九州大学医学部婦人科学産科学教室

LABORATORY研究室のご紹介

周産期研究室

研究室主任
城戸咲 助教
研究室員
諸隈誠一 教授(保健学科)、坂井淳彦 助教、清木場亮 助教、中原一成 助教、杉浦多佳子 医員、嶋田幸世 大学院生、甲斐翔太朗 臨床助教、森下博貴 大学院生、中島奈津実 医員

2025年4月現在

1.診療

九州大学病院は総合周産期母子医療センターです。

周産期研究室では、総合母子医療センター母性胎児部門の診療を担当しています。大学病院であるためほぼすべての成人・小児診療科が揃っており、幅広い母体・胎児疾患に対応しています。

<母体診療>
  • 先天性心疾患や希少小児外科疾患の術後女性に対するチーム医療
  • 精神疾患合併妊娠・社会的ハイリスク妊娠
  • 母体救命(3次救急)
<胎児診療>
  • 先天性疾患・先天性外科疾患:精査・管理・胎児治療
  • 多胎妊娠(※胎児治療は行っていません)
<その他>
  • 早産予防外来 プロゲステロン腟坐剤投与(自費)
  • プレコンセプション外来(妊娠前相談)
  • 妊娠と薬外来
  • 出生前遺伝学的検査(遺伝診療部と連携)

大学病院として、専攻医の教育にも力を入れています。ハイリスク妊娠や分娩に対応できる知識技能習得のため、レクチャーや抄読会、実技練習などの研修も盛んに行っています。

2.研究

周産期研究室では、以下のテーマで臨床研究を行っています。

①胎児発育不全・妊娠高血圧腎症:オートファジー異常との関連とモデル動物の創出

胎児発育不全・妊娠高血圧腎症に関する研究

胎児発育不全、妊娠高血圧腎症は発症頻度の比較的高い周産期疾患ですが、詳細な原因がわかっていません。当研究室ではミトコンドリアとヒト絨毛ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin: hCG)を柱に、発症の機序に関する研究、予測因子の創出、新たな動物モデルの作製などの研究を行っています。

胎盤形成不全、胎盤機能不全に関する研究

胎児発育不全(Fetal Growth Restriction: FGR)とは推定胎児体重が該当週数の標準値と比較して小さい状態をいい、様々な要因があります。妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)は妊娠中に母体の血圧が上昇し、病的蛋白尿をはじめとして全身性に様々な臓器障害が起こる疾患で、臓器障害の一つにFGRが含まれます。この2つの疾患は全妊娠の5-10%に発症し、早産に伴う児の未熟性や、児や母体で将来の生活習慣病の発生率が高いことが問題となります。これら疾患の病態に胎盤機能不全があると考えられていますが、なぜ胎盤の機能が悪くなるのか、詳細なメカニズムは十分に明らかになっていません。FGRやPEは適切な時期での妊娠帰結(分娩)以外に治療法がなく、また二つの疾患の発症を予測することもできないのが現状です。当研究室ではミトコンドリアとhCGが両疾患の発生機序に密接に関連していることを、2022年3月に世界で初めて発表しました。この報告に引き続き、以下の3つのテーマを掲げて研究を行っています。

FGR・PE関連研究①:新しい予測因子に関する研究

現時点でFGRおよびPEの発症を予測する有用なマーカーは存在していません。そこで我々は先行研究に基づき、ミトコンドリア機能とhCGに着目して経時的な妊娠中の生体試料(血液、尿、娩出胎盤)を網羅的に解析することで新たな予測因子の創出に関する研究を行っています。

FGR・PE関連研究②:胎盤形成障害に伴う胎盤機能不全の研究

胎盤を構成する栄養膜細胞は特に妊娠の維持、胎児の発育において重要な役割を担うことが知られています。我々は胎盤の形成過程、発達過程で細胞の品質管理機構であるオートファジーの異常が起こり、胎盤の形成障害が起こっていることを想定し、リソソームやミトコンドリアに着目した細胞生物学的研究を行っています。

FGR・PE関連研究③: 新たな動物モデルの創出

当研究室の研究mgb10px成果を元に、新しいFGR・PEの動物モデルを作製することを行っています。産科領域の動物実験はヒトへの外挿が難しい分野ですが、分子レベルでの実験を行い、臨床に応用するための病態解明と治療薬の創出を目標に研究を進めています。

②胎児行動学(諸隈研究室)

胎児の行動を超音波断層法で観察し、胎児の発達過程や出生した児の発達との関連を研究しています。

超音波断層法を用いて胎児の行動を観察し、行動の変化から中枢神経系の発達過程を捉えるという研究を行っています。これまで、妊娠初期の胎動、胎児期の睡眠に関わる眼球運動や口唇運動を観察し、妊娠週数に伴う変化を明らかにしてきました。さらに得られた結果から、臨床に役立つ検査方法の考案も行っています。また胎児期に観察した眼球運動などのデータが、生後の睡眠や発達に関連しているかどうかの追跡調査も行って、関連を報告しています。

ビッグデータを用いた研究

妊娠中の生活習慣や環境が、出生後の発達に影響するかを研究しています。

母体の食事や睡眠・運動などの生活習慣、感染や炎症、ストレス、化学物質、大気汚染など、胎児は子宮内で様々な影響を受けていると考えられています。 日本産婦人科学会の周産期登録データベースと環境省の大気汚染物質濃度を用いて、妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離、死産などを合わせた胎盤関連合併症と大気汚染物質濃度の関連を報告しています。
また環境省の子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)のデータを用いて、母体の睡眠や運動が生後の発達や自閉症と関連することも報告しています。具体的な研究成果については、エコチル調査九州大学サブユニットセンターのHPもご覧ください。

調査で分かったこと|エコチル調査九州大学サブユニットセンター

③超音波エラストグラフィーによる胎盤評価の臨床応用(癒着胎盤・頸管塾化)

超音波エラストグラフィーによる癒着胎盤の予測

前置癒着胎盤は分娩時異常出血の原因となり、母体の生命に関わります。一方、分娩時異常出血が予測される時の対策として自己血貯血や尿管ステントの留置、大動脈遮断バルーンの留置などがありますが、これらは母体への侵襲を伴います。術前に癒着胎盤である可能性を予測できれば、母体安全と侵襲のバランスに留意した適切な準備を行うことができます。
超音波エラストグラフィーで胎盤組織弾性度および子宮筋層弾性度を測定することで癒着胎盤の有無および子宮筋層への浸潤度を推察します。

本研究の目的はStrain elastographyを用いて胎盤および子宮筋層のStrain ratioを測定することで癒着胎盤の有無を明らかにすることです。生体組織はそれぞれ固有の弾性があります。Strain elastographyは組織弾性の分布をリアルタイムにカラー表示し定性的に表示します。軟らかい組織は赤色、中間の軟らかさの組織は緑色、硬い組織は青色で表示されます。癒着胎盤が浸潤している筋層は硬いことが予想され、正常筋層と比較し青くなり、またStrain ratioで皮下脂肪と比較することで硬さの程度を数値化します。

<経腹超音波断層法>

Strain ratioは相対的な硬さを半定量的に表すもので、A点はB点に比べて0.59倍の硬さと評価されます。

<経腟超音波断層法>

Strain ratioは相対的な硬さを半定量的に表すもので、A点はB点に比べて0.11倍の硬さと評価されます。
これらの症例で、胎盤と接して周囲の組織より青く硬いことが予想された部位は用手的に剥離できましたが癒着胎盤でした。
組織の弾性・硬さの違いによって組織の判定を行うといった視点で研究されたものはありません。本研究により癒着胎盤の予測ができるようになれば、分娩前により適切な準備を行うことができます。