研究室のご紹介

周産期研究室

研究室主任 藤田恭之講師
研究室員 諸隈誠一 教授(保健学科)、小川昌宜 助教、城戸咲 助教、原枝美子 助教、杉谷麻衣子 医員、坂井淳彦 助教、蜂須賀信孝 臨床助教、嘉村駿佑 医員、清木場亮 医員、中原一成 大学院生、村上健太 大学院生、甲斐翔太朗 大学院生、湯元康夫 特別教員

2021年5月現在

周産母子センターの臨床面における特徴

九州大学病院は6床のMFICU、18床の一般産科病床、13床のNICU、18床のGCUを備えた総合周産期母子医療センターです。NICUは在胎22週以降の早産児から診療しており、小児外科疾患も対応可能です。大学病院であるためほぼすべての成人小児診療科が揃っており、幅広い母体合併症に対応しています。先天性心疾患術後、総排泄腔遺残症術後妊娠など、小児期の原疾患治療から成人期の生殖医療・妊娠分娩管理まで、連続したチーム医療を行っていることも特徴です。精神科病床を有する数少ない周産期センターであり、精神疾患合併妊娠や社会的ハイリスク例についても、毎週のカンファレンスを行い、分娩後の地域連携まで連続した管理を行っています。3次救急にも対応し、分娩時外傷、大量出血などの産褥搬送も多数あります。母体だけでなく、妊娠22週の超早産症例から、出生体重300g台の重症胎児発育不全症例、先天性横隔膜ヘルニアなどの稀少小児外科疾患を含むあらゆる胎児疾患の診断・管理を行っています。すなわち当総合周産期母子医療センターはすべての周産期診療に対応すべき施設であり、管理する妊婦さんのほとんどが何らかのハイリスク妊娠です。一方で大学病院として専攻医の教育も行っており、ハイリスク妊娠や分娩に対応できる知識技能習得のため、レクチャーや抄読会、実技演習などの研修も盛んに行っています。

当研究室では以下の項目に関する研究を行っています。

胎児行動学から見た胎児発達過程に関する研究

当科では、超音波断層法を用いて胎児の行動を観察し、行動の変化から中枢神経系の発達過程を捉えるという研究を行っています。これまで、胎児期の睡眠に関わる眼球運動や口唇運動を観察し、妊娠週数に伴う変化を明らかにしてきました。さらに、得られた結果から、臨床に役立つ検査方法の考案も行っています。また胎児期に観察した眼球運動などのデータが、生後の睡眠や発達に関連しているかどうかの追跡調査も行っています。

超音波診断装置を用いた胎児循環動態の評価法に関する研究

胎児の循環動態を心機能と抹消循環の両面から非侵襲的に評価する研究を行なっています。具体的には、心機能に関しては、超音波ドプラ法を用いて、心臓弁(僧帽弁、大動脈弁)の閉鎖・開放信号を同定し、胎児における心時相解析を行い主に等容性収縮期、等容性拡張期を計測しています。また、エコートラッキング法を用いて胎児下行大動脈の脈波波形を記録し、その立ち上がりの変化(max dD/dt)が成人におけるmax dP/dtの代用として心収縮能の指標となり得るか検討しています。また、末梢循環に関しては、成人におけるAugmentation Index (AI)と同様に胎児脈波波形から算出し、その臨床応用について検討しています。

今後の展望として、脈波波形解析に関しては、脈波波形が圧波形と相似であることから、成人での動脈圧の推定法を応用して、胎児の血圧に関する情報を得ることができる可能性があります。この脈波からの血圧推定法が確立されれば、胎児の循環障害あるいは循環不全を成人同様に診断できる可能性があります。こうした視点から、本法を臨床的に新たな胎児循環モニタリング法の一つとして応用できないか検討中です。

希少な疾病の原因究明·診断に関する臨床遺伝学的研究

病院の性質上、希少な疾病を合併した妊婦・胎児に遭遇することが多々あり、その原因の究明に小児科や臨床遺伝医療部、他施設の遺伝解析部門と協力して取り組んでいます。染色体検査目的の羊水検査に加え、重篤な遺伝性疾患に罹患する可能性がある胎児の羊水検査・絨毛検査による遺伝子診断も院内倫理審査委員会の承認を得て行っています。こうした疾患は家族とのコミュニケーション、フォローアップも重要であり、臨床遺伝医療部と密接な協力体制を整えています。母体血胎児遺伝学的検査の実施については既に準備を整えており、担当する医師の育成を行っています。当研究室は超音波による胎児の生理学的、形態学的、機能的診断にもともと定評があり、遺伝学的な裏付けがそこに加わることで、胎児医学のさらなる展開が期待されています。

母体生活習慣や生活環境が、胎児および生後発達に与える影響に関する研究

母体の食事や睡眠・運動などの生活習慣、感染や炎症、ストレス、化学物質、大気汚染など、胎児は子宮内で様々な影響を受けていると考えられています。周産期登録データベースや環境省のエコチル調査などのビッグデータを使い、子宮内の環境が胎児の発達、ひいては出生後の発達にどのような影響を与えるかについての研究を行っています。

iPS細胞を用いた機能的人工胎盤の創生に関する研究

妊娠12~28週に胎盤の機能が低下する(胎盤機能不全)と、生まれた後の赤ちゃんに神経学的障害や発達障害を合併する頻度が高くなります。産科の臨床現場では頻繁に遭遇し頭を悩ませる病態にも関わらず、現在この胎盤機能不全に対する有効な治療法はありません。新生児科併設の高次医療機関で、可能な限り妊娠期間を延長させ胎内での成熟を期待する待機療法が主体ですが、新規治療法が切望されている病態の一つと言えます。その一方で、近年肝臓に代表されるようにiPS細胞から人工臓器を作成する再生医療の分野が脚光を浴びています。そこで私たちは胎盤機能不全に対する新規治療法として、人工胎盤創生を目標とし研究を進めています。今までの実験で①iPS細胞から胎盤の構成要素である絨毛細胞を誘導し②それを用いて臓器として立体的構造を有するミニ胎盤(胎盤器官芽)を作成すること、また③免疫抑制マウスの子宮へ作成した器官芽を移植することにそれぞれ成功しています。今後は胎児発育不全モデルマウスの胎盤へ作成した胎盤器官芽を移植し、器官芽による胎盤機能補完能を検討していく予定です。

絨毛細胞に着目した分娩開始機構の解明

ヒトにおける妊娠は約10ヶ月の間、子宮内で胎児を育て、児が子宮外で生存できるまで成熟させます。その後、自然に陣痛が発来し、分娩に至ります。分娩開始の機序についてはプロゲステロンやオキシトシンといったホルモンの関与、炎症反応の惹起、胎児のホルモン動態の変化に着目し、これまでに多くの研究がなされていますが、完全には明らかになってはいません。一方、妊娠の維持という観点では、母体と胎児の接点に存在する胎盤絨毛の栄養膜細胞に着目した研究が多数なされています。しかしながら栄養膜細胞が分娩の開始に果たす役割については知られていません。私たちは、分娩が妊娠維持機構の破綻である考え、母児の接点に存在する栄養膜細胞の挙動に着目し、分娩開始機転を明らかにすることを目的に研究を行っています。

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