九州大学大学院医学研究院 精神病態医学
九州大学病院 精神科神経科
 

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Department of Neuropsychiatry
Graduate School of Medical Sciences
Kyushu University

Since 1906, For Better Mental Health.
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百年の航跡

九州大学精神科は、京都帝国大学福岡医科大学(九州帝国大学の前身)の創立後3年目にあたる1906年4月23日に、精神病学教室として開講され、初代教授として東京帝国大学助教授であった榊保三郎を迎えた。以来一世紀が過ぎ、2006年同月同日に開講100周年を祝った。九州大学精神科の同門会名簿はこの榊から始まり、これまでに約800の会員が入局順に名を列ねている。
 開講当時は病舎がなく、都立松沢病院の前身である東京府巣鴨病院(当時呉秀三院長)にまで見学に行ったとのことである。その後、木造二階建ての本館と病棟からなる堂々たる校舎が完成。その瀟洒な姿は、後に夢野久作によりドグラマグラの舞台として描写されており、今もって当時の雰囲気を窺い知ることができる。精神科はテニスコートや野球場を抱える広大な敷地をもち、その周囲は煉瓦塀で囲まれていて、まるで別天地のようであったという。
 榊は、東大精神科の初代教授となった榊俶の末弟である。彼は天才肌の学者であったようで、講義は難解を極めたというし、その才能は精神医学の枠を越えて音楽へも及んだ。ドイツ留学時代にベルリンの楽譜店で出会ったアインシュタインとの長年に亘る交友や九大フィルハーモニーの創設でも知られている。
 1925年、慶應義塾大学教授であった下田光造が第二代教授として着任する。彼は、以後20年以上に亘る下田の黄金時代と呼ばれる一時代を築く。下田とその門下生は、執着気質の発見、精神分裂病(統合失調症)の神経病理、持続睡眠療法や電気けいれん療法の研究に代表される数々の業績を挙げ、その学風は西南学派と称された。
 下田の弟子として執着気質の実証的研究に従事していた一人に、のちに第三代教授となる中脩三(当時九大講師)がいた。中は、欧米への留学を経て台北帝大精神科教授となり、台湾の精神医学の礎を築いた人である。やがて彼は九大に戻るが、当時の日本は神経化学の黎明期にあり、彼ら気鋭の精神医学者は、脳生理学者とともに、精神神経疾患の原因を求めて脳の研究に取り組んだ。クロルプロマジンが発見されてまもなくの頃、徳島大学教授であった桜井図南男が着任する。桜井はいち早く精神薬理学の研究に着手し、自らは神経症、とりわけ戦争(事態)神経症で業績を打ち立てた。彼はバランスのとれた傑出した臨床医で、面接技法に優れ、東の西丸、西の桜井と並び称された。以来西南の地は精神療法・精神病理学の拠点の一つとなった。
 その後の四半世紀は、中尾弘之、田代信維が教授を務め、精神医学の幅広い分野において活躍がめだった時代である。
 中尾弘之は、大学紛争の混乱の最中に教授に就任するが、脳生理学の研究を牽引、視床下部が情動の中枢であることを疑いのないものとするなどの輝かしい業績を残した。田代信維は情動研究を心身相関の研究へと展開。さらに下田がその重要性を認めていた森田療法を継承し、今日では慈恵の森田療法、九大の森田療法と言われるまでに、大きく発展させた。以上、歴代の教授を紹介しつつ九州大学精神科百年の航跡を一瞥した。この間九大精神科は、独特の才能と個性の持ち主を数多く輩出し、同門は日本の各地で精神医学・医療の先駆けとなった。彼らからの百年の贈り物は、今日の精神医学・医療の姿にしっかりと刻み込まれている。その活動のすべてを書き記すことは不可能である。ここに記録できるのは、限られた出来事であり、限られた人々のことでしかない。精神科同門の方にはそれぞれの思い出をもってこの膨大な余白を埋めて頂きたい。
 そして、「我々は後世に何を遺してゆけるのか」といま再び問い直し、あらたな百年の航路へと羅針盤を合わせようではないか。(神庭重信)

基盤研究A -採択-

平成28年度基盤研究A - 課題名『統合失調症の神経活動異常:相互メカニズムの解明に向けて』- が採択されました。

新学術領域研究事業
(研究領域提案型)

「グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態」と題する新学術領域研究事業(H25年度~29年度:科学研究費補助金)に、領域班の一つとして参画しています。

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 脳科学研究戦略推進プログラム
-融合脳-

脳科学研究戦略推進プログラム 『臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)』の 発達障害・統合失調症等の克服に関する研究領域(H28年度~32年度: AMED)に参画しています。

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