九州大学病院検査部 2008年10月31日 | |||||||||||||||||
検 査 だ よ り
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第36号 | |||||||||||||||||
■検査の充実を目指して その12■ 検査部技師長 栢森 裕三 | |||||||||||||||||
第48回 日本臨床化学会年次学術集会 in浜松 学会見聞録 今年の夏は異常気象といわれるように、各地でゲリラ雨が多発した年でした。地球の温暖化による海水温の上昇によって、玄界灘にも本来いないはずの熱帯魚が観察されるなど生態系の異常が伝えられています。 さて、今号の「検査の充実をめざして」は8月29日から31日に浜松で開催された日本臨床化学会の年次学術集会について述べることにします。 日本臨床化学会は1961(昭和36)年に始まった「医化学シンポジウム」がその原点で、50年近い歴史をもち、国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine, IFCC)やアジア太平洋臨床生化学連合(Asian Pacific Federation of Clinical Biochemistry, APFCB)の加盟学会(団体)でもある学会組織です。 今回の学術集会は、静岡文化芸術大学で開催されました。参加者数はおよそ600名、演題数は特別講演のほか、シンポジウム4、ワークショップ2、一般演題99、専門委員会プロジェクト報告は10、専門委員会で25、その他イブニングセミナー3、ナイトセミナー2、ランチョンセミナー8、教育実習セミナー1で、大変充実した内容構成であり、各々で活発な議論が展開されました。これまで年次学術集会とは別の時期に開催されていた夏期セミナーが、今年から年次学術集会と一体化された形で開催されたことも参加者数が増加した要因とも考えられます。これまでの夏期セミナーでは臨床検査の現行測定法の問題点や基準測定法に関係する内容が主体的に議論されてきた経緯があり、日本の臨床検査の標準化に大きく貢献してきた集会でしたが、今回からは本体の学術集会の中の「専門委員会プロジェクト報告」という形で本体の一部に組み込まれました。 そこで、専門委員会の一つであるリポタンパク専門委員会の中で議論があった興味ある話題を一つ、アポEリッチ HDL (high density lipoprotein)の測定について。 この話が夏期セミナーで議論されたのは3年前からで、その経緯は次の通りです。 ファイザー社の高脂血症治療薬、リピトール(アトルバスタチン)の特許期限が迫っており、各社の新薬開発競争が話題になっていることが端緒になっています。実はこの薬物の原型は、先日アメリカのアルバート・ラスカー臨床医学研究賞を受賞した日本の遠藤章東北大学特任教授が発見したメバスタチンであることは新聞でも報道されています。 ファイザー社の売り上げの約25%を占めるHMG-CoA還元酵素 (3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase) 阻害薬としてのリピトールに代わる新薬としてCETP (cholesteryl ester transfer protein) 阻害剤の開発が進められてきたことが話題の中心にあります。その後、医学的理由により現在は断念したとの話もありますが、日本のJTなどが別のCETP 阻害剤の開発を継続している情報もあって、現在進行形の形です。 CETPは脂質転送たんぱく質の一つとして、IDL、LDLやVLDLなどのアポB含有リポタンパク質のTGをHDLへ転送し、その代わりとしてHDLからこれらのリポタンパク質へコレステロールエステルを渡す役割を持っています。CETPの欠損状態においては、HDLがLCATの助けを借りて末梢細胞からコレステロールを引き抜くが、アポB含有リポタンパク質へコレステロールを転送することができないために構造的に次第に大きくなり、さらにマクロファージ等から分泌されるアポEを粒子中に取り込みます。このようにアポEの増加したHDLは、肝臓のレセプター等を介して肝臓に取り込まれ異化されるとされています。そのため、CETPを選択的に阻害し、同時に従来のHMG-CoA還元酵素阻害薬と併用すれば、後者の作用で動脈硬化を促進するIDL、VLDL及びLDLを低下させ、前者の作用で抑制的に作用するHDLを増加させることができ、動脈硬化若しくは高脂血症の予防又は治療薬として期待することができます。最近の研究から、CETP阻害剤や遺伝的にCETPが欠損している患者のHDLはアポEリッチであり、普通のHDLよりは末梢細胞からのコレステロールの引抜き能が高いとされる報告もありますが、異論もあります。いずれにせよ、予防・治療効果を正しく判定するためにアポEリッチHDLの測定法が重要になっており、リポタンパク専門委員会での議論はこの測定法の開発にあります。現在の臨床検査で利用されている各社測定試薬間にはアポEリッチHDLを測定するには差が大きく、正しく測定できない、通常に存在するHDLとは分けて測定する必要があるか、など議論はまだまだ続くことになりますが、紙面の関係でこの続きは別の機会にお話しすることにします。 このような白熱した議論が終わる頃には、それまで晴れていた学会場付近はゲリラ雨が降り、東海道新幹線も一時停止したようで、熱気と異常気象を実感する学会でした。 |
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■お知らせ■ | |||||||||||||||||
血液凝固検査室よりお知らせ |
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血液検査(CBC)で16時以降に提出された検体の取り扱いについて 白血球分類検査は夜間休日同様、目視はしないことになりました。 ・凝固検査室より 2008年10月1日より、測定試薬が以下の通りに変更になりました。
血液凝固検査室 連絡先(5759) |
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細菌検査室よりお知らせ |
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【一般細菌感受性検査のカテゴリについて】 一般細菌感受性検査結果において、(S)、(I)、(R)のカテゴリ判定基準はCLSIに基づいて報告しておりますが、今回、カテゴリ判定基準の見直しを行いました。これに伴う以下の変更点をお知らせします。 従来、カテゴリ判定基準が設定されておらずMICのみで報告していた菌種のうち、CLSIの判定基準が設けられた菌種についてはカテゴリが付くように報告します。 類似菌種のカテゴリ判定基準を代用していた菌種については判定基準を変更しました。 具体的な菌種は以下の通りです。 新しくカテゴリが付くようになった菌種: Moraxella(Branhamella) catarrhalis, HACEK Group, Pasteurella spp., Neisseria meningitidis, Listeria monocytogenes, Corynebacterium spp. , Bacillus spp. カテゴリ判定基準が変更となった菌種:Stenotrophomonas maltophilia, Burkholderia cepacia, Vibrio spp.(Not Vibrio cholerae), Aeromonas hydrophila Group, Plesiomonas shigelloides 〔参照CLSI M100-S18(2008),M45-A〕 【カンジダ抗原検査の変更について】 血清中カンジダ抗原検査は「カンジテック」で行っていましたが、9月1日よりカンジダ細胞壁成分であるマンナン抗原をEIA法にて検出するユニメディ「カンジダ」モノテストへ変更になりました。 変更点 (生物試料分析vol.28.NO3.2005より) |
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これに伴い報告形式が下記のように変更になります。 |
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細菌検査室 連絡先(5757) |
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新規外注検査のお知らせ |
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平成20年9月1日よりヒトTARC定量がオーダー可能になりました。ヒトTARC(thymus and activation-regulated chemokine, Th2ケモカイン)の測定法はELISA法、単位はpg/mLです。 基準範囲は年齢により異なります。 小児(6~12ヶ月):1367pg/mL未満 小児(1~2歳) : 998pg/mL未満 小児(2歳以上) : 743pg/mL未満 成人 : 450pg/mL未満 保険診療(保医発第063002号 平成20年6月30日より)で、「D015 18」血漿蛋白免疫学的検査のアトピー鑑別試験に準じて月に1回算定可(200点)となっています。免疫学的検査判断料 144点(月1回につき)も算定可能です。 資料1) 血清中TARC測定試薬「アラポートTARC」の基礎的検討 医学と薬学 58巻6号:901-907, 2007 2) 小児アトピー性皮膚炎の病態評価マーカーとしての血清TARC/CCL17の臨床的有用性 日本小児アレルギー学会誌 第19巻5号:744~757, 2005 外注受付 連絡先(5768) |
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化学検査室よりお知らせ |
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血沈検査における採血のお願い 検査部では、今年の5月より血沈(血液沈降速度)の測定を実施していますが、血沈の採血量について再度お知らせ致します。 採血は、血沈専用真空採血管(クイックアイ パートナー)の真空採血管部分を縮めた状態(図○)のままで、すりガラス様のライン幅(a)まで採血をお願いします。 規定量以下あるいは以上の採血量の場合、取り直しをお願いすることもございますので、ご協力お願い致します。 化学検査室 連絡先(5756)
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■鉄分検査室 | |||||||||||||||||
しろいかもめ | |||||||||||||||||
第20回 《絶滅危惧種》 |
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福岡市こども病院の移転問題の際登場する博多湾の人工島のある一帯は以前は広大な和白干潟が広がっていた。人工島工事の当初計画では、和白干潟を全面的に陸地に干拓するものであったが、紆余曲折を経て現在のような姿となった。 |
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平成4年(1992)福博に、三つの頭を持つ翼竜キングギドラが飛来した。 |
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いよいよ秒読み段階になりつつある九州新幹線博多乗り入れによって九州内の鉄道地図も様変わりすることとなる。 |
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新幹線の嚆矢は、もちろん東海道新幹線である。 この歴史的な0系が終焉を迎えようとしている。 既に東海道新幹線では、平成11年(1999)に姿を消していて、現在山陽新幹線で<こだま>の運用が数本行われている。昨年登場のN700系が好評で、投入が前倒しされたこともあり、11月30日で山陽新幹線からも0系が姿を消すこととなった。0系は、絶滅危惧種ならぬ絶滅決定種と言える。せめて博多南線で動態保存の形で運用を残してもらいたいものである。今年に入り、0系の塗色が新幹線開業時のものに塗り替えられている。年配者には、郷愁を、若者には新鮮な魅力を与え、最後の輝きを放ちながら元気に走っている。 |
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■研究室の雑感 その弐 ■ ―耐熱菌と光物― 杏李 |
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遺伝子検査でよく使われる方法にPCR(Polymerase chain reaction)法がある。遺伝子のある領域を指数関数的に増大させ、現在の分子生物学の発展に多大な貢献をもたらした。ご存知のようにこの方法を開発した当時アメリカのシータス社に勤めていたキャリー・マリスは10年後にノーベル賞を受賞している。PCRの伸長反応にはDNAポリメラーゼが用いられる。初期には3台のインキュベーターを用いてPCR反応を行い、一回ずつDNAポリメラーゼを加えていた。当時のDNAポリメラーゼは耐熱性がなく94℃では失活したからだ。このままでは世界に普及しないと考えたシータス社の研究者は高温の温泉などに生息するバクテリアのDNAポリメラーゼに注目し、この問題を解決した。その結果試験管内で短時間にヒトのDNAを増やすことが可能となった。 最初に発見されたのはアメリカ イエローストーン国立公園の温泉に生息するバクテリアであった。好熱性細菌Thermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼI(Taq DNA polymerase)が精製され現在でも多くのラボで使われている。さらに次々と耐熱性のポリメラーゼが発見された。以前私の研究室ではNew England BioLabsから発売されていたDeep VentR DNA Polymeraseを使用していた。この酵素はカリフォルニア湾海底2010mの深海の噴気孔から発見された104℃で生存する好熱古細菌から精製された。Deep(深海) Vent(噴気孔)が名前の由来である。当時PCR反応をかけながら、温泉や海底の微生物に思いを巡らしたものである。実験の合間によく由布院、別府温泉に行くことがあったが、この泉源にもいろいろな微生物がいるのだろうかと想像するのも楽しいものである。 日本でもDNAポリメラーゼが単離されている。研究室でよく使われるポリメラーゼにKOD DNA polymeraseがある。この酵素は鹿児島県小宝島の硫気孔より単離、超好熱始原菌Thermococcus
kodakaraensis (KOD1)株由来である。高い耐熱性、高次構造をとりやすい鋳型に適応できクローニングに適する。この菌は京都大学の今中教授のグループが単離した。彼らは油田に生息する菌や極低温にある菌、石油分解菌などから有効な酵素などを単離している。夢のあるお話です。 話はそれるが、来年7月22日には皆既日食が日本で見られる。完全な皆既日食が見れるのは鹿児島のトカラ列島付近。皆さん是非黒い太陽とコロナを見に行きましょう。新たな検査方法を思い浮かべながら6分間の幻想を楽しみたいものです。このように分子生物学の発展には多くの微生物が貢献してきた。至適環境化で生息する微生物はその環境化で生息する機構が備わり一般の常識では考えられないことが多く存在するのであろう。 分子生物学の分野では「光物」が大変流行した。ひとつは転写活性を測定するルシフェラーゼアッセイである。私が大学院生のころはC14-クロラムフェニコールを使用し丸2日かかっていた測定が1時間以内で出来るようになった画期的な測定法である。ルシフェラーゼは発光基質(ルシフェリン)の酸化を触媒することで、発光を引き起こす酵素の総称である。ルシフェラーゼにはホタルルシフェラーゼが最も有名であるが、その他に、イクオリン(オワンクラゲ)、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼなどがある。現在でもホタルルシフェラーゼとウミホタルルシフェラーゼを同時に用いて測定している。測定中はなにか、不思議な気にさせられる。では、蛍はなぜ光るのか? 蛍が光るのは求愛が主たる用途であると思われる。ヒトも然り女性には光物が喜ばれる。さらに、ウミホタルの発光能力はいくつかの用途(求愛、捕食者回避)に利用されていると考えられている。ウミホタルは魚やカニなどに捕食されるが捕食されそうになった瞬間に発光して捕食者を驚かせ、その隙に逃亡すると言われている。ヒトも然り、癇癪玉で逃げる方法がある。 そのほかにも細胞内で紫外線を当てて光らせるGFP(Green Fluorescent Protein)は世界中が注目した。細胞内の分子の局在を知るアイテムとして華々しく登場した。その後GFPの光を増強させるような遺伝子改変を施したEGFPが登場するが、当時特許の関係で熾烈な改変競争が繰り広げられたと聞く。視覚に訴えるアイテムが分子生物学者は好きなのかなと思う。このGFPの起源はオワンクラゲ。ホタルやウミホタルの光は、酵素と補因子に依存的に発色基質が酸化することに由来するが、GFPは分子そのもの自体が光る。このGFPは生きた細胞の中でも光る優れものであり爆発的に世界中に広まった。GFPを組み込んだ細胞に青い光(励起光)を照射し、蛍光顕微鏡で観察すると、細胞の中が緑色に光る。顕微鏡の視野の中、GFPは美しい光を放ち、我々は光の虜になる。GFPのベクターはその後、いろいろな改変を受け、今では緑色だけでなく、赤や黄色の蛍光を発する仲間もできている。Clontech からは、DsRed2 とHcRed1 という、性質の異なる2種類の赤色蛍光タンパク質が発売されている。両者は自然界で産生される色素タンパク質の変異体で、それぞれイソギンチャク Heteractis crispa (HcRed1)とサンゴDiscosoma sp. (DsRed2)の着色組織で見られるもの。アザミグリーン(Azami-Green; AG)は、イシサンゴに属するアザミサンゴより単離された緑色の蛍光を発する新規蛍光蛋白質。このように分子生物学者はサンゴやイソギンチャクの色素タンパクまでも実験道具として使用している。水族館に行くと、多くのクラゲやサンゴ、イソギンチャク、その他色素系の動植物が見受けられる。下関の海峡館に行ったときは光物ばかり頭に浮かんだものである。話はそれるがイソギンチャクといえばカクレクマノミ。カクレクマノミはClownfish(ピエロ)、または Anemone fishともよばれる。これはイソギンチャク(sea anemone)の名前が由来らしい。カクレクマノミといえば「ファインディングニモ」の映画が有名でその後カクレクマノミの乱獲が起こったと聞く。寂しいことだ。 カクレクマノミの生態は非常に面白い。ひとつのイソギンチャクには、だいたい複数のクマノミが生息するがこの中ではいちばん大きい個体がメス、2番目に大きい個体がオスで、残りの個体は繁殖しないという。この場合にメスが死ぬと、オスがメスへ、3番目に大きい個体がオスとなる。このようにクマノミの繁殖には最初にオス、次にメスへ性転換をおこす雄性先熟という形式をとるらしい。いろいろ想像を掻き立てられることばかりだ。分子生物学の発展に多大な貢献をした極限環境化で生育する細菌、光を放ち、人間を魅了する蛍やクラゲ、種々の色素のサンゴやイソギンチャク。地球はなんとすばらしいのでしょう。 追記:2008年ノーベル化学賞にGFPの発見者下村博士が選ばれました。1962年の発見だそうです。ノーベル賞選考委員会も光物が好きみたいですね。 |
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■感染制御のために(14) ■ 検査部助手 内田勇二郎 | |||||||||||||||||
九州大学病院における今年の耐性菌増加の特徴 -醸(かも)しつつある耐性菌の現状- |
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昨年度の検査だよりにも耐性菌の増加のことを述べたが、今年の増加には特徴があるため、警告も含めて報告する。 まず、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase: ESBL)産生菌である。このβ-ラクタマーゼは、ペニシリン・第一世代・第二世代・第三世代・第四世代セフェム系およびモノバクタム系抗菌薬(セファマイシン系を除く)の耐性に関与している。当院において、ESBL産生Klebsiella pneumoniae は一時期急速に増加傾向であった(図1)。現在やや減少しているが、2.4%の分離率になっている。ところが、大腸菌に至っては今年の中間報告で分離率がついに10%を超え、8月までで11.2%となっている(図2)。Citrobacter koseri におけるESBL産生率は以前より高いことが指摘されており、当院でも今年で26.3%、最も高かった2006年は64.7%まで達していた(図3)。このように、ESBL産生菌の分離率でも大腸菌と他2菌種とで年次推移が異なっていた。詳しい伝播経路は今後充分検討する必要があるが、大腸菌は既に市中に蔓延している可能性、他2菌種は以前院内伝播を起こしていた可能性も考慮しておかなければいけないであろう。 |
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次に、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)産生菌についてである。カルバペネム系を含めたほとんどのβ-ラクタム剤に耐性を示すため、感染症を起こした場合非常に治療に苦慮する耐性菌である。当院では、ブドウ糖非発酵菌である緑膿菌やAcinetobacter を中心に分離されていたが、今年は異なり、腸内細菌科であるKlebsiella やEnterobacter から分離されるようになってきた(表1)。ブドウ糖非発酵菌は基本的には流し台などの水のある場所に多く存在しているため、環境清掃をこまめにするだけでもかなり院内伝播は防ぐことができると推測されるが、腸内細菌は患者だけでなく医療従事者も腸内に無症状で大量に保菌する可能性がある。ちなみに腸内細菌科の細菌は糞便中1gあたり100万~1億個も常在している。更にMBL だけでなくESBLはプラスミド性に耐性遺伝子をもっているため、腸内環境で他の菌種に耐性遺伝子を伝達する可能性も秘めている。 余談ではあるが、緑膿菌のIPM耐性率(低感受性(I)も含める)は、以前20%を越えていたが、現在15%を下回っているため、カルバペネム系抗菌薬の適正使用は少しずつ改善してきていることも推測された(図4)。 したがって、ESBLやMBL産生菌のような耐性菌を増やさないためには、自分を含めて身の周りには耐性菌がうようよしている-醸している-ことを実感し、環境清掃だけでなく各自の充分かつ頻回の手指衛生、分離された患者に対しては接触感染予防が不可欠であり、今後更なる遵守が必要と考えられる。 |
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■編 集 後 記■ 虫の音が、蝉の声から、鈴虫など秋の虫達の鳴き声に変わってまいりました今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。耳鼻科の検査には聴覚検査があり、毎年の健康診断でもヘッドホンをつけて検査します。季節に応じてカエルの鳴き声、秋なら鈴虫の音が聞こえますか?とかにしたらどうかなとふざけたことばかり考える。以前住んでいた家の裏には田園が広がり、田植えの頃にはカエルの鳴き声がうるさいぐらいであった。夏にはホタルが近くの用水路で見られるのどかな所である。少年時代をすごした田舎も同じで懐かしく思えていたものである。今住んでいる吉塚ではカエルの鳴き声も蝉の声も鈴虫の音も聞こえず、新幹線と鹿児島本線の列車の音ばかりである。鉄分が多くなった気がする。だんだん季節を醸し出すあいさつ文がなくなるのではないかと思えてくる。 技師長も書かれているが、青かびから発見されたコンパクチンは動脈硬化のペニシリンとも呼ばれる画期的な発見である。発見者の遠藤博士は少年時代、秋田の山間部で生まれキノコやかび(麹菌)に興味を示していたと聞く。また、ペニシリンを発見したフレミングの本にも大変感銘を受けていた。余白がないのでこの話の続きは次回杏李さんにしてもらおう。兎にも角にも少年時代の思いを貫くことが大事なのですね。鈴虫、クツワムシ、ハヤシノウマオイ、マツムシ、クサキリ、エンマコオロギ、アオマツムシの音を聞きながら、読書に耽る秋です。研究室では食欲の秋かな? |
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内海 健 | |||||||||||||||||