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授のうわごと

特定領域ニュースレター挨拶文 2007年

小柴昌俊先生は平成14年、ニュートリノの発見によってノーベル賞を受賞されました。当時のインタビューで以下のように語っておられたのを印象深く記憶しています。自分の研究は全く何の役にも立たないのだけれど、そのような研究に税金を使うことを許してもらったことに対し深く感謝しています、と。研究現場における競争原理の導入や社会的要請に対する貢献が声高に叫ばれ始めた頃だったかどうかは覚えていませんが、そのような流れに対する皮肉混じりのご発言だったのかもしれません。だいたいノーベル賞なんて役に立つとか、立たないとか、そんな議論とは無関係な別次元のことですので、小柴先生があのようにおっしゃっていたじゃないか、などと言ったところで実は何の説得力もないのですが、それでもあのようなおっしゃり方には小柴先生の意図するところがあったのだと思うのです。小柴先生特有の表現なのでしょうが、その御発言には研究者としての自信や信念のようなものを感じたのでした。あれから数年、日本経済は上昇機運にあるようです。しかしながら、依然として巨額の財政赤字を抱えており、基礎研究に対する風当たりは一層強くなっています。法人化以降の国立大学や研究所は大学院教育の充実、社会貢献や国際貢献の一層の努力を数値として示すことを求められ、学術研究は衰退の一途をたどるのではないかと心配です。大学間格差も確実に広がっています。そのような状況下で研究者としていかに生きてゆくかが問われています。我々は決して趣味で研究している訳ではなく、生業として職にしがみついている訳でもありません。ただし、その一方で余剰生産物を消費する人種であることは確かなのです。その上での小柴先生のご発言だったと思うのです。
   さて、特定領域研究「性分化機構の解明」は平成16年夏より活動を開始し、早いもので本年4月から4年目に入りました。4月からは第2期の公募研究代表者30名を迎え、13名の計画研究代表者とともに残り2年の研究体制が発足したことになります。本特定領域研究が採択されるにあたって、我々の研究が役に立つか、立たないかなどは問題にされませんでしたし、評価においてもそのことが重要であるとは思いません。性分化の分子メカニズムの解明が主要な目的であり、純粋に学術的価値が問われているのです。だからこそ本特定領域研究からは未来につながる性の研究を発信しなければならないのです。同時に、本特定領域研究は性関連の研究者の連携、すなわちコミュニティーの構築に寄与することも期待されています。閉ざされたコミュニティーでは自滅しますので、若者も中堅も年寄りも、大いに騒ぐべしということです。決して、成熟した研究領域ではないので、元気一杯にやりましょう。

特定領域研究「性分化機構の解明」
領域代表 諸橋 憲一郎

九州大学大学院 医学研究院 分子生命科学系部門 性差生物学講座(分子生物学)
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