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授のうわごと

特定領域ニュースレター挨拶文 2006年

昨今、世の中からは役に立つ研究が求められ、そのような研究に多くの研究費が投入されています。誰がそれを求めているのかが、実は重要なことなのですが、取り敢えず求められているようです。従って、がん研究や脳科学研究はもとより、ゲノムや再生研究がもてはやされているわけです。お金儲けだって推奨されています。そのような風潮を善しとするかどうかは、その人の立ち位置によるので、ここで問題にするものではありませんが、わたくし自身の感想を言えば、世の風潮とは時に右に、そしてまた時に左に振れたりするものなので、今はそのように振れているのだろうと思っています。同時に、日本はそれほど馬鹿な国ではないと信じていますので、しばらくすれば揺り戻しが来るのだろうと期待しているわけです。ただ、わたくし達の「性の研究」はこのような流れからは隔離された感があります。ある意味では平穏なのですが、研究費は潤沢ではありません。どなたかが、大儲けしたといった羨ましい話しも聞いたことはありません。
   個人的なことで恐縮ですが、以前から「品のある生き方」とか「品のある行い」のような言葉で表現される事柄を大切だと思ってきました。子供の頃に「品がない」などと叱られたことがありましたので、そのせいなのかもしれません。そして、研究もまた個人の生き様を写し出すものとして当然のことなのですが、「品」を感じさせるものと、そうではないものがあるわけです。そこにははっきりと研究者の人ととなりが見えてきます。会ったこともなく、話しを聞いたこともない研究者の論文を読んで、強い感動を覚えたり、また時に落胆するのは、そこに盛り込まれた成果もさることながら、その裏に垣間見える研究者の人ととなりのためではないかと思うのです。研究の価値とは「品」の有る無しで評価されるものではないのでしょうが、研究者はそのような見識を持つべきではないかと思ったりします。
  昨年、国内外で立て続けに「品のない」研究者の行為が指摘されたことは記憶に新しいことです。そして、それは徹底した成果主義の弊害だとする意見が聞かれました。ただ、そのような行為は昔からあったらしいので、必ずしも成果主義の導入だけがその原因ではないでしょう。もちろん、成果主義も以前からあったことですし、最近の成果主義も毅然とした自己評価の前では本質的にはあまり意味のないことだと思います。それでは何が問題なのかということです。多分、研究者としていかに生きて、そしていかに死ぬかという覚悟の問題なのだと思っています。難しいことなのですが、そこが最も重要なことだと思っています。
  なんだか重い話しになってしまいましたが、それでも、いや、だからこそ我々の特定領域研究は毅然として軽やかに、そして深く静かに思考し、自らの研究を進めてゆけばよいのです。媚びることなく、凛としていればよいのだと思います。今年もまた皆さん方とともに研究できることを喜び、そして多くの方々と「性」を語る機会を頂いたことに感謝しつつ、粉骨砕身の努力を重ねてゆきたいと思っています。どうか宜しくお願い致します。

特定領域研究「性分化機構の解明」
領域代表 諸橋 憲一郎

九州大学大学院 医学研究院 分子生命科学系部門 性差生物学講座(分子生物学)
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