文部科学省科学研究費特定領域研究「性分化機構の解明」 *

領域活動

平成18年度若手研究者支援・国際会議出席レポート

Cold Spring Harbor Germ Cells meetingに参加して

大阪大学微生物病研究所附属遺伝情報実験センター
小林 慎

 2006年10月11日―15日の5日間、アメリカ合衆国ニューヨーク州にあるCold Spring Harbor 研究所で開催されたGerm Cells Meetingに出席しX-linked imprinted gene Rhox5/Pem について発表の機会をいただきました。Cold Spring Harbor研究所では毎年、複数のテーマについてmeetingが催され、世界中の第一級の研究者が一堂に会し未発表データを中心としたレベルの高い発表・討論が繰り広げられます。有性生殖を行う動物種のライフサイクルでは、生殖細胞は雌雄の性分化機構を理解する上で切っても切れないテーマであり、私が興味を持って研究しているエピジェネティクスの研究者も多く集まるため、このmeetingに参加しました。久しぶりの国際学会で、期待と不安を感じながら機上の人となりました。

 Meetingは口頭発表およびポスター発表の合計10のセッションに分かれていました。初日のセッションではRNAiでノーベル賞を取ったDr. C. Mello(Massachusetts Med. School Univ.)の発表が印象的でした。内容は総説でしたが、さすがノーベル賞を取る科学者は会場を沸かせて聴衆を引きつける手法にも長けており受賞のニュース番組を取り上げ、面白おかしく紹介する点は見事でした。受賞直後の講演を聴けとてもラッキーでした。

 2日目以降も様々なトピックスで盛り上がりました。エピジェネティック制御についてのセッションでは、Dr. T.H. Bestor(Columbia Univ.)が結晶構造解析を元にヒストンの修飾の情報がDNAのメチル化情報とリンクするモデルを提唱しました。さらに生殖細胞の形成のセッションでは、Dr. Saitou, M(RIKEN)が生殖細胞の発生を追ってDNAアレイでの発現解析を発表し、生殖細胞でのリプログラミングのセッションでは、Dr. C. Niehrs.(German Cancer Research Center)が遂に哺乳類の5-methylcytosine脱メチル化に働く酵素を報告し、論文になる前のホットな話題で盛り上がりました。また、配偶子形成のセッションではDr. D.C. Page.(Howard Hughes Medical Institute)が、哺乳類の生殖細胞の性決定について話をしました。レチノイン酸は減数分裂開始に必要だが十分ではないようで、手がかりは掴めたがまだ性決定のメカニズムの理解には至っていないようです。

 数年前は哺乳類の生殖細胞は殆ど何も分かっておらず、ショウジョウバエなどの生物種に比べると分子生物学的、遺伝学的な基盤がない状況だったそうです。それに比べると現在は、生殖細胞の発生時期ごとに発現遺伝子のパターンが綿密に解析されていたり、KOマウスを使い生殖細胞の形成をin vivoで解析が可能になったりしており研究基盤は着々と固められてきた気がします。これから飛躍的な発展が期待できる分野という印象を強く感じました。また、生殖細胞分野の第一人者であるDr. A. McLaren(Cambridge Univ.)をはじめ様々な研究者と討論でき、研究者仲間の輪が広がると同時に自身の研究に役立つ情報が多く得られました。とても有意義な時間を過ごすことができた5日間で満足しました。