九州大学ホームページ
究内容

本研究室では「性・性差構築」と「核内受容体レギュロンによる代謝制御」に関する研究を行っています。以下に研究内容を紹介します。

【性・性差構築】

胎仔ライディッヒ細胞特異的エンハンサーを用い胎仔ライディッヒ細胞をGFP標識したトランスジェニックマウスを作出した。このマウスによって初めて胎仔ライディッヒ細胞を高純度に調整することが可能となり、研究が大きく進展した。

個体の性は三つのステップで確立されます。第一のステップは受精です。この時点で性染色体の組み合わせが決まります。哺乳類の場合XYで雄へ、XXで雌へと性分化するべく運命が決定されます。第2のステップが生殖腺(精巣と卵巣)の性分化です。生殖腺は特殊な中胚葉の一部(生殖腺原基)から発生しますが、この領域が雄(XY)では精巣を、そして雌(XX)では卵巣を構築することになります。興味深いことに、この生殖腺原基は雌(XX)であっても精巣へ、また雄(XY)であっても卵巣へ分化する能力を有しており、このことが「性転換」と呼ばれる現象の分子的基盤になっていると考えられています。次いで、性分化した精巣と卵巣からは男性ホルモンと女性ホルンが産生されます。これらの性ホルモンが第3のステップに非常に重要で、これらの性ホルモンの影響のもとに体全域に性差が誘導されると考えられています。

動物個体の性を議論するにあたって、我々が大いに興味を感じるところが、性・性差の形成と遺伝子発現との関係です。そして、この関係を理解する上で重要な視点はクロマチン構造の性差ではないかと考えています。つまり、エピジェネティック制御の性差です。このような観点から、精巣と卵巣の形成に必須の転写因子であるAd4BP/SF-1による標的遺伝子の制御機構を調べています。特に、本因子が結合する遺伝子上の領域はエンハンサーとして機能することが分かっており、この領域のクロマチンン構造の変化とその変化をもたらすメカニズムの解明を目指しています。

この研究は助教の嶋君と博士研究員の宮林さんが中心になって進めています。この数年の間に胎仔ライディッヒ細胞について、これまでの通説とは異なる結果が得られており、これらの結果をもとに近い将来に教科書が書き換えられることになるはずです。また、最近のデータも非常に興味深く、彼等の研究は間違いなく世界の先端を走っています。


【核内受容体レギュロンによる代謝制御】

解糖系この図に示すように多くの遺伝子によって構築されている。これらの遺伝子発現はAd4BP/SF-1のノックダウンによって大幅に減少し、多くの遺伝子座にはAd4BP/SF-1が結合している。

核内受容体ファミリーに属するAd4BP/SF-1は生殖腺や副腎皮質に発現し、ステロイドホルモンの産生に必要な全ての遺伝子の発現を制御しています。また、この遺伝子のノックアウトマウスからは生殖腺と副腎が消失することから、これらの組織形成にとって必須の因子と考えられてきました。しかしながら、ノックアウトマウスが作出され既に20年が経過しているにも関わらず、なぜ消失するのかについての適切な説明がなされていませんでした。つまりAd4BP/SF-1の機能の全貌を理解できていなかったということでした。そこで、助教の馬場君と博士研究員の大竹君が中心となって、全ゲノムを対象とする様々な手法(ChIP-sequence法など)を用い、この問題の解明に取り組んでいます。その結果、Ad4BP/SF-1が解糖系のほぼ全ての遺伝子を制御しているという興味深い結果が得られています。解糖系はグルコース代謝を通じてエネルギーを産生することから、Ad4BP/SF-1遺伝子のノックアウトマウスでは細胞内エネルギーの低下が組織の消失を招いたのではないかと考えています。実は、解糖系以外にもおよそ20の遺伝子からなるコレステロール産生系がAd4BP/SF-1によって支配されていることが明らかになってきたところです。このようにある代謝系を構築する全ての遺伝子を一つのユニット(レギュロン)として制御することで、系全体を協調的に制御することを可能にしているはずです。そして多分、全ての組織・臓器で種々のレギュロンによる代謝調節が行われ、そしてレギュロン間の相互作用を介した調節系が生体の恒常性の維持に不可欠であろうと推測しています。現在、代謝系を構築する一群の遺伝子がレギュロンとして協調的に調節されるという新たなコンセプトのもと、クロマチンの修飾や転写因子複合体による転写制御をもとに代謝制御を理解するべく研究を進めています。このレギュロンという言葉、ならびにこのコンセプトはまだ市民権を得ていませんが、5年もすれば多くの研究者がきっと使っている、つまり受け入れてくれているはずです。質の高い研究とは出来上がった流れに乗るものではなく、新たに流れを作るものです。その意味において、この研究はきっと非常に質の高い研究として成熟するはずです。研究を進めていると、時に頂に登ることがあります。意図しない場合も多く、実は頂きに立っていることに気付かないことがあるかもしれません。この研究は、ある意味で頂きに立っている状況で、誰も見たことがないことが見えています。


九州大学大学院 医学研究院 分子生命科学系部門 性差生物学講座(分子生物学)
〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3丁目1-1
TEL: 092-642-6181 / FAX: 092-642-6181
Copyright(C) Department of Molecular Biology, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University. All Rights Reserved.