九州大学大学院医学研究院ウイルス学

研究内容

エボラ出血熱、デング熱、ジカ熱など、これまであまり耳にすることのなかった感染症が最近テレビや新聞で大きく報道され、話題になりました。一方、麻疹(はしか)や流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)などワクチンにより予防可能であるにもかかわらず国内で患者が発生したというニュースも聞きます。 ウイルス疾患の研究は近年大いに進歩していますが、まだ解明されていない多くの問題が残されています。感染症に対抗する手段であるワクチンによる予防や薬剤による治療は、実は限られた病原体に対して開発されているだけで、多くのウイルス感染症には特異的な予防法や治療法はありません。

私たちは、ウイルスが細胞に感染し、自らを再生産するプロセスを様々なアプローチによって解明し、ウイルス疾患の予防・治療に役立てることを目指しています。現在、私たちが行っている研究は、以下の3つが大きな柱となっています。

  1. ウイルス蛋白質の機能・構造解析
  2. ウイルス増殖に関わる宿主因子の探索
  3. ウイルス疾患に対する抗体・阻害剤開発

1. ウイルス蛋白質の機能・構造解析
ウイルスの細胞侵入、増殖および病原性発現機構を解明することを目指して、分子生物学・生化学・物理化学的手法やウイルス学的手法、構造生物学的手法を組み合わせて研究を行っています。 機能解析ではリバースジェネティクスによる組換えウイルスの利用を、構造解析では主にX線結晶構造解析を用いた研究を行っています(図1, 2)。

図1 リバースジェネティクスを用いた機能解析

図2 X線結晶構造解析を用いたウイルス研究

2. ウイルス増殖に関わる宿主因子の探索
ウイルスは細胞への吸着・侵入、蛋白質産生、ゲノム複製、子孫ウイルス粒子産生といった全ての過程で何らかの宿主因子を利用しています。こうしたプロセスにかかわる分子を様々な方法(古典的な方法からオミクス解析まで)で明らかにする研究を行っています。 パラミクソウイルス(麻疹、ムンプス)を中心に、病原性発現機構の理解や、宿主因子との結合部位を標的とした分子標的薬の開発につなげることを目標にしています。

図3 ウイルス増殖に関わる宿主因子の探索

3. ウイルス疾患に対する抗体・阻害剤開発
上記の1や2での研究成果を基に、蛋白質の構造に基づいてワクチン開発の基礎研究や抗体・阻害剤を開発する研究を行っています。特に新規の抗体作製法の開発に力を入れて研究を進めています。 抗体は標的分子に対する特異性の高さから、医薬品としての注目度が近年非常に高くなっています。対象はRNAウイルス感染症(特に麻疹、ムンプス、SARS、MERS、BSL4関連ウイルスなど)です。

ウイルス疾患に対する抗体・阻害剤開発
いろいろ学べます(当研究室にご興味がある学生へ)
ウイルスは、自分自身での増殖は不可能であり、感染細胞に100%依存して増殖する特徴を持ちます。そのため、ウイルス学は分子生物学・細胞生物学を基盤とする学問です。在学期間中に下記の分野について学ぶことができます。

  • ウイルス学全般
  • 病原体の取扱い
  • 一般的な分子生物学
  • 一般的な細胞生物学
  • 一般的な構造生物学
  • 一般的な免疫学
九大・生命科学科の学部学生の研究参加を大歓迎します!これまで理学、農学など医学系以外の学部からの大学院生も多く卒業しており、他分野からの参加も大歓迎です。 ラボ見学など、ご興味のある方はHP top右上の“お問い合わせ”ボタンからご連絡下さい。

用語説明

* パラミクソウイルス
一本鎖(マイナス鎖)RNAをゲノムとし、脂質ニ重膜のエンベロープで覆われたウイルスです。全身感染を起こす麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、呼吸器感染を起こすパラインフルエンザウイルス、RSウイルス、メタニューモウイルスなど重要なヒト感染症の原因ウイルスが含まれます。 また、新興感染症のヘンドラウイルス、ニパウイルスや、動物のイヌジステンパーウイルス、牛疫ウイルス、センダイウイルスもパラミクソウイルスです。

麻疹ウイルス
麻疹(ましん;一般には「はしか」とも呼ばれる)は小児の代表的ウイルス感染症です。生ワクチンが接種されるようになって先進国では患者数が激減しましたが、世界的にはまだ開発途上国を中心に毎年〜1000万人の患者と約十万人の死者が報告されています。 わが国では排除状態にありますが、海外から持ち込まれたウイルスから流行が起こり多くの患者が発生することがあります。私たちの研究室では、これまでに麻疹ウイルス研究の分野で、@受容体の同定 (Nature 2000)、A高効率遺伝子操作(リバースジェネティクス)システムの開発、B糖蛋白質と受容体のX線結晶構造の解明 (PNAS 2007, Nature Struct. Mol. Biol. 2011) という3つの大きな貢献をしました。現在もこれらの成果に基づいて、麻疹ウイルスの病原性を解明するために研究を進めています。麻疹ウイルスは免疫系細胞を標的にした全身感染を起こすウイルスであり、私たちの研究は、麻疹ウイルスに止まらず、HIVやSARSなど他のウイルス感染症の理解にもつながります。

English お問い合わせ 九州大学大学院医学研究院ウイルス学