌系の制御といった脳機能の性差がどのような分子メカニズムで生じるのかについて明らかにしていくことです。メダカの脳は、つくりや機能が比較的シンプルな上に、脳まるごとのままでイメージングや培養が可能なので、そのような研究には大変良いモデルです。また、大きな性的可逆性をもっている魚類の脳を解析することで、脊椎動物の脳における性の揺らぎやすさや確かさの進化的側面が明らかにできるのではないかと考えています。幸いなことに、同じ東大弥生キャンパス内には、本特定領域に参加されている先生方が6名もおられます。私と同じ農学生命科学研究科には、森裕司先生、西原真杉先生、金井克晃先生、高橋直樹先生がおられます。また、分子細胞生物研究所には、加藤茂明先生と武山健一先生がおられます。近くにこれだけ「性」関連の研究を展開されている先生方がおられるので、ご指導やご協力を仰ぎながら、研究に励んでいきたいと考えています。また、ラボの教授である金子先生は生粋の「形態屋」で、金子先生の撮られた顕微鏡写真は本当に惚れ惚れするような美しいものばかりです。金子先生のご協力も仰ぎながら、様々なアプローチ法を駆使して脳の性の謎を解き明かしていきたいと考えています。

最後に、本特定領域に関わられている全ての先生方に、この場を借りてお礼申し上げます。私が本特定領域で得たものは数多くありますが、何より交友関係を広めることができたことは最も大きな収穫でした。領域会議の度に、酒を肴に夜遅くまで(その内容はさておき)ディスカッションを行い、親睦を深めたことは、まさにプライスレスです!もちろん肝心の昼の部でも多くの刺激を受けたことは言うまでもありません。私のような青二才にこのような素晴らしい機会を与えてくださった本領域、そして本領域をオーガナイズされた先生方には心から感謝しています。特に、基礎生物学研究所時代から、公私ともに親身になって支え続けてくださった長濱嘉孝先生、そして、私の自己都合により本年度は本特定領域の研究費を辞退したにも関わらず、ことある毎にお声をかけてくださった領域代表の諸橋憲一郎先生に深くお礼申し上げます。


↑ このページのトップに戻る   ← トップページに戻る

Copyright (C) Grant-in-Aid for Scientific Research on Priority Areas
'Mechanisms of Sex Differentiation' All rights reserved.