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授のうわごと

特定領域ニュースレター挨拶文 2009年

平成16年度より5年の期限で始まった特定領域研究「性分化機構の解明」も、残すところ数ヶ月で終了となりました。既に6年も前のことになりましたが、平成15年の夏に基礎生物学研究所において、特定領域研究の申請に向けた研究会を開催し、その後すぐに申請の準備を始めました。申請書をまとめるにあたっては、基礎生物学研究所の長濱先生と日本医科大学の佐久間先生にご協力頂きました。そして、幸運なことに我々の申請は無事採択に至り、翌16年7月から本特定領域研究が始まったのでした。次いで、平成17−18年度に第一期公募研究、平成19−20年には第二期公募研究を迎え、40を越える性関連の研究グループによって研究を推進してきたのです。 これほど多くの研究グループが一堂に会する機会を作ることができたことで、我が国の性研究は一層の発展を遂げることができました。
   本領域の立ち上げの時期には、性決定の動物種間における多様性と普遍性の問題が盛んに議論されていましたので、この問題に決着をつけることは本特定領域研究の使命であると思っていました。幸いなことに哺乳類の性決定遺伝子の発見以降、長い時間を要した第二の性決定遺伝子の発見が、メダカの性決定遺伝子の同定という形で、日本の研究グループによってなされていましたし、他の動物種の性決定遺伝子の探索が国内の研究グループによって精力的に行われていました。そのような状況でしたので、性決定遺伝子の研究に対し、本特定領域研究は必ず貢献できると思っていました。そして期待通りに、アフリカツメガエルの性決定遺伝子が、伊藤先生らによって成し遂げられたのでした。我が国で行われた、第二、第三の性決定遺伝子の発見は、性決定遺伝子の機能と進化を考える上で非常に貴重な情報となっています。
  本特定領域研究の目的は性決定と性分化の分子メカニズムを、特に生殖腺と脳に焦点を当てて解析することでした。当然のことですが、大きく進展したところもあり、まだ多くの未解決の問題を残しているところもあります。研究とは本来そのようなものですし、進歩していないように見えた分野がにわかに賑やかになること だってあるのです。そして、本特定領域研究は上に述べた成果以外にも多数の価値ある成果、すなわち教科書に記載され、未来に語り継がれる成果を世に送ることができました。このように我が国から発信された研究成果のもつインパクトの大きさは、平成21年4月にハワイで開催される性関連の国際会議のプログラムにも現れています。本会議は14のセッションで構成されますが、このうち4つのセッションのセッションリーダーを我が国の、そして本特定領域の研究者が努めることが決まっています。また、本特定領域の若手研究者の台頭には目を見張るものがありました。本領域研究の開始からこれまでに、7名の研究代表者が独立のポジションを得ていますし、本領域からスピンアウトして新学術領域研究を立ち上げた吉田先生や個別提案型に採択された田中(聡)先生など、実に多彩な若手が本特定領域研究を支えてくれました。
  一方で、本特定領域研究は一般社会との関係を大切にしてきました。市民公開シンポジウムを東京と札幌で開催したほか、日本科学未来館で開催された「恋愛物語展」や、NHKスペシャルのシリーズ「女と男」の番組制作には本特定領域研究の研究者が協力しました。我々研究者は、研究者以外の人々に研究の内容を伝えることが、必ずしも得意ではありません。しかしながら、我々の研究が広く認知されることが研究の進展を支えてくれることを意識しなければなりません。
  本特定領域研究は多くの先生方にご支援の基に推進することができました。毛利秀雄先生、松尾宣武先生、名和田新先生、黒田洋一郎先生、山本正幸先生、鍋島陽一先生、加藤茂明先生、森裕司先生には中間評価や領域会議を通じ貴重なご意見を頂きました。また、本領域は支援班を設置し、性研究に有用なマウスとメダカの系統を維持・配布してきました。この支援班業務の遂行に当たりましては、勝木元也先生、笹岡俊邦先生、佐谷秀行先生にご支援頂きました。ご多忙にもかかわらず、本特定領域研究に暖かいご支援を頂きましたことに対し、厚くお礼申し上げます。また、久和茂先生、松原久裕先生、小倉淳郎先生、山崎真巳先生、石塚真由美先生、中川秀彦先生には、学術調査官としてご指導頂きました。有り難うございました。本特定領域研究は本年度末をもって終了となりますが、性は生物学のみならず医学、薬学、農水産学、環境科学などの学術領域で常に研究対象として取り上げられてきましたし、今後さらに大きな広がりを見せることになります。このような中にあって、国内における性関連の研究者が一堂に会する場を5年に渡って提供したことは、今後の我が国の性研究の発展にとって重要であったと思っています。本特定領域を基盤として、我が国の性研究が更に大きく進展することを期待するしだいです。

特定領域研究「性分化機構の解明」
領域代表 諸橋 憲一郎

九州大学大学院 医学研究院 分子生命科学系部門 性差生物学講座(分子生物学)
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