九州大学医学部第二内科における 脳卒中学の研究は、第4代教授 故勝木司馬之助先生の時代に始まり、 昭和30年代後半には米国ミネソタ大学(ベイカー教授ら)との共同研究として教室をあげて脳血管障害の研究が行われました。当時は、脳卒中の臨床、脳血管撮影、脳血管神経病理をメインにした1研(岡部信彦先生)、 高血圧の臨床と成因を主なテーマとしてヒトの脳循環測定を行っていた4研(尾前照雄先生)、久山町における脳血管障害の疫学研究を行っていた7研(廣田安夫先生)、 そして臨床神経、神経生理、失語症、神経心理を得意とする11研(故黒岩義五郎先生)がそれぞれの分野で研究を進めました。昭和46年に尾前照雄先生が第5代教授に就任された後、 米国留学から帰学された1研の山口武典先生(国立循環器病センター名誉総長)、4研の故藤島正敏先生(第6代教授)、 そして1研の緒方絢先生らにより新たに脳循環代謝研究室が誕生し、山口武典先生が国立循環器病センターに転任されたために、初代の研究室主任には故藤島正敏先生が就任されました。 これは昭和47年頃のことでありこの頃から 脳循環代謝研究室は"9研"と呼ばれるようになりました。 その後、研究室主任は、昭和57年から佐渡島省三先生(前・新日鐵八幡記念病院理事長、現吉塚林病院長)、平成3年から井林雪郎先生(誠愛リハビリテーション病院院長)、平成20年から北園孝成先生(第8代教授)が引き継がれ、現在の体制が作られていきました。 現在は100名をこすメンバーが同門として在籍しています。



昭和59年に、脳卒中急性期医療の充実を目的として、 岡田靖先生(現・国立病院機構九州医療センター臨床研究センター長)と吉永まゆみ先生(現・宗像医師会病院)が国立循環器病センターのレジデントとして派遣され、 その後も20人をこすメンバーが同センターで研修を積み、脳卒中診療の充実と臨床研究の推進のために努力しています。 現在国立循環器病研究センターでは、峰松一夫先生(副院長)のもと、豊田一則先生(脳血管内科部長)、古賀正利先生(脳卒中集中治療科(SCU)医長)が、わが国の脳卒中医療を引っ張っています。この間に、急性期の脳卒中医療を行う関連施設も国立病院機構九州医療センター(岡田靖臨床研究センター長、矢坂正弘脳血管内科医長)国立病院機構福岡東医療センター(中根博脳血管内科医長・臨床研究部長)福岡赤十字病院(藤井健一郎脳血管内科部長)白十字病院(入江克実副院長)九州労災病院(荒川修治脳血管内科部長)新日鐵八幡記念病院(石束隆男病院長・藤本茂脳血管内科部長)聖マリア病院(福田賢治脳神経センター長)九州中央病院(竹迫仁則内科部長)と増え、 九州大学病院とこれらの関連施設で年間1500例をこえる脳卒中急性期症例の診療にあたっており、これらの施設では脳神経外科や神経放射線科の先生方とともに、 脳卒中診療チームとして24時間体制で救急医療を担っています。また、回復期リハビリテーションを中心とした亜急性期から慢性期の脳卒中医療は、 誠愛リハビリテーション病院(井林雪郎院長、楠田憲治副院長)、 国立病院機構福岡東医療センター(北山次郎リハビリテーション科医長)、 今津赤十字病院(尾前豪内科部長)、 吉塚林病院(佐渡島省三院長)、白十字病院で行っています。



臨床研究は、 平成19年6月から多施設共同の脳卒中データベース研究「 福岡脳卒中データベース研究;The Fukuoka Stroke Registry (FSR)(2008年8月専用ホームページ開設)の登録作業を開始しました。 FSRは九州大学病院と関連7施設に入院してこられる発症7日以内の脳卒中患者様を対象として、同意をいただいたうえで、 その急性期臨床情報と長期予後に関するデータを解析する研究です。日本人の脳卒中の現状を解明するとともに、新たな治療法の確立をめざしています。FSRでは、血漿とゲノムを保存することによって、バイオマーカーの探索や遺伝子解析研究も行っており、多岐にわたる脳卒中の臨床研究システムを構築しています。(2008.5.9 FSRが朝日新聞に紹介されました)。平成19年6月から現在までに前向き約4600人、後向き約6500人の登録を行い、現在も登録を続けています。一般社団法人久山生活習慣病研究所のFSR専属CRCが、患者様の同意取得、データ入力、追跡業務を行い、同意取得率は約90%、追跡率は99.7%と高い精度を誇っています。現在、国内の多くの大学、研究機関と共同研究を行うとともに、ヘルスケア企業ともトランスレーショナルリサーチ研究を進めています。ゲノミクス、プロテオミクスの手法を用いて、脳梗塞の病態に関する新たな知見も得られています。脳卒中後遺症治療のための再生医療の実現化に向けて、トランスレーショナルリサーチを行っています。  



基礎研究は、 大動物を用いた髄液代謝の実験に始まり、その後、高血圧自然発症ラット(SHR)を用いた脳循環自動調節に関する研究が盛んに行われました。また、SHRの両側総頸動脈結紮による脳虚血モデルを用いて、脳虚血の病態解明や薬剤の効果の実証など臨床に即した基礎研究が行われました。特に肥前療養所との共同研究によってmicrodialysis法を用いた興奮毒性の研究では数々の研究成果を報告しました。 その後、基礎大学院や留学から帰学したメンバーによって、電気生理や頭窓法などが導入されて脳血管反応性に関する基礎研究が発展しました。また、レーザーを用いた局所脳虚血モデルの導入によって脳虚血に関する詳細な検討が可能となり、遺伝子治療に関する多くの研究成果が上げられました。 最近では、生化学や分子生物学の手法を取り入れて、脳血管を構成する内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞に関する基礎研究をすすめ、これらの細胞における活性酸素生成酵素NAD(P)Hオキシダーゼの機能解析を行うとともに血管新生や血液脳関門に関連する基礎的検討を行っています。さらに、臨床研究においてゲノミクス、プロテオミクスで得られた脳梗塞関連遺伝子、関連蛋白の機能に関して、遺伝子改変マウスを用いて検証しています。得られた成果が患者さんの治療に役立つよう、臨床の場にフィードバックし検証しています。



現在の脳循環代謝研究室の構成は、九州大学内に病態機能内科学(第2内科)教授1人のほか、助教講師1人、助教2人、医員3人、大学院生6人、救命救急センター長・准教授1人、救命救急センター助教1人、研究生1人、専修生2人がおり、脳卒中の急性期診療や最先端の臨床研究、基礎研究に専念しています。また、九州大学以外に大学脳血管内科や国内有数の脳卒中診療施設を関連施設として有し、連携しながら診療、研究、教育を行っています。脳卒中患者さんの全人的医療を目指し、未開の地を切り開くパイオニアを数多く育成し、輩出してきました。これからも脳卒中学の拠点として、脳卒中医療、医学の発展に寄与する研究成果を、世界に向けて発信していきたいと考えています。  

(2011年、4月:文責 研究室主任・鴨打 正浩)