文部科学省科学研究費特定領域研究「性分化機構の解明」 *

領域活動

第3回領域会議開催報告

2006年9月11日(月)〜2006年9月13日(水) 兵庫県淡路市

領域会議に参加して (敬称略)

001 和田友香 /002 清水慶子 /003 奥村康一/004 坂元志歩
005 大竹博之

002 清水慶子 (京都大学霊長類研究所)

 夏の暑さも一段落した9月11日〜13日、「性分化機構の解明」の第3回領域会議が兵庫県淡路島の淡路夢舞台国際会議場で開催されました。会議の冒頭、領域代表の諸橋先生から、「班員相互の情報交換の時間確保のため、ゆとりあるスケジュールにした」とのお話がありましたように、前回よりゆとりある会議になっており、多くの方と個別にお話をする時間を持つことが出来ました。発表は約50題の口演と約30題のポスターからなり、下等動物からヒトまで、多くの演題で議論が白熱しました。日頃、霊長類を扱っている私にとって、メダカやプラナリアなど、様々な実験対象は新鮮で、「性」の間口の広さや奥行きを再認識させられました。このように多岐にわたる分野の性分化機構解明に携わる研究者が、若手も「元」若手も一堂に会し、議論に集中する機会はきわめて稀であり、そのような会議に参加する機会にめぐまれたことを幸せに思いました。そして、様々な分野の方々からの、厳しくも暖かいご意見や率直な疑問は、自身の研究を顧みるよい刺激となりました。今回、特に気がついたことは、若手研究者が前回よりも積極的になったことでした。会議も回を重ね、またその間に若手主催の研究会も開催されたこともその一因かもしれません。さらに、発表の場を離れても、coffee breakや懇親会、ホテルのロビーやティールームが引き続き議論の場となり、まさに「サイエンスは体力である」を地でいった会議でした。

 「性分化」の議論を聞いて、オスとメス、あるいは男と女という対極にある2つの性の存在意義について考えさせられました。旧約聖書によると、イブはアダムの肋骨から作られたということになっています。しかし、発生、発達の過程を見る限り、ヒトの体の原型はメスといえます。メスはことさら特別なことをしなくてもメスになれますが、オスは異なります。このアダムとイブの関係は旧約聖書の時代における男性優位社会を反映しているのかもしれません。どちらが先であったかはともかく、多くの動物はオスメスほぼ一対一の割合で存在しています。無性生殖では基本的に遺伝的に同一の個体しか生まれないのに対して有性生殖では遺伝的に親とは異なる多様な子孫が生じます。この多様性は、環境の変化に適応できる個体の出現の可能性を高めることになり、ひいては種の存続を有利にし、進化の過程を生き抜くために大きな役割を果たしたと考えられます。その意味で生物界にオスとメスという2つの性が存在することはきわめて重要な機構です。そのオス・メスを作りあげる性分化の過程は、遺伝的な性決定、生殖腺原基の精巣あるいは卵巣への分化、内外生殖器の性分化、そして脳の性分化、最後は各器官が正常に機能した結果としての行動の性差によって完結します。さらに、これ以外にも、ヒトやサルなど社会生活を営む動物では、社会的、文化的な要因による行動や生理機能の性差、性分化が見られます。例えば、性の自己認知とそれによる精神活動も脳の性分化における重要な問題です。ヒトでは、それぞれの社会における性の機能の違いを学習することによって、オスが男に、メスが女になるのかもしれません。少なくとも生物学的なオスがそのまま男を意味するものではなく、それぞれの文化の中でその役割を果たすように男女の姿が作り上げられていくようです。

 時間がなく、淡路島を堪能できなかったことは心残りですが、お土産のタマネギせんべいを抱え、研究への意欲を新たに、バスに揺られて海を渡りました。会議の運営にご尽力くださったみなさま、ありがとうございました。

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