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前立腺癌に対する小線源治療
(ヨウ素125密封小線源永久挿入療法)
 
医療関係者の方へ

放射線療法の目的・意義

欧米ではすでに、早期前立腺癌に対する放射線治療成績は根治手術とほぼ同等であると認識されている。我が国においては、前立腺癌の罹患率は欧米に比べて低いが、低分化腺癌、進行癌のハイリスク例が多く、放射線治療は姑息的照射の意味合いが強かった。しかし、生活習慣の欧米化、PSA(prostate specific antigen)検診の普及等により、早期の前立腺癌が増えてきており、我が国においても放射線治療は根治的治療手段のひとつとして認識されるようになってきた。 放射線治療の利点は、手術と比較して治療後のQOLが高いことである。手術では高率に性機能が障害され、性的活動期にある男性には大きな問題となる。また、手術後には程度の差はあるものの、多くの症例で尿失禁が認められる。一方、放射線治療の主な副作用は膀胱直腸障害であるが、総じて、放射線治療のほうがQOLを高く保つことができるとされている。 前立腺癌に対する放射線療法では、放射線外照射と小線源による組織内照射が行われているが、組織内照射では前立腺により大線量の投与が可能であり、周辺の正常組織への線量は抑えられることから、近年では組織内照射の症例数が急速に増加している。

ヨード線源による低線量組織内照射(ヨウ素125密封小線源永久挿入療法)

米国では、前立腺癌に対する組織内照射は広く普及している。経直腸的超音波およびテンプレートを用い、前立腺内にヨードやパラジウムの小線源を永久刺入する方法が一般的で、優れた治療法として注目を集めている。最大の利点は、外照射に比べてより大量の線量を前立腺に照射できること、さらに約6〜7週間外来通院が必要な外照射と比較し、5日間〜7日間の入院のみで治療が終了することである。わが国では、イリジウム線源の一時的刺入による高線量率組織内照射法が行われてきたが、最近ヨード線源を前立腺内に永久的に挿入する低線量率組織内照射も可能となり、今後急速に普及するものと思われる。

ヨウ素125密封小線源永久挿入療法(小線源療法)の利点と欠点

 利点
  外照射に比べ:
   1)前立腺の移動の影響を受けず、優れた線量分布が得られるため、
     周囲臓器での放射線障害が少ないの放射線障害が少ない。
   2)前立腺内部には高線量の照射が可能である。
  全摘除術に比べ:
   1)性機能が効率に維持され(7割程度)、尿失禁のなど排尿への
     影響が少ないことにより、QOLの面において優れている。
   2)低侵襲であり、合併症が少ない。
   3)入院期間が短い
  欠点
  外照射に比べ:
   1)前立腺被膜外での線量が極端に低く、浸潤巣には無効である。
   2)線源留置のための穿刺に伴う侵襲があり、入院が必要となる。
  全摘除術に比べ:
   1)放射線障害が生じる可能性がある。
   2)摘除術以上の治療が望めない


小線源療法の適応基準

  
・年齢    原則として55歳から80歳まで。
(一般的には10年以上の余命が期待できる症例)

・リスク分類 原則として低リスク症例(D’Amico 分類、最後の資料参照)
注;@高リスク症例は適応外。
A中リスク症例のうちT1cまたはT2aでPSA 10ng/ml 未満 かつ GS    
3+4 の症例の症例は十分な説明後本人の了解があれば適応として
もよい。

・ネオアジュバントホルモン療法
未治療例の場合
以下の体積縮小目的以外のネオアジュバントホルモン療法は行わない。
しかし、待機期間にPSAが上昇する場合は主治医の判断で実施してよい。
紹介時に開始済みの場合 そのまま継続してよいが、前立腺体積が20mlを割り込むような場合は中止を検討する。

・前立腺体積 
@20 ml以上 35 ml 未満。
A35 ml以上 60 ml未満は6ヵ月間のネオアジュバントホルモン療法を行 い
20 ml以上 35 ml 未満になれば施行可能。
B20 ml 未満60 ml 以上は対象外。
境界領域の体積の症例については数回体積を測定して適応を決める。

・患者背景  治療体位(強砕石位)が取れる。
治療内容が理解でき、1年以内死亡時の前立腺摘出を含めて治療についての  
同意が文書で取れている。


除外規定    
   ・前立腺肥大症に対する手術既往のある症例(尿失禁の発生が高くなる)。
  ?・中葉肥大の高度な症例(内分泌療法で縮小した症例は適応を検討する)。
   ・IPSSの高い症例(IPSS16以下を目安にするが、各症例で適応を検討してよい。
      本治療後に尿閉となる可能性がある)。
      IPSSの高い症例で前立腺肥大症を合併している場合はネオアジュバント内分泌療法      を行い前立腺の縮小を期待する。
      前立腺肥大症を合併していない場合は、各症例で検討し適応を決める。
   ・前立腺の石灰化が高度なためエコー画像が得られない症例。
   ・治療の体位(強砕石位)がとれない症例。
   ・線源の挿入に際して、恥骨弓が大きいためにその操作が困難な場合。
   ・骨盤内への放射線治療の既往がある症例。
   ・骨盤内手術の既往がある症例。
   ・直腸ポリープに対して複数回の手術歴のある症例
     (1回のみの症例は十分検討して適応を決定する)。
     (ブラキ治療後の直腸生検で尿道直腸瘻発生の報告がある)
   ・コントロール不良の糖尿病を有する症例。
   ・抗凝固療法中で手術時に抗凝固療法の中止ができない症例。
   ・透析中の症例。
   ・クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の症例。

 小線源外照射併用療法                               
  小線源療法    100 Gy 〜110 Gy
  外照射        45 Gy(1.8 Gy 25 回、小骨盤部)
    Intermediate症例
     T1cN0M0、T2N0M0のうち
     ・10 ng/ml≦PSA<20 ng/ml かつGS 7 以下
     ・PSA<10 ng/ml かつGS 7 のうち 4 + 3  

治療

・Low Risk 症例:小線源単独療法(144Gyを目標)。
        T1cN0M0、T2aN0M0のうち
PSA 10ng/ml 未満 かつ Gleason score(GS) 6 以下の症例
      ・以下の場合は十分説明し患者の合意が得られたら実施してもよい。
        T1cN0M0、T2aN0M0のうち
PSA 10ng/ml 未満 かつ GS 7のうち3+4 の症例
      ・小線源療法と外照射の併用療法は原則として行わない。

参考
D'Amicoのリスク分類
T1-T2a
低リスク群
PSA≦10.0 ng/ml
Gleason 2-6
T2b and/or
中リスク群
PSA 10.1-20.0 ng/ml
and/or Gleason 7
高リスク群
PSA >20.0 and/or
 
Gleason 8-10

治療成績

1992年から1998年までにアメリカで行われた前立腺癌者1819人に対するcohort studyによると、臨床病期分類T1-T2 (AJCC 1997)に対する根治的前立腺摘除術、放射線外照射及び組織内照射による7年間の非再発率は、79、77、74%と報告されている(2004 Potters et al.)。

合併症

急性の有害事象として、下痢、肛門周囲の皮膚炎、直腸出血、頻尿、尿意切迫感  、尿勢の低下、排尿時痛などがあるが、可逆的である。晩期有害事象として最も問題となるものは直腸出血である。しかし、手術を要するような出血や閉塞をきたす頻度は1%以下である。そのほか、放射線性膀胱炎、尿道狭窄などがある。性機能障害が起こる可能性もあるが、手術に比べその頻度は低い。

退院後の注意

  1. 尿中などへの脱落線源の取り扱い
    挿入後1年以内に体外にシード線源が出ていってしまった場合は、直接手で触らずスプーンなどで拾い上げ、瓶などに密封して速やかに担当医に届け出るよう、あらかじめ患者に文書及び口頭で説明する。
  2. 1年以内の死亡時には前立腺を剖検で摘出する
    挿入後1年以内に患者が死亡した場合には、剖検に て前立腺ごとシード線源を取り出し、病院に保管しておく。剖検術者、助手の被爆量は限度内である。脱落、摘出シード線源は施設内の廃棄施設に保管し、滅菌後アイソトープ協会に引き取ってもらう(譲渡する)。
  3. 1年以内の手術
    担当医に連絡してもらう。前立腺周囲を切開しない限り、術者や看護師が過度に被爆する心配はない。
  4. 性交渉
    性交渉は治療後4週間後から始められる。射精時にシード線源の脱落の可能性もあるため、挿入後1年間はコンドームの使用を指導する。
  5. 治療カードの携帯
    挿入後1年間は患者カードの携帯が義務づけられている。


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