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九州大学医学部第一外科 膵臓移植に関する情報 20070118

Key words: 移植、膵臓移植、腎臓移植、膵腎同時移植、糖尿病、腎不全、膵島移植

糖尿病と膵臓移植

1型糖尿病と2型糖尿病とは何ですか

 下図(膵臓の構造と糖尿病)に膵臓の構造と組織の一部を顕微鏡で見たものを拡大しています。
膵臓には外分泌機能と内分泌機能という2つの大きな働きがあります。主な外分泌機能とは、 腺房細胞から消化酵素のたくさん入った膵液を十二指腸に分泌して消化・吸収を助ける働きのことをいい、 主な内分泌機能とは血糖値が上昇したら膵島細胞からインスリンを血液中に分泌して糖尿病にならないように血糖値を下げる働きのことをいいます。
 1型糖尿病は、遺伝素因のうえに、ウイルス感染などの環境要因が加わって、主に20歳以下の若年者に突然発症する糖尿病です。
インスリンを分泌する膵島細胞へ自己抗体ができ、膵島の炎症(膵島炎)が起こり、破壊されるため、高血糖、多飲多尿、体重減少、 意識障害などが急速に出現、悪化します。ただちに、しかも生涯にわたってインスリン注射が必要となるので、以前は若年性糖尿病、 あるいはインスリン依存型糖尿病とも呼ばれていました。
 2型糖尿病は、過食、肥満、運動不足、ストレス、加齢などが原因で起こる糖尿病で、大人に多く、膵島細胞は懸命にインスリンを作っているのですが、 体の方がもっとインスリンを要求するので、膵島細胞が疲弊して相対的にインスリンが足りない状態になります。 食事療法や運動療法で肥満を解消するように努めることが優先され、発症後すぐにインスリンを投与する必要はないので、 以前は成人型糖尿病、あるいは非インスリン依存型糖尿病とも呼ばれていました。日本人の糖尿病患者は、 90-95%は2型、5-10%が1型であると言われています。

膵臓の構造と糖尿病

1型糖尿病の治療方法はどうするのですか

 1型糖尿病の場合、当初からインスリン補充が必要となりますが、小児糖尿病を専門にする先生方の指導のもとサマーキャンプを通じて、 正しいインスリン療法と生活習慣を身につけるように努めます。
1型糖尿病患者さんの多くは、正しい知識と自己管理を習得して、 1日3−4回の自己注射で合併症もなく人生を享受することができます。しかし、不幸にして血糖コントロールが難しく低血糖や高血糖を繰り返す人や、 合併症が進行する人に対しては、膵移植や膵腎同時移植を行います。
インスリン分泌細胞を補うという目的で、発症間もない頃に膵単独移植(PTA)、腎不全を併発すると、一人のドナーから膵臓と腎臓をもらって移植する膵腎同時移植(SPK)、 あるいは先行して生体腎移植や献腎移植を受けておいて、異なるドナーから膵臓だけをもらって移植する腎移植後膵移植(PAK)があります。

2型糖尿病の治療法は1型とちがいますか

 過食、肥満が原因で起こりますので、まず食事療法、運動療法をしてやせること、生活習慣を改善すること、喫煙していればやめることを心がけます。
経口血糖降下剤を内服して、腸管での糖質の吸収を抑制したり、膵島細胞からもっとインスリンを放出させ、インスリンの効きをよくするような薬物療法を行うこともあります。 それでも血糖コントロールが不十分であれば、インスリン補充療法を行うことになります。この場合も自己管理、自己注射が大切となります。

糖尿病の合併症にはどのようなものがありますか

 1型糖尿病でも2型糖尿病でも長期にわたり血糖コントロールが悪ければ、さまざまな全身合併症を惹起してきます。
糖尿病合併症の本態は全身の血管障害なので、眼底出血や視力低下をひきおこす網膜症、足先がしびれる、感覚が鈍いなどの末梢神経障害、 腎不全、脳出血、脳梗塞などの脳血管障害、狭心症、心筋梗塞などの心血管障害、頑固な便秘や下痢を繰り返す消化管障害、大動脈や下肢の動脈硬化、 足の皮膚潰瘍や壊疽、などが臨床的な病態として現れてきます。

糖尿病の検査、治療には保険がききますか

 1型糖尿病は小児特定疾患として認定を受けると、この病気に関連する検査、治療については自己負担がほとんど必要なくなります。
 2型糖尿病は他の一般疾患と同様に自己負担分は3割となります。いずれでも腎不全を合併して血清クレアチニンが8.0mg/dl以上になると身体障害者1種1級を申請することができます。
これは透析患者の自己負担分が1割、腎移植のドナー、レシピエントとも手術、入院費用をカバーする保険となります。

1型糖尿病患者のサマーキャンプがあると聞きましたが

 日本の各地で、糖尿病専門医を中心にして1型糖尿病を発症して間もない子どもたちや家族が集い、正しい知識、生活習慣、 薬物療法を多くの仲間とともに身につけていくという目的でサマーキャンプが開催されています。
福岡県の場合、「ヤングホークス」、「I(あい)の会」という集いがあって、若い1型糖尿病の患者さんたちは、日頃の悩みや治療のことで互いに励まし合っています。

糖尿病性腎症

糖尿病になるとどうして腎臓が悪くなるのですか

 1型でも2型でも糖尿病は全身の血管病変がその本態ですから、腎臓の尿を作る糸球体という、 毛細血管の固まりのようなところが次第に硬化して腎臓の機能が衰えてきます。
腎臓は尿を作って、水、老廃物、酸・電解質を排泄するだけでなく、 造血ホルモンを分泌したり、ビタミンDの活性化など重要な働きをしています。慢性糸球体腎炎や高血圧のときと同様に腎機能が60%以上低下すると、 むくみ、気分不良、食欲低下、意識障害、高血圧などの症状が出てきます。

腎不全になったらどうしたらいいですか

 他の原因で腎不全になった場合と変わりませんが、糖尿病のコントロール、適切な運動、低塩分・低蛋白な食事、降圧剤、貧血・骨病変・電解質異常の治療、 定期的な通院・検査などを行って、少しでも腎不全の進行を遅らせるように努めます。
糖尿病性腎症から腎不全になった場合は、他の全身合併症、たとえば心機能障害、 脳循環障害が進んでいることが多く、心筋梗塞、脳卒中、感染症の併発がないか注意が必要です。尿毒症の症状が出てくれば、透析導入となりますが、 治療の選択肢として腎移植、膵腎同時移植も早期の段階で考慮されるべきです。

膵臓移植、膵腎同時移植を受ける前に

どのような人が膵臓移植を受けられるのですか

 前述したように、1型糖尿病で内科的治療が困難な人には膵臓移植が勧められます。
膵臓移植は、脳死あるいは心停止のドナーから膵臓を十二指腸とともに移植するか(全膵移植)、生体ドナーから膵体尾部を移植すること(部分膵移植)によって、 インスリンの適正補充、糖代謝の正常化、合併症の進展阻止、QOL(Quality of Life:生活の質)の改善、さらには救命、延命効果を期待する治療法であり、 欧米では糖尿病に対する根治療法として考えられています。
発症後まもなくで、全身合併症が進行しておらず血糖コントロールが困難な人には膵単独移植(PTA)、腎不全を併発すると、 一人のドナーから膵臓と腎臓をもらって移植する膵腎同時移植(SPK)、あるいは先行して生体腎移植や献腎移植を受けておいて、 異なるドナーから膵臓だけをもらって移植する腎移植後膵移植(PAK)があります。
しかし、活動性の感染症、肝臓疾患、 消化性潰瘍や悪性腫瘍を有している人は移植手術を受けることが出来ません。また、糖尿病や腎不全に伴う合併症が高度に進行して、 動脈硬化、脳血管病変、心血管障害が強い人も慎重に検査をしてから手術が受けられるかを決定します。

膵臓移植の現状を教えて下さい

 米国ミネソタ大学に本部がある国際膵移植登録によると(図1:世界の膵臓移植)、2003年6月現在、全世界で19,685例の膵移植が登録されており、 14,332例が米国内、5,353例が米国以外で施行されました。
1999年以降、レシピエント患者の1年生存率(膵臓移植を受けた人が1年間、生きている割合)は、 SPK 95.0%, PAK 94.9%, PTA 98.4% で、移植膵の1年生着率(移植した膵臓が機能して、移植1年後でインスリン注射が必要でない割合)は SPK 84.7%(同時に移植した移植腎生着率は92.0%)、PAK 78.5%、PTA 78.2%と成績が飛躍的に向上していますが、これは移植にまつわる手術手技、術後管理の改善、 強力で副作用の少ない免疫抑制剤の登場によるところが大きいと言えます

5年生存率、5年生着率を入れること
世界の膵臓移植

日本でも、膵臓移植中央調整委員会の尽力によって膵臓移植の登録から移植手術までを全国支援体制で行えるようになり、 現在は全国で12施設がネットワークへ待機患者を登録できる膵移植認定施設となっています(下図5:選定作業により「適格」とされた12施設)。
1997年10月の臓器移植法制定後2006年11月末現在、1型糖尿病で腎不全を合併した患者に対して、脳死ドナーから29例、 心停止ドナーから2例の31例の膵腎同時移植(SPK)あるいは腎移植後膵移植(PAK)が施行されています。
31例のドナー状況は日本臓器移植ネットワークのホームページに詳しく記載されていますが、首都圏から15件、その他の地域から16件の提供があって、 九大、阪大、東京女子医大、福島医大、北大、京都府立医大、神戸大病院で移植が実施されています。
臓器移植ファクトブック2006膵臓(http://www.medi-net.or.jp/tcnet/JST/fact_06/fact06_05.html)によると、
2005年8月31日までに施行された27例のドナー状況、 レシピエント状況が公開されています。ドナーの性別は女性16例、男性13例、年齢は50代が10例、40代が9例と66%が40歳以上の高年齢層、 脳死の原因の72%(21例)は脳血管障害で、総冷虚血時間は膵臓が平均11時間35分、腎臓が平均12時間52分とあります。
レシピエントの性別は女性15例、男性14例、年齢は30歳代が20例と大半を占めており、透析歴は平均6.0年、 インスリン歴は平均24.4年、登録から移植までの待機期間は平均920日と記載されています。
米国の膵臓移植と比較して、日本の特徴はドナー年齢が10歳以上高齢であり、死因も脳血管障害が多く、心停止ドナーも2例も含まれています。 レシピエントの罹病期間、待機期間も欧米に比較して長く、ドナー数が少ないために待機期間はさらに延長して、 悪い条件のもとで移植を実施しなくてはならない状況になっています。
31例の移植術式については、1年前に生体腎移植を受けたPAK3名、以前にSPKを受けて膵グラフト摘出後のPAK1名、その他27名はSPKです。
学会での報告をまとめると、現在まで4例の膵臓が摘出あるいは廃絶、1例の腎臓が廃絶しているのみで死亡例はなく、ほとんどのレシピエントが社会復帰を果たしています。

選定作業により「適格」とされた12施設

 九州大学では、31例のうち、日本で最大数の13例の膵臓移植を実施しています。
下図3に2001年8月17日の当科第1例目の膵腎同時移植から2006年10月28日の第13例目までのドナー状況、 レシピエント状況をまとめました。
首都圏からの提供が7例、その他の地域からが6例です。ネットワークから第1報を受けてドナーチームが出動し、 提供病院で膵臓あるいは腎臓を摘出して九大病院に帰還し、ただちにレシピエントの手術を開始します。
提供病院を出発してから九大病院に帰還するまでの臓器搬送時間は平均4時間35分でした。
ドナーの平均年齢は39.0歳(21歳-58歳)でした。レシピエントの平均年齢は36.7歳、 性別は男性が2名、女性が11名、ネットワークへ登録してからの待機期間は平均799.5日(156-2247日)でした。
13名の患者さんは1型糖尿病を発症してからインスリン治療歴が23.2年(17-35年)、透析導入になってからは4.7年(1-13年)経過していました。
膵腎同時移植(SPK)を受けた人が12名、腎移植後膵移植(PAK)が1名で、このうち心停止ドナーから膵腎同時移植を受けた人が2名あります。
ドナーの体内で摘出のために臓器の血流を遮断してからレシピエントの体の中に移植してその臓器に血流が再開されるまでの時間を虚血時間といいますが、 膵臓は12時間38分(8h49m-20h39m)、腎臓は15時間8分(12h15m-18h45m)でした。
全員が網膜症の既往があり、片盲、全盲の人もおられます。末梢神経症状、 消化管障害を持っていた人も多く、動脈硬化がひどくて心臓の血管にステントを入れていた人もいます。
13名のうち、 1名は10ヶ月間免疫抑制剤を内服しなかったために慢性拒絶で機能廃絶が近い人もいますが、あとのかたは移植膵、移植腎機能が良好で社会復帰されています。

九州大学病院における膵臓移植13例のドナー状況、 レシピエント状況

膵臓移植、膵腎同時移植の登録はどのようにしてするのですか

膵臓移植の登録をする前に、患者さんの状態が、
 1. 移植が必要なのか、
 2. 麻酔や手術に耐えられるのか、
 3. 癌や感染症などが潜んでいないか、
 4. 移植後に通院、自己管理がきちんとできるか、
 5. 家族や職場のサポートはあるか、
などを詳しく調べる必要があります。
 自分は1型糖尿病と思っていたり、かかりつけのお医者さんから膵臓移植の適応かなと言われたら、 このホームページか電話で気軽に質問をお寄せ下さい。
 九州大学では上記の項目を通院か入院で検査して、登録審査をうけるための書類を作り、 かかりつけの主治医の先生か当院の糖尿病内科の先生から、膵臓移植中央調整委員会に申請書類を提出します。
これが地域の膵臓移植適応検討委員会で審査されて、しかるべき手術の適応ありと判断されますと、当院内科、精神科、移植コーディネーターの診察、面談を受け、 移植委員会で審査したうえで日本臓器移植ネットワークに登録する手続きを行います。
詳細をお知りになりたい方は、膵臓移植中央調整委員会ホームページに詳しく載っていますので、そちらをご覧下さい。 膵臓移植の待機患者として、最終的に日本臓器移植ネットワークに登録されるためには、初回登録料として3万円、 毎年更新をするための更新手数料5千円を払う必要があります。膵腎同時移植の適応と判断された方は腎臓についても同様な手数料を払わねばいけませんので、 初回登録が6万円、年間更新料が1万円必要となります。

移植までの待機期間中に心配事や疑問が出てきた、 移植を受ける気持ちが変わった、などという場合には、入院中・通院中に関わらず、 いつでもレシピエント登録を辞退することができます。
気軽に我々スタッフやコーディネーター、看護師に相談して下さい。

下図4に平成18年10月27日現在のネットワーク登録状況を示します。
九州大学の登録患者は23名で20名は膵腎同時移植、2名は腎移植後膵移植、1名はまだ腎機能が良好なうちに膵臓単独移植を希望している患者さんで、 登録手続き中の人が3名、登録前検査で入院中の人が2名います。
登録患者さんは、九州・沖縄はもとより中四国、近畿、中部、関東在住のかたもおられます。
ネットワークに連絡すれば、登録希望施設はいつでも、どこにでも患者さんの希望で変更することが出来ます。 九州大学の登録患者さんが転居の都合で他施設に変更した場合もありますし、逆の場合もあります。
ネットワークやコーディネーターあるいは我々スタッフでもかまいませんので、移植の取り下げや登録施設の変更なども気軽にご相談ください。
第1報を受けてドナーチームが提供病院に緊急出動し、臓器を携えて九大病院に帰還するまで、相当の時間がありますので、 全国どこにお住まいのかたでも緊急入院して手術を受けることができます。
実際に、当科の移植患者さんは、関東地方、新潟県、北海道のドナーから移植を受けた人が多くいます。
また、当科では心停止ドナーから膵腎同時移植を受けて、長期にわたり元気に社会復帰している人が2名いるので、 ネットワークから心停止での膵臓移植ドナー発生の連絡を受けたとき、 状況が良ければ、我々の判断で待機患者さんに勧めるようにしています。

ネットワーク登録状況

登録してからどのくらい待たないといけないですか

2006年発行の臓器移植ファクトブックによると、2006年7月31日現在で144人が登録しており、29名が移植を受けています。 この29名の平均待機期間は920日と記載されています。この間に待機患者で死亡されたのは15名、重篤な合併症により登録からはずれたのは5人です。

ドナーが出たとき、レシピエントはどのようにして決められるのですか

図6に膵臓移植のドナーが現れたときのレシピエント候補が選択される基準を示していますが、詳細は日本臓器移植ネットワークのホームページに掲載されています。

図6:膵臓のレシピエント選択基準

登録待機患者のうちドナーと血液型が一致(たとえばA型からA型)あるいは適合(たとえばO型からA型)していて、 リンパ球直接交叉試験つまり抗体反応が陰性であることが適合するための前提条件となります。
実際にはドナー提供病院の近くにあるHLAセンターにドナーの血液を採取して、 緊急でこのような検査をしてもらいます。
コンピュータ上では複数の患者さんが候補にあがってくるので、更に優先順位を決めるための規則があります。 血液型が一致する方が適合する患者さんより優先されます。HLAのミスマッチ数の少ない順に優先順位を決定しますが、 それらの条件が同一の移植希望者が複数存在する場合は、膵臓と腎臓の提供があった場合、膵腎同時移植、腎移植後膵臓移植、膵単独移植の順で優先されます。
さらに、登録してからの待機日数が短い候補者を優先し、それも同一であるなら搬送時間が短い候補者という順番で選定されて、 各移植施設に連絡が来ます。
また、膵腎同時移植希望者が選定されたものの、臓器摘出手術の開始以降に膵臓が移植に適さないことが判明した場合には、 腎臓移植希望者の選択をやり直すことなく、当該膵腎同時移植希望者に腎臓のみを配分します。

HLAとは体内を循環している白血球の型で、体内に入ってきたものを白血球が自分の一部か自分以外のものかを認識する標識のようなものですが、 両親から遺伝的に受け継いでいます。数多くのHLAタイプがありますが、特に移植に関与するのはHLA-A(27種類)、HLA-B(57種類)、 HLA-DR(21種類)で、一人の人がそれぞれについて2つずつ、合計6種類のタイプを持っています。
ドナーとレシピエントが持っている、この6種類の番号が合っているほど(HLA match数)、あるいは違っている番号の数が少ないほど(HLA mismatch数)、 移植をしたときに拒絶反応が起こりにくいということになります。
たとえば、両親がHLAのA・B・DRのひとつずつを1組として合計で2組のHLAを持っていると、 その子供は父親の1組と母親の1組を受け継ぐため4通りの組み合わせができます。他人同士の場合、HLA6個がまったく合致している確率は1万人に1人、 日本人では50人から千人に1人しかいないといわれています。

現実的には、脳死ドナーの場合、第2回目の法的脳死判定が終了し死亡宣告されると、 ネットワークのコンピュータがはじき出した優先順位にしたがって 膵臓・腎臓のレシピエントが選定され、上位候補から順番にその移植登録施設に対して連絡が入ります。
他の臓器についても同様に選定されて、 各移植施設に連絡が入ります。移植施設は該当するレシピエントに連絡し、移植を受ける意思と体調を確認して、ネットワークに「意思あり」の返事をします。 移植施設のドナーチームは摘出器材を準備し、提供病院までの交通手段を確保して、ただちに出動します。

九州大学では、摘出道具を入れたスーツケース、潅流保存液と氷冷水を入れたクーラーボックス、滅菌済みの手術機械を入れたコンテナを携えて、 3−4名から成るドナーチームがいつでも、どこにでも1時間以内で出動できるように準備をしています。
心停止ドナーの場合、ドナーが生前にドナーカードで心停止後に膵臓を提供してもよいと意思表示をしていて家族の同意が得られたら、腎臓と膵臓の提供を受けることができます。 脳死ドナーの場合と同様に連絡が入りますが、心停止ドナーは、膵臓、腎臓以外の臓器の摘出はないことと心停止の死亡宣告まで待機しなければならないという点が異なっています。
技術的には、臓器の虚血時間を少しでも短縮するために迅速に膵臓・腎臓を摘出することと搬送、手術時間を含めて移植手術を短時間に行うことが必要です。

膵臓移植、膵腎同時移植とはどのようにしてするのですか

膵臓移植、膵腎同時移植は、
 1. 提供病院におけるドナーからの膵臓、腎臓摘出手術、
 2. 移植施設に帰って、臓器を移植できる形に整えるBench surgery、
 3. レシピエントへの移植手術
の3部から成り立っています。

提供病院でのドナー手術は、ドナーとご家族の尊い意思、そして懸命の治療を続けてこられた提供病院の先生方の情熱に応えるための第1段階で、 摘出医として責任を感じ、緊張する瞬間でもあります。
不意に不慣れな環境で、多くの関係者の注目のなかで行うものであり、 ケース・バイ・ケースで状況も異なっていますが、正確で迅速に摘出する技量と知識が要求されます。
通常のドナー手術は、体内潅流につづいて、 肝臓、膵臓と順次摘出した後に、左右腎臓をまとめて摘出しそれを左右の腎臓に分離します。状況によっては肝臓と膵臓をまず摘出してそれを分離したり、 急がねばならぬ時は肝臓・膵臓・左右腎臓をまとめて摘出しておいてそれぞれ分離していく場合もあります。
臓器は保存液に浸して、クーラーボックスのなかで氷冷して大切に搬送します。摘出手術が終了すると、 ドナーチームは各移植施設に向かう帰途に急ぎますが、各臓器摘出チームの一員を現場に残しておき、 敬意を持ってご遺体のお見送りをし、関係者の方々にお礼を述べて提供病院を出発します。

ドナーチームが帰還してくるころには、レシピエントチームと移植コーディネーターは、 レシピエントの緊急入院・検査、透析、麻酔科、手術室、ICU準備、インフォームドコンセントをすべて終了して、ただちにBench surgeryに取りかかることが出来ます。
Bench surgeryでは、膵臓の大きさ、色調、固さを調べ、膵臓周囲の脂肪浸潤や潅流状態を確かめて、レシピエントに移植したら機能するであろうと判断します。 十二指腸を短縮し周囲組織をトリミングします。
膵頭部と膵体尾部の動脈をドナーのY字動脈を用いて1本化し、門脈もドナー静脈を用いて延長して、血行再建をしておきます。
我々のレシピエント手術は、原則として別々の下腹部斜切開を用いて膵臓を右に、腎臓を左に移植しています。腸骨動静脈の周囲組織を剥離し、 吻合に適した部位をさがし、静脈、動脈の順に外腸骨動静脈に端側連続吻合を作成します。
再潅流したら、膵頭部と膵体尾部の動脈の拍動を触知、静脈の流出、 膵実質の潅流も良好ならば十二指腸に膵液が充満してきます。膵液を産生するとともに、インスリン分泌も始まり術前血糖200-300 mg/dlが手術室を退室する頃100-150mg/dlに低下します。 膵液を排出するために十二指腸を空腸か膀胱に吻合して、膵移植を終了します。つづいて、腎移植は左下腹部斜切開で腹膜外腔を開き、 外腸骨動静脈を露出して端側吻合で腎動静脈を吻合します。再潅流したら、尿管膀胱吻合を作成して終了です。

九大病院では、マニュアルに沿って警備・報道・院内連絡体制も整備されており、見学者も受け入れています。

膵臓移植をしたら糖尿病は良くなりますか

膵臓移植や膵腎同時移植は、インスリンを分泌しなくなった膵臓や腎不全で萎縮した腎臓をもとに戻す治療法ではありません。
1型糖尿病に対して膵臓移植を行うと、血糖の値に応じて自動的に適切な量のインスリンが分泌されるので、低血糖、意識消失、高血糖、 アシドーシスや倦怠感、嘔気・嘔吐、腹部膨満感、足先のしびれなどの自覚症状は改善しますが、網膜症、動脈硬化、心血管障害などの完成された合併症は残念ながら治癒しません。
膵腎同時移植は腎不全症状を改善しますが、腎移植の場合と同様に長期透析に伴う合併症を治癒させることはできません。

九州大学で2005年末までに移植後2-54ヶ月経過した膵臓移植、膵腎同時移植患者10名について、 移植の前後で生活の質(QOL)つまり自覚症状や日常生活の活動度がどれだけ変化したかを調べました(下図:QOL調査)。
10名の平均年齢36.0歳、女性9名、男性1名で、 平均糖尿病罹病期間22年、平均透析期間4年、平均待機期間27ヶ月で、全例インスリン療法と透析療法から離脱できています。
腎不全に至った1型糖尿病患者ではすでに不可逆性の合併症を有している場合が多いのですが、現在、朝食前血糖90±3 mg/dl、HbA1c 5.5±0.3%、Cr1.0±0.4 mg/dlで、 身体機能、痛み、全体的幸福感、活力、社会生活機能、精神機能、心の健康のすべてにおいて著明に改善し、日本人の平均レベルまで改善していました。
このなかには、2004年膵腎同時移植を受けて1年後に結婚し、名古屋に転居されているかたもおられ、
ホームページ「私の移植体験」(http://homepage3.nifty.com/sui-jin/)にご自分の心情を公開されています。
多くの1型糖尿病の患者は早期発見・早期治療で、病気と共存しながら人生を享受しています。
しかし、日本人の1型糖尿病で進行が速い場合、10代で発症、30代で透析導入、40代で心疾患、脳循環疾患、感染症で死亡するという経過が懸念されており、 ここに挙げた患者さんはまさしくそのような運命を背負った人たちです。このような内科的治療が困難な人を対象に行う膵臓移植あるいは膵腎同時移植は、 人生の最良のときを健康人と同様な、充実した日々を送り、できるだけ長生きしてもらうための現時点ではもっとも効果的な治療法です。

QOL調査

生体ドナーからも膵臓移植はできますか

死体ドナーから行う膵臓移植が十二指腸も付けた全膵移植であるのに対して、生体ドナーからの膵臓移植はドナーから膵体尾部を動静脈とともに切除して、 それをレシピエントに移植する部分膵移植です。
生体ドナーからの膵臓移植は、国際膵移植登録によると、2001年10月1日までで142例が登録されており、120例がミネソタ大学で行われています。
そのうち34例が膵腎同時移植で、膵腎同時移植の術後成績が脳死ドナーからの膵腎同時移植268例と比較されています。
5年後にレシピエントが生きている割合(5年患者生存率)は生体ドナーからが100%、脳死ドナーからが88%です。
また、5年後に膵臓が機能している割合(5年生着率)は生体ドナーからが81%、脳死ドナーからが73%です。
これは臓器保存の必要がないことや拒絶反応が軽いということが理由として考えられます。

日本では、臓器移植ファクトブック2006膵臓 (http://www.medi-net.or.jp/tcnet/JST/fact_06/fact06_05.html)によると、
2004年1月にわが国で第1例目の生体膵腎同時移植が実施され、2006年8月31日現在、8例の生体膵臓移植(SPK:5例、PAK:1例、PTA:2例)が実施されています。
詳細は今後の報告を待たないといけませんが、千葉東病院で6例、大阪大学病院で1例、新潟大学病院で1例施行され、結果は良好と聞いています。

九州大学では、生体ドナーからの膵臓移植、膵腎同時移植を希望する患者さんとそのご家族は以前からありましたが、 ドナーの膵臓を半分(膵体尾部)摘出することに対する懸念から慎重に対応してまいりました。
米国での生体膵臓移植に関する長期結果の報告、日本国内での実施例、韓国での実施例を充分に検討し、ドナーとレシピエント双方の医学的、倫理的なメリットとデメリットを予測、 説明した上で生体ドナーからの膵臓移植を実施することに決めました。
その後、2005年12月27日に生体膵臓移植に関して学内倫理委員会の承認を受け、年内に夫婦間、兄弟間の2組の生体膵腎同時移植を予定していましたが、幸いにもこの2組のレシピエントは脳死ドナーからの膵腎同時移植を受けることができ、現在元気に社会復帰されています。
当科の登録あるいは申請希望患者のうちすでに6名が亡くなっており、ドナー不足のために待機時間はますます長くなっていますので、 このような人たちを救命するために今後は生体ドナーからの膵臓移植、膵腎同時移植を増やしていこうと思っています。

生体膵臓移植、生体膵腎同時移植はどのようにして行うのですか

膵臓は胃の背側、大動脈・下大静脈の腹側、十二指腸の左側に位置する長径15cm、幅4cm、厚さ1cmぐらいのピストルに似た形をしており、 右半分の膵頭部と左半分の膵体尾部に分けることが出来ます(下図:レシピエント手術)。
生体膵臓移植のドナー手術の場合、膵体尾部(部分膵)を動静脈、膵管とともに切除して、 残った膵頭部の断端はきちんと縫合・閉鎖して血液や膵液が漏れないようにしておきます。
摘出した膵体尾部はBench surgeryで、冷却した潅流液で潅流し、レシピエントに移植できる状態にしておきます。
レシピエントは右下腹部を切開して右足の腸骨動静脈に膵体尾部の動静脈を吻合し、 血流が再開したら膵管を膀胱に吻合して膵液は膀胱に流れるようにしておきます。
生体膵腎同時移植の場合は、ドナーから膵体尾部と左腎を摘出して、レシピエントの手術は膵部分移植と同じように右下腹部に膵体尾部を移植し、 対側の左下腹部に腎移植を行います。移植腎の尿管は膀胱に吻合しておきます。

レシピエント手術1
レシピエント手術2

生体から膵臓を提供したドナーはその後どうなりますか

いかなる移植であっても、生体ドナーから行う場合、提供後に大きな合併症や後遺症が残るようなことや、 レシピエントが何か圧力を感じていたり、金品授受関係があってはなりません。
我々は、術前に医学的、倫理的な側面から十分に検討し、 学内倫理委員会で審査したのちに行うようにしています。

九州大学における生体膵臓移植ドナーの基準は、
 1. 6親等以内の血族、3親等以内の姻族であること、
 2. 精神科受診で、虚偽がない、自発的な意志による提供が確認できること、
 3. 糖尿病の家族歴がないこと、
 4. HbA1cが<5.6%で潜在的な糖尿病ではないこと、
 5. 75gOGTTで正常型、insulinogenic indexが>0.5でインスリン分泌能が十分であること、
 6. BMI<25で肥満がないこと、
を必須の条件としており、
さらに、年齢は65歳以下が望ましく、CTで膵臓の大きさや周囲脂肪の量を考慮して最終的に決めています。
海外文献によると、ドナー手術に関連した短期合併症では、脾臓摘出が10-15%、膵炎、膵液瘻、腹腔内膿瘍(膿がたまること)が5%と報告されていますが(Ann Surg1997)、 一般的な開腹術と同様に術後出血、創感染、無気肺、尿路感染、深部静脈血栓症も起こりえます。もちろん、死亡例はありません。
ミネソタ大学で行われた生体膵臓移植のドナー46名について長期成績が公表されています(Transplantation Proc 2001)。 1996年9月1日以前の10名のうち3名が6年以上を経てインスリンが必要になったが、それ以降のドナー36名については、 HbA1cが4.9%から6.2%と正常範囲であったこと、また、46名のうち43名は正しい選択をしたと記載されています。 術後、耐糖能異常を起こさないようにするには、肥満にならないことがもっとも大切であると指摘しています。

膵島移植はどのようになっているのですか

膵・膵島移植研究会・膵島移植班の事務局が福島県立医科大第1外科にあって、 そのホームページ・アドレス(http://square.umin.ac.jp/JITR/index.htm)に入ると、膵島移植に関する詳細な情報が公開されています。
その中に、
 1. 膵島移植の沿革、
 2. 膵島移植実施施設、
 3. 膵島移植の適応と選択基準、
 4. 申請と登録方法、
 5. 登録状況(2006/09/20現在)、
 6. 膵島移植の成績
という項目があって、さらに「膵島移植の説明書」をダウンロードして内容をみてみると、
  a) 膵島とは、
  b)膵島移植と膵臓移植(臓器移植)との違い、
  c)膵島移植の対象とレシピエント登録、
  d)移植の成績、
  e)移植方法、
  f)移植時の合併症、
  g)移植後の合併症、
  h)移植後の経過、
  i)日本における現状
について患者さんにわかりやすく説明してあります。

1型糖尿病の患者さんや家族から当科に寄せられる多くの質問をまとめると、
「移植を希望しているが、現時点では膵島移植と膵臓移植のどちらを受けたらよいのだろうか」と いうことに集約されます。

内科的治療が困難な1型糖尿病が適応で、ドナーが不足していること、免疫抑制剤を服用する必要があることは両者に共通です。
膵臓移植、膵腎同時移植は海外でも日本でも1型糖尿病に対する根治療法として認知されていますが、 一般の開腹手術と同様に全身麻酔や手術手技にともなう危険性、合併症の可能性があります。
しかし、膵臓移植はドナー病院における摘出手術も移植手術も2006年4月から保険適応となったので、 患者さんの自己負担が軽減され、一般医療として国からも認められた治療法といえます。

いっぽう、膵島移植は局所麻酔下で肝臓を穿刺して注入するだけという簡単なものですが、
 1. エドモントン・プロトコールを用いて複数回の移植を行っても、次第にインスリン分泌量が少なくなって、 移植後5年ではインスリン注射が不要なひとは7.5%に低下したこと(Diabetes 54, 2005)、
 2. 膵島移植1回について300-400万円の患者自己負担が必要であること
が欠点です。

さらに、現在、腎移植の領域で、以前の輸血歴や移植によって感作されて次の腎移植が困難になっている人が大きな問題となっているように、 複数ドナーから新鮮膵島の注入を繰り返すことによって感作されたレシピエントが、将来、膵臓移植や膵腎同時移植を受けることが困難になる懸念があります。
現実に、拒絶された膵島移植のレシピエントが感作されて抗HLA抗体が出来ていることが報告されています(Transplant Proc 1997,29)。
膵島移植は、近年飛躍的に進歩したこと、低侵襲で短時間にできること、再生医療の最先端に位置づけられることから、 将来的には有望で不可欠な治療法といえましょう。

当科での移植手術を希望されたかたに対しては、ここに述べた現状を紹介し、 膵臓移植と膵島移植の現時点におけるプラス面とマイナス面を説明して前者を薦めるようにしていますが、 患者さんが充分に理解されたうえで膵島移植を選択される場合、希望される膵島移植施設を紹介しています。

膵臓移植、膵腎同時移植を受けた後

免疫抑制療法はどうするのですか

免疫抑制剤は進歩しており、拒絶反応を起こす頻度は少なくなっています。膵臓移植、膵腎同時移植における免疫抑制療法は原則的に腎臓移植のときと同様に行っています。
1. ネオーラルまたはプログラフ、
2. セルセプトまたはブレディニン、
3.プレドニンまたはメドロール、
という3剤を基本の経口免疫抑制剤として移植前から内服し、
4. シムレクトを移植日と4日目に点滴注射する
というのが、九州大学で行っている通常の免疫抑制療法です(下図:免疫抑制療法プロトコル)。

また、ステロイドの副作用を軽減するために、小児や糖尿病の方を中心にステロイドの減量・中止を行っています。 膵臓や腎臓が生着している間は免疫抑制剤を飲み続けなければなりませんが、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染にかかりやすくなるので、 定期的な通院・検査や、異常があれば速やかな検査・治療が必要です。

免疫抑制療法プロトコル

拒絶反応の診断と治療はどのようにしてするのですか

拒絶反応には大別して3種類あります。
以前に輸血、移植、あるいは妊娠歴があってレシピエントの血液中にドナーに対する抗体ができてしまっている人がいます。
このような状態で、膵臓や腎臓を移植しますと再潅流してから30分ぐらいで血栓が生じ、臓器の血流が途絶えて黒くなってしまいます。
これは超急性拒絶反応と呼ばれ、術前のクロスマッチテストや血漿交換、術前免疫抑制剤投与で予防に努めますが、 いったん起これば臓器を摘出しなければなりません。
また、移植後1週間ぐらいから起こってくるのが急性拒絶反応で、一般的に「拒絶」と言われるもので、 抗体よりもリンパ球が移植臓器を攻撃することによって起こります。
最近は免疫抑制剤の進歩によって拒絶反応の発生頻度が減少していますし、 多くは早期発見・早期治療で治ります。

膵臓移植後の急性拒絶反応の兆候には、発熱、腹部膨満感、移植膵の腫脹・圧痛、血清アミラーゼ、血清リパーゼの上昇、 尿中アミラーゼ排泄量の減少などがあって、膵腎同時移植の場合は移植腎の拒絶反応と同じ症状が加わってきます。
局所麻酔下で小開腹し、移植膵の膵尾部を一部採取して顕微鏡で見る膵生検を行いますが、膵腎同時移植の場合には、対側の腎生検を行って確認します。
治療には免疫抑制剤増量、ステロイドパルス療法、スパニジン点滴、OKT3、リツキサンといった抗リンパ球抗体投与、血漿交換、 大量ガンマグロブリン療法などがありますが、点滴中心の治療ですので、九大病院では緊急入院ですみやかに治療を開始します。
慢性拒絶反応は、移植後3ヶ月以降から起こってくるもので、腎移植の場合に少しずつ腎機能が低下して線維化が進んでいくように、 膵移植の場合にも尿中アミラーゼの排泄減少、血糖値の上昇がみられて膵生検をしてみると線維化が進んで、膵臓が硬く萎縮しているという状況になります。
慢性拒絶反応の明確な原因は不明ですが、微量な抗体が出来てこれが移植臓器を少しずつ攻撃しているという免疫学的な要因と、 免疫抑制剤の副作用、高血圧、高脂血症、肥満などの非免疫学的な要因に分けられています。
最近はフローサイトメーターという機械を用いて、 このような微量な抗体の存在がわかるようになり、急性拒絶反応に対して行うような治療で慢性拒絶の進行を止める、遅らせるという試みがされています。

九州大学でも、2006年9月からFlowcytometric crossmatch, Flow PRAの測定が可能になり、術前、術後を通じて抗体性拒絶や慢性拒絶の診断、治療に大いに役立っています。

膵移植の費用と保険はどのようになっていますか

九州大学病院は2004年12月に膵臓移植が高度先進医療として承認され、2006年4月からは死体ドナーからの膵臓摘出、膵臓移植ともに保険診療となりました。
膵臓摘出費用が46万8千円、膵臓移植費用が88万6千円で合計136万円、2ヶ月間の入院、検査、投薬で合計約400万円かかります。
現時点で3割の自己負担が必要となりますので、約120万円を九大病院の窓口に支払うことになります。
しかし、所得に応じた高額医療費返還の制度がありますので、 半年ぐらいたって医療費の払い戻しを受けることが出来ます。
国民健康保険の場合は市町村役場へ、社会保険の場合は勤務先を通じて払い戻し申請書と医療費の領収書を提出すると、 所得が多い人は月額15万円を超える額の還付を受けることが出来ます。
つまり、2ヶ月間で120万円の医療費を支払ったひとは、90万円ぐらいの払い戻しを受けることになります。
死体ドナーからの膵腎同時移植の場合、患者さんは身体障害者一級をお持ちかと思いますので、手続きを行えば更生医療、身体障害者医療、特定疾病療養費制度などの公費補助制度を用いて、 患者さんの自己負担額は月額数万円程度ですむようになっています。

生体ドナーからの膵臓移植の場合、身体障害者の認定や公費補助制度がありませんので、 ドナーからの膵臓摘出、レシピエントの膵臓移植にかかる費用を全額自己負担で準備することが必要となります。
一度退院されて、外来で検査、投薬を受けたり、再入院する場合には通常の疾病と同じように、かかった医療費の3割を自己負担することになります。
生体ドナーからの膵腎同時移植の場合、生体からの腎臓移植とあまり変わらない医療費でドナー、レシピエントの手術を行うことが出来ますし、 患者さんは身体障害者1級の資格をお持ちですと自己負担はあまり多くないと思われます。
いずれにしても、生体ドナーからの膵臓移植はまだ保険適用になっていないので今後、 症例数を増やして高度先進医療の承認や保険診療の承認ができるように努力していきます。

患者さんによって個々の状況が異なりますので、 九大病院では医事課や患者サービス課で相談を受けるようにしていますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
九州大学病院(代表)092-641-1151

LastUpdate 2009-12-22
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