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前立腺癌に対する小線源治療
(ヨウ素125密封小線源低線量組織内照射
)  患者様へ

ヨウ素125密封小線源永久挿入療法とは
 「ヨウ素125密封小線源永久挿入療法」とは放射線を出すヨウ素125を入れた
 長さ5mm程度のシードといわれる物質を前立腺の中に永久的に挿入し、
 前立腺の中から放射線を前立腺に照射し癌の治療を行う前立腺癌に対する
  放射線治療の一種です。
  体への負担が少なく大変いい治療法ですが、この治療を実施できる患者様と
  適応にならない患者様がいらっしゃいます。
  また、どの治療法にもあることですが利点と欠点があります。
  これからこの治療法について詳しく説明しますので、よく読んでいただき担当医と
  十分話し合った上で、この治療を受けられるかどうかを決めてください。

小線源療法とは
 「小線源療法」とは小さな放射性物質を治療する部所に挿入して行う放射線治療です。
  英語ではブラキテラピー(brachytherapy)と言われています。
  ブラキ(brachy)とは短いという意味で、放射線源と照射目標との距離が短いことから
  このように呼ばれています。日本においても古くから、口腔内の癌や婦人科領域の癌に対し   ラジウム、セシウム、金などの放射性物質を用いた小線源療法が行われてきました。

小線源療法の歴史
  1970年頃、アメリカでは前立腺癌に対しヨード(I-125)を密封した小さな線源(シード線源)を前立腺の中に挿入して照射を行う組織内放射線療法が行われていました。
その頃は下腹部を切開し、直視下に前立腺内にシード線源を目算で挿入していたため、線源の分布が不均一でした。そのため期待する程の治療効果が得られず、広く普及するに  は至りませんでした。
   その後、直腸に細い超音波端子を挿入する前立腺用の経直腸エコーが開発され、前立腺の超音波画像が鮮明に得られるようになりました。そのお陰で、超音波画像を見ながら会陰部(肛門と陰嚢の間の股の部位)から前立腺内に針を刺して、そこからシード線源を挿入することができるようになりました。
 切開をせずに、しかも正確な位置に線源を挿入することができるようになって治療成績も向上したため、1990年頃からI-125シード線源を用いた小線源療法は脚光をあびるようになり、この治療を受ける前立腺癌患者はアメリカでは年々増加しています。最近では年間50,000人以上がこの治療を受けており、これは前立腺全摘手術を受ける人とほぼ同数です。

  日本ではI-125などの線源を体内に留置することが法律上認められていませんでしたので、
I-125シード線源を用いた治療は行われていませんでした。
日本で前立腺癌に対する小線源療法として行われていたのは、イリジウム(Ir-192)という線源を一時的に前立腺内に留置する方法で、1994年から開始されました。
  これも優れた治療法で、2002年12月までに全国の10数施設で合計750人程がこの治療を受けられました。 しかし、アメリカで行われているようなI-125シード線源を用いた治療の方が患者さんに与える侵襲が少なく、多くの線量の照射が可能な点などで、
  Ir-192による治療よりも利点が多く、日本においても長らくその治療が望まれてきました。2003年3月にようやくI-125シード線源の永久留置が医療法上認可され、 7月には放射線障害防止法上の問題も解決し、I-125シード線源を用いた治療が日本で施行 可能となりました。

今後は日本においてもこの治療(ヨウ素125密封小線源永久挿入療法)が
前立腺癌小線源療法の中心となっていくものと考えられています。

小線源療法の特徴
1.放射線障害がおこりにくい
 前立腺癌の場合、前立腺内の癌の存在部位が画像上明確に示されません。
そのため、前立腺癌に対し放射線治療を行う場合、前立腺内全域に十分な線量の照射が必要となります。
  従来のリニアックなどによる外照射療法は、体の外から患部に放射線を照射するため
強いエネルギーでの照射が必要になります。そのため、前立腺の周囲の組織へも放射線がかかり、放射線に特に弱い直腸や膀胱の粘膜などで放射線障害が起こることがあるため3次元原体照射法や強度変調放射線治療といった特殊な照射法が必要です。
  ところが小線源療法、特にI-125などのエネルギーの弱い線源を用いた場合には、前立腺内部には十分な量の照射が可能ですが、前立腺周囲への照射量は少なく抑えられます。そのため、皮膚への影響はほとんどなく、直腸や膀胱での放射線障害の発生する 率も低くなり、これがこの治療の大きな利点となります。

2.安定した照射野が得られる
 前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって刻々と位置が変化し、数pは移動します。 
  外照射療法の場合には、照射位置を決定するとそこへ照射を繰り返しますので、照射野が前立腺から少しずれる可能性があります。最近、副作用を減らす目的で照射野をなるべく狭くして、前立腺に限局して照射を行うようになってきました。しかし、照射野を絞れば絞るほど、照射野が前立腺からはずれる可能性が高くなります。小線源療法の場合には線原が前立腺内にあるため、一定の照射が行われます。

3.性機能が維持されやすく、尿失禁は起こりにくい
 前立腺癌治療の一つの課題は、いかに性機能(勃起能)を維持し、尿の禁制を保ってQOL(生活の質)を低下させないようにするかということにあります。前立腺癌治療において、ホルモン療法では男性ホルモンを低下させるため、性機能はほとんどの場合で失われます。前立腺全摘手術においては神経温存手術を試みても、機能が保たれる率は4割程度です。放射線治療は前立腺癌治療の中で最も性機能が維持されやすい治療で、特に小線源療法ではその率が高く、5年後に性機能が維持されている率は5割以上と報告されています。ただし小線源療法であっても長期的には加齢の影響も含めて性機能の障害が起こることがわかっています。尿失禁に関しては治療直後に起こることは稀で、長時間の間に生じることもありますが、率は低いとされています。

4.体への負担が少なく、入院・治療期間は短い
 後の項で示すような手術操作や麻酔が必要であり、体に全く負担がないわけではありませんが、全摘手術(根治的前立腺摘除術)に比較するとかなり軽度のものです。入院は当院では数日必要となりますが、全摘手術よりはかなり短いものです。7−8週におよぶ連日の通院治療が必要な外照射療法に比べ、入院が必要とはいえ、短い治療期間ですみます。
(九州大学病院泌尿器科では6泊7日の入院で実施しております。具体的には原則として火曜日入院、水曜日手術、月曜日退院としております。)

小線源療法の欠点
1.放射線障害
 先に述べたように、外照射に比較すると放射線障害は生じにくいのですが、直腸、膀胱、尿道への影響はないわけではありません。直腸での障害としては直腸粘膜などにびらんが生じ、ひどい場合には直腸から出血したり潰瘍や膿瘍ができたりすることもあります。さらに膀胱粘液が炎症を起こし、様々な排尿症状を呈すことがあります。また治療後に前立腺に治療の影響でむくみが生じ尿の勢いが悪くなったり尿の回数がかえって増えたりすることがあります。尿道の炎症が強い場合には、後で尿道狭窄が起こることもあります。これらの障害が発生するかどうか、またその程度の差は個人の放射線に対する感受性の相違によって起こります。具体的な症状は「合併症」の項で述べます。

2.治療効果の限界
 アメリカでは10年の経過を見た後の治療成績が発表になっていますが、そこでは、この治療の成績は全摘手術や外照射療法とほぼ同等とされています。しかし、癌細胞の中には放射線を照射しても死滅しないものがある可能性があり、小線源療法による治癒率は手術による治癒率以上ではあり得ないと考えられています。

3.治療時の侵襲
 麻酔やアプリケーター針刺入による体への侵襲は避けられません。これらの操作に伴う危険性は少ないものですが、全くないわけではありません。

小線源療法の適応
1.転移・浸潤のない場合にのみ治療が可能
 治療の特徴の項で述べたように、前立腺周囲への照射量は少ないため、もし癌病巣が
前立腺の周囲までおよんでいた場合(被膜外浸潤)、その部位への照射量は少なくなりますので十分な治療効果が得られなくなります。ですからこの治療を行う場合には、治療前にMRI、CT、骨シンチグラムなどの画像上、転移や浸潤がないことを確認しなければなりません。前立腺癌の診断がついた時点での臨床病期(ステージ)がT1c(前立腺内の癌の存在部位が特定できないもの)かT2a(前立腺内の癌の存在部位が片側の2分の1以下)であることがこの治療を受けるうえでの必要条件となります。被膜外、精嚢、膀胱などへ浸潤していたり(臨床病期 C、T3-4)、リンパ節や骨、もしくは他臓器への転移を認める場合(臨床病期 D、T4)にはこの治療の対象にはなりません。もともと浸潤や転移があり、ホルモン療法を行った後に画像上それが消失したとしても、この治療の適応にはなりません。それは画像上病巣が見えなくなっていても、過去のデータ上、ほとんどの場合は顕微鏡的に浸潤・転移病巣が残存しているからです。

2.再発例では治療できません
 前立腺全摘手術後に再発した例や、放射線治療後の再発例ではこの治療は施行できません。また、ホルモン療法中にPSA値が上昇してきたようなホルモン療法耐性例ではこの治療は無効です。

3.その他、治療ができないもの
   次のような場合にはこの治療は施行できません。
  ・過去に前立腺肥大症の手術を受けている場合
   (術後尿失禁の発生が高くなるとされています)。

  1. 当院の超音波で測定した前立腺容積が35t以上の場合。ただし、原則として6ヶ月間のホルモン療法にて35t以下まで縮小した場合には、治療は可能です。もしホルモン療法を行っても35t以下に縮小しない場合は治療の適応にはなりません。

  ・排尿障害の強い場合(術後に排尿障害が悪化する可能性があります)。
  ・前立腺結石が著しく、エコーで前立腺の描出が不十分なため線源の挿入が
                                      困難と判断された場合。
  ・下肢の拳上や開脚など、線源を挿入する際に必要な体位がとれない場合。
  ・線源の挿入に際して、恥骨弓が大きいためにその操作が困難な場合。
  ・骨盤部への放射線治療の既往がある場合(病名は問いません)。
  ・骨盤内の手術を受けられたことのある場合(病名は問いません)。

  1. 直腸ポリープに対して複数回の手術歴がある場合。
  2. 合併症などのために、この治療や麻酔操作に伴う危険性が高いと判断され た場合。
  1. 抗凝固療法(血液を固まりにくくする治療)としてアスピリンやワーファリンなどの薬剤を使用していて、その薬剤を治療前後の一定期間中止できない場合。

  ・透析を受けておられる場合。
  ・クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患と診断されている場合。
  ・治療中、治療後に安静が保てない患者や、意志の疎通がはかれない場合。

  1. その他、当院において本治療の適応でないと判断された場合。
  2. 万が一、この治療を受けられた方が治療後1年以内にお亡くなりになった場合は(死因は問いません)規定により前立腺を摘出し、それを保管することが義務付けられています。このことについて同意を得られない方はこの治療を受けることができません。また、万が一このようなことが発生した場合は、上記の処置が必要になりますのでご家族の方は当方にお知らせいただくことが必要になりますので、ご家族の方のご理解も不可欠です。

小線源療法以外の早期前立腺癌に対する治療方法
 小線源治療は早期前立腺癌に対して行う治療です。同じ早期前立腺癌に対して行う治療として根治的前立腺摘除術(前立腺と精嚢を摘除して膀胱と尿道をつなぐ手術)と外照射法(放射線を体の外から照射する治療)、ホルモン療法および待機療法があります。
 根治的前立腺摘除術は前立腺を摘出しますので癌を全部除くことができる可能性があります。また局所再発時に放射線治療を受けることもできます。しかし、術中の出血(あらかじめ手術の前に自分の血をためておいて術中出血がある場合に使用する方法があります(自己血貯血)が限界もあります)、勃起障害、腹圧性尿失禁(おなかに力が入るときに尿が漏れる病状)が主な合併症です。時に癒着が強く手術中に直腸を傷つけることもあります。この様な場合には診断がつき次第直ちに適切な処置を行います。
 外照射法は外から放射線を前立腺に照射する方法です。遠方でなければ通院での治療が可能です。線量にもよりますが原則として月曜から金曜までの平日に週5回(1回20分から30分程度です)で約2ヵ月かかります。
 麻酔が不要で手術のような体への負担はなく出血、尿失禁の可能性は少ないのですが、長期的には勃起障害は発生します。治療中から治療終了まで頻尿、排尿痛、排尿障害などの膀胱刺激症状と軟便、下痢、肛門痛などの直腸刺激症状などが起こりますが、治療終了後徐々に軽快していきます。まれに、治療終了後3ヵ月以後に直腸出血や直腸潰瘍などの重篤な副作用が出ることがあります。多くの場合、お薬で回復しますが、輸血、止血のための手術、人工肛門などの処置が必要なることもあります。
 また放射線治療のあとに根治的前立腺摘除術は強い癒着のため直腸損傷などの大きな合併症が予想されるため実施できません。
 ホルモン療法は男性ホルモンを低下させて前立腺癌の進行を遅くする治療法です。男性ホルモンが作られる場所は精巣(睾丸)ですから、精巣を摘出する手術または4週間に1回の皮下注射を行います。場合によっては内服薬を追加することもあります。精巣を摘出する手術を受ける場合を除いて入院は不要です。注射や内服薬には肝機能障害や腎機能障害などの副作用がでることがあります。しかしこの治療の体への負担は少なく、合併症が多く根治的前立腺摘除術や放射線治療を受けることができない方にも行うことができますが、効果が続く限り治療を継続する必要があります。さらにこの治療は根治治療にならない点が問題です。多くの場合、2、3年で効果が弱まり、その後は有効な治療法が現在のところ確立されていません。なお、ホルモン療法を根治的前立腺摘除術や放射線療法(外照射法または小線源療法)の前後に短期間併用する場合もあります。
   待機療法とは前立腺癌と診断がついてもすぐに治療をせずに、一定期間PSAなどで経過を観察し、病状の進行が疑われる時あるいはご本人の治療への同意が得られたときに治療を開始する方法です。無治療のあいだは治療の副作用がありませんが、無治療でいる期間に病状が進行する可能性があります。適応となる病状は限定されます。

小線源療法に至るまで
1.初診から治療の決定まで
    他施設で生検を受けられ、前立腺癌の診断のついた方は初診時に
    現在までのデータをお持ち下さい。初診時に必要なデータは、
    生検時のPSA値
    グリソンスコア(Gleason score)、
    臨床病期、
    現在までの治療内容、
    合併症・既往症、
    現在服薬中の全ての薬
などです。
    担当医からの紹介状をなるべくお持ち下さい。
   
ワーファリンやアスピリンなど血が止まりにくくなる薬を服薬されている方は、 治療の前後10日から2週間程休薬しなければなりませんので、それが可能かどうかを確認してきて下さい。(このお薬を処方している主治医にお尋ね下さい。)
 また、臨床病期診断のために用いたレントゲン写真(CT、MRI、骨シンチ等)、前立腺生検の病理標本(顕微鏡で見るためのプレパラート)は治療方法を決定するうえで必要ですので、当院での治療を行うことが決定した際には借りてきていただくことになります。もちろん初診時に持参いただいても結構です。お借りしたものは必要でなくなり次第返却いたします。
 これらのデータをもとに治療の可否、また治療可能な場合、ホルモン療法が必要かどうか、小線源療法単独で治療できるか、外照射の併用が望ましいかなどが決定されます。   
  現時点での当科の小線源治療の適応は、前立腺癌の診断確定時点での臨床病期がT1c(前立腺内の癌の存在部位が特定できないもの)かT2a(前立腺内の癌の存在部位が片側の2分の1以下)で転移がないもの、かつPSA が10 mg/ml以下、かつグリソンスコアが6以下の方です。ただし若干の許容範囲がありますので、その点については主治医より説明いたします。

   その後、患者さんにはこの治療を受けられるかどうかを決めていただくことになります。

2.治療前の準備
 治療日の約4週前に来院していただき、治療のためのプラニングを行います(プレプラニングと言います)。尿道にカテーテルを挿入して、治療時と同じ体位(仰向けに寝てひざを少し曲げて足を高く上げてさらに足を開くような格好です。プレプラニングのときに説明いたします。また足を乗せる支えがあります。)をとり、経直腸エコーを用いて前立腺の形態を三次元的に解析してコンピューターに取り込みます。このデータをもとにI-125シード線源の配置および使用線数を決定します。
 問診票もお渡しいたしますので記入していただきます。その際、治療や麻酔に関して問題のあるような合併症(糖尿病、高血圧、心臓病など)がある場合は、治療前に専門医を受診していただき、合併症に対する検査や治療を行う必要が出てくる場合があります。
 治療承諾書、現在の生活の質や排尿・排便状態、性機能などをお聞きするための質問用紙および、普段の生活において長時間接する人(奥様、他の同居の家族、ヘルパー、職場の人など)との過ごし方や通勤に関する調査票をお渡しします。入院までにご記入いただき、入院後に主治医にお渡し下さい。

3.入院
 入院は南病棟6階の泌尿器科病棟になります。入院予定日の数日前に、病棟主任の医師から電話での確認があります(入院予約時に入院日を担当医と約束していただいた場合はお電話しない場合があります)。入院時に持参していただくものは、入院予約時に外来の看護師より説明いたします。ご質問がありましたら遠慮なく医師もしくは看護師にお尋ね下さい。
 本院では火曜日の午前中に入院していただき、水曜日の午後に治療を行い、 翌週の月曜日に退院していただきますので6泊7日の入院となります。病室はこの治療の性格上治療直後から治療翌日の午前中を除き、全て個室に入院していただきます。
 なお、治療直後から治療翌日の午前中までは放射線科の放素病棟(RIセンター、北病棟3階)への入院となり放射線科医が主治医となりますが、その間も担当の泌尿器科医も診療を続けますのでご安心ください。

小線源療法の実際
1.治療方法
 治療(線源挿入)前日、陰部の切毛を行い、夜に下剤を服用します。治療当日、治療終了までは一切の経口(食事、飲水)はできません。必要な薬の内服がある場合にはこちらから指示いたしますので、少量の水で飲んで下さい。朝から点滴を行います。
 当日朝に浣腸を行います。治療は通常午後になりますが、午前に行う場合もあります。時間については前日に説明いたします。
 治療は原則として硬膜外麻酔と腰椎麻酔で行いますが、最終的には当院麻酔科医師の判断によります。場合によっては全身麻酔になることもあります。眠くなるような薬剤を点滴から入れることもあります。尿道に排尿のための管が入り、翌日まで留置されます。下腿には血栓予防のための装具を装着する場合があります。台に横たわっていただき、下肢を挙げた格好で治療を行います。肛門からのエコーのプローブが入り、エコーの画像を見ながら、会陰部から前立腺内にアプリケーター針と呼ばれる長い針が20本程刺入され   ます(前立腺の大きさにより刺入する針の本数が変わります)。
 コンピューターで計算された通りに、それぞれの針の中に数個ずつシード線源が挿入されていきます。症例により異なりますが、全部で60-100個ほどのシード線源が留置されることになります。治療にはおおむね2-3時間かかります。

2.治療後退院まで
 翌朝からは歩いていただいて結構です。食事、飲水の制限もありません。
 前立腺やシードの状態を確認するため、CTスキャンの検査を行います。CTスキャンの後、排尿の管を抜きます。その後は、ご自分で排尿をしていただきますが、前立腺がむくんでいるので尿が出にくいことがあります。前立腺部の尿道を拡げ、尿の通りをよくする作用の薬を服用します。
 退院後、次回外来までの分を処方いたしますので、続けて飲んで下さい。薬の副作用で血圧が下がり、立ちくらみなどが起こることが稀にありますが、そのような症状が見られたら薬を中止して下さい。
 尿中にシード線源が出てくることが稀にありますので、尿は一度シビンに取ってからガーゼでこして蓄尿びんにあけて下さい。シードが見られたらそのままにして、看護師に伝えて下さい。

3.退院後
 シード線源は永久に入ったままになります。放射線は初めから非常に弱いもので、しかも60日毎に放射線の量は半分に減少し、そして1年たつとほとんど0になります。周囲の方への影響はほとんどありませんが、念のために入院前に記載いただいた内容をもとに、普段の生活において長時間接する人に対する放射線の影響を計算してお知らせいたします。その結果、もし周囲の人への影響が懸念された場合には、一定期間、生活様式を少し変えていただきます。治療後1年間は治療カードを常時所持していただくことになります。そ   の他詳しい注意事項は「線源挿入後の注意」の項をお読み下さい。
 退院後は原則として2週間目と4週間目に再来していただきます。
  また、再来時は毎月泌尿器科と放射線科の2科を受診していただきます。退院後4週間目にPSA採血およびレントゲン、CTスキャンの検査を外来で行います。その後は4週間から12週間毎の通院になり治療後原則として5年間は通院していただき、再発の可能性がないかどうか経過を観察していきます。経過が順調であれば通院間隔を伸ばしていくことも   あります。なお、受診間隔は各患者様で異なってきますので主治医より説明いたします。

小線源療法との併用治療
 小線源療法前にホルモン療法を行っていた方は、治療後中止いたします。 その後のホルモン療法の併用は原則的には再発と判断されるまで行いません。

小線源療法の合併症
 手術中、直後には前立腺の穿刺に伴う血尿が認められることが多くあります。アメリカでは静脈内血栓の形成、それに伴う肺梗塞が報告されています。
 麻酔による合併症として呼吸不全、血圧の変動に伴う心筋梗塞や脳出血などの発症はあり得ないことではありません。治療前に血液の凝固を抑える薬(ワーファリンやアスピリンなど)を服用されている方は、治療前後に薬を一定期間中止しなければなりませんので(治療前1週間から治療後2、3日まで。治療後の出血の程度で中止期間が延長になる場合もあります。)血栓の形成などの危険が生じます。
小線源療法に伴う合併症としては、治療後早い時期に出現する急性合併症と、治療後1年位のうちに出現する晩期合併症があります。急性合併症には血尿、血精液症(精液に血液が混じる状態)、排尿障害・尿閉、排尿痛、会陰部・肛門部痛、頻尿、肛門出血・血便などがあります。血尿、血精液症などはほとんどの場合に見られます。軽度の痛みや尿が少し出にくいなどの症状は頻繁に見られ、特に夜間に尿が出にくいことがよくあります。しかし、強い症状やそれ以外の症状の出現は頻度の多いものではありません。これらの排尿や排便に関する症状は治療後2週間から4週間後に徐々に現れ、おおむね3ヵ月後ごろから徐々に改善し、1年後には完全に消失することが多いようです。しかし症状の持続は個人差が大きく、長く続く場合もあります。もし、症状が強いようでしたらその都度お薬等で対処いたします。
前立腺は穿刺や放射線の影響でむくみますので、尿が出にくくなることが最も多いようです。そのため、治療後に尿道を広げる作用のあるお薬(ハルナール等)を服用していただきます。退院後もしばらく服用し、排尿の状態が改善したら中止します。治療後すぐに尿閉(尿が完全に出なくなりおなかがはる状態)をきたす場合も稀にあり、その場合には排尿の管を  留置して退院します。管の先についているふたを開閉して排尿することになりますが長く続く  ことは稀です。

 晩期合併症は放射線の組織障害によって起こってくるものです。性機能の障害は外照射や他の治療よりも低率ですが、それでも20-30%程度に出現します。尿道への放射線の影響は少なからずあり、そのために尿道が狭くなって、そこを広げるような治療を要することが稀にあります。直腸は前立腺に接しており、その粘膜は放射線に弱い性質があります。直腸に障害が生じると、痛みが生じ、粘膜から出血したり潰瘍や膿瘍ができたりします。重度の場合には直腸の壁にろう孔を形成(穴が開くこと)することがあります。
 現在の技術では頻度は非常に稀です。軽度であれば抗炎剤の使用で治ることが多いのですが、重篤な場合には一時的な人工肛門の造設が必要になることもあります。
シード線源が挿入時もしくは挿入後、稀に血流にのって肺などへ移動することが報告されています。その場合、X線写真などで写りますが、問題になるようなことは現在まで生じていません。このようなことがおこった時には定期的に胸部X線写真や他のシードが移動した部位の写真を撮って観察を行います。
 また、ここには代表的な合併症を示しましたが、それ以外の合併症がおこる可能性があります。いずれも稀ですが、もしそのような合併症が認められた時には申し出て下さい。すぐに適切な対処をします。
 また、経過観察中に新たな合併症が発見された場合にはその都度説明し対応を検討いたします。

小線源療法を行ったあとの経過観察、再発時の治療
 放射線照射後の癌細胞は1年程かけて徐々に死滅していきます。しかし、放射線に感受性の少ない癌細胞もあり、全滅するとは限りません。生き残った細胞が極く少数なら、おそらく臨床的な再発をきたすのに何10年もかかり問題にはならないでしょう。
  放射線治療の効かない細胞が多くあった場合や、照射が充分に行きわたらないところに癌細胞があった場合には再発となり、次なる治療を要することになります。
  再発には二通りあり、前立腺内および近傍に再発する局所再発と、前立腺から離れた部位に再発する転移です。これらの再発の出現がないかどうかは、定期的に血液検査を行PSA値を見ていきます。またCTなどのレントゲン撮影や骨シンチも原則として1年に1回行います。再発がない場合にはPSA値は1年から数年かけて徐々に減少し、ある程度下がった所で安定して推移します。局所再発もしくは転移が生じた時には、そのほとんどの場合にPSA値が上昇してきます。

 治療後、2週後と4週後(1ヵ月後)に当院の泌尿器科と放射線科の外来を受診していただきます。1ヵ月後、腹部のレントゲン撮影、CTスキャンの検査を受けていただき、前立腺の腫れがなくなった時点での最終的な線源の配置を確認します。その後は状態が落ち着いていれば原則として1ヵ月毎の通院となり、PSAの採血をその都度していただきます。
 退院後は毎月、泌尿器科と放射線科を受診していただきます。なお通院間隔はご本人の都合で若干の変更は可能ですが、原則として主治医の外来日に受診していただきます。
 小線源療法後に局所再発をきたした場合、追加の放射線治療はできません。それは人間の体の一部位が一生の間に受けられる放射線量には限界があり、それ以上の照射を受けると組織が壊死して腸管に穴が開くなどの重い障害が生じるからです。小線源療法で前立腺には限界近くの放射線照射が行われていますので、そこにはそれ以上の照射ができません。
 また、小線源療法を行った後に前立腺を摘出する手術もできません。放射線を照射した後の組織は固く、しかも一塊になっているため、そこを無理に手術すると直腸損傷などの大きな合併症が生じることが多いからです。

  再発時の治療にはホルモン療法が一般に用いられます。ホルモン療法は局所再発でも転移でも有効です。
 小線源療法後1-2年たった頃、再発でなくてもPSA値が上昇する現象が時々見られます。低値であったPSA値が10位まで上がることもあります。これはバウンス現象と言われ、原因は不明ですが数ヶ月のうちに自然とPSA値は下がってきます。ですからこの時期にPSA値の上昇があっても再発とは限りません。多くの場合、慎重に経過を観察して再発かどうかの判断をします。

小線源療法の費用
 治療費は麻酔代、シード線源代を含めて全て保険の適応になりますが、個室料金は自費となります。当院では6泊7日でこの治療の場合には個室を使用する必要があります。
 費用はおおむね一般に使用する個室(原則として1日12,600円、場合により6,300円)の場合、全体で100万円程度となり、これから保険の自己負担分をお支払いいただきます(個室料金は保険対象外ですので自己負担金として40万円から50万円程度かかります)。
 もし、合併症の治療等、追加治療が必要になった場合には追加の費用が必要となり、各患者様の保険負担分を別途お支払いいただくことになりますので御了解ください。

線源挿入後の注意
 体に埋め込んだI-125シード線源は放射線を出しますが、ほとんどは前立腺に吸収されてしまいます。あなたのからだ自体が放射能を持つわけではないので、尿、便、汗、唾液などの分泌物には放射能は一切ありません。普段どおりに人々と接することができます。周囲の方へ与える放射線量は、人が自然に受けている放射線量よりも低いことがわかっています。
 しかし、一定の期間は周囲の方への配慮は必要です。すなわち妊娠されている方と同室にいることは問題ありませんが、隣に長く座ることはしばらく避けて下さい。小さなお子さんと同室で遊ぶことは問題ありませんが、ひざの上に長く乗せることはしばらく避けて下さい。
 周囲への影響はきわめて少なく、安全であることが米国で確認されています。治療後2ヵ月が過ぎれば線源の放射能は半減しており、1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。このような配慮が必要かどうかを調べるために、治療前に生活質問票をお渡ししてあなたの日常で接する機会の多い家族の調査をさせていただきますのでご協力ください。
   
  ごく稀なことですが、排尿時に線源が排泄されることがあります。1個の線源から出る放射線は微量であり、実際には問題を生じません。線源を拾えるようならスプーンなどですくい、ビンなどの容器に入れ、子どもの手の届かないところに置いて下さい。その後、あわてず担当医にご連絡下さい。治療後4週間したら性行為を行うことは問題ありませんが、1年間はコンドームを使うようにしましょう。

治療カードについて
 退院時に治療カードをお渡しします。治療後1年間はこの「治療カード」を携帯して下さい。また、その間に何らかの手術が行われる場合には、手術を担当する医師から当院の担当医に連絡をするようにお願いして下さい。万一、治療後1年以内に何らかの原因で死亡された場合には、前立腺を摘出する必要がありますので、家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。



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