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2023.09.11

見逃されている「きつ音」の中高校生の不登校の原因の一つを発見!(耳鼻咽喉科学分野 中川尚志教授、 大学病院 菊池良和助教)

見逃されている「きつ音」の中高校生の不登校の原因の一つを発見!
~「きつ音」中高校生の社交不安症の併発に注意~
ポイント
  1. ① 「きつ音」を主訴で病院に来る中高校生の 26%が不登校。
  2. ② 不登校の一つの原因として、社交不安症が関係していることを発見。
  3. ③ 「きつ音」中高校生に社交不安症の予防が必要。

概要

「きつ音」(どもり症)は発話時に流暢に話せないことがあることが特徴で、中高校生に 1%に存在します。幼児期、小学生の頃は「きつ音」の支援は教育機関・福祉医療機関での対応がありますが、中高校生以降は支援する機関が少なく、困り感の現状が分かっていませんでした。九州大学病院ではあらゆる年齢の「きつ音」の対応をしており、中高校生の相談に不登校が多いことに気づき、その要因を解析しました。

その結果、26%の中高校生は不登校で来院し、その原因の一つとして、社交不安症(あがり症、対人恐怖症)が関係していることを発見しました。

九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の中川尚志教授、菊池良和助教、山口優実博士、福岡教育大学の見上昌睦教授、長崎県立大学の吉田恵理子准教授、東京都福生第七小学校の髙橋三郎博士、国際医療福祉大学の梅﨑俊郎教授らのグループは、「きつ音」を主訴に来院した中高校生 84 名のうち 22 名(26%)が不登校であることを明らかにし、その要因を解析しました。不登校群と登校群を社交不安尺度で比較すると、有意に不登校群で社交不安尺度が高い結果が判明しました。社交不安症に関係する因子として、「吃音が出た後に、気持ちが落ち込む」「話す際に手足が震える」ことが判明しました。

今回の発見は、「きつ音」の中高校生の支援の必要性についての課題を発見し、今後の支援に役立つことが期待されます。

本研究成果は日本国の雑誌「Pediatric International」に 2023 年 9 月 10 日に掲載されました。

研究者からひとこと:
 現在の日本において、吃音のある子の支援は不十分です。小学校の通級指導教室では多くの子が支援を受けていますが、中学生以降の支援はほとんどありません。言語聴覚士もいますが、中学高校生のリハビリを 受けている病院はほとんどありません。支援の狭間にある中学・高校生の「きつ音」のリアルを伝え、社会に関心を持っていただ きたいです。
【研究の背景と経緯】
 「きつ音」(どもり症)は発話時に流暢に話せないことがあることが特徴で、中高校生に 1%に存在します。幼児期、小学生の頃は「きつ音」の支援は教育機関・福祉医療機関での対応がありますが、不登校群は登校群と比較して、明らかに社交不安尺度が高い結果であることが分かった。中高校生以降は支援する機関が少なく、困り感の現状が分かっていませんでした。九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科ではあらゆる年齢の「きつ音」の対応をしており、中高校生の相談に不登校が多いことに気づき、その要因を解析しました。その中で、私たちは人前で話すときに不安や恐怖を感じ、社会生活にも影響のある社交不安症(あがり症、対人恐怖症)に着目しました。海外でも成人吃音者の約半数に社交不安症が併発することは報告されており、日本で中高校生の年齢においても社交不安症の併発が不登校と関係しているのではないかと考え、調査することにしました。

【研究の内容と成果】
 本研究は 2 部構成となっており、第一の研究では、不登校群 22 名と登校群 62 名で社交不安尺度LSAS-CA 日本語版で比較しました。その結果、不登校群では有意に社交不安尺度が高いことにより、不登校の一因に社交不安症が関与していることを発見しました。第二の研究では、「きつ音」の中高校生 40 名に対して、社交不安症群 20 名と非社交不安症群 20 名に分け、発話に関連する 10 項目の問診票を調査しました。すると、「吃音が出た後に、自己否定する思考に陥る」「話す際に手足が震える」ことが社交不安症群に有意に多い事が判明しました。そのため、社交不安症の予防・治療として、「発話後の自己否定する思考に陥る」や「身体的な震え」に注目すべきことが分かりました。

【今後の展開】
 中高校生で不登校に陥っている生徒の問題解決は容易ではありません。そのため、小学生の時期から、社交不安症・不登校に陥らないような予防活動として、家庭・学校で「きつ音」のある本人と合理的配慮を考えることを広めていければいいと考えています。
【2 分の動画で解説】
 QR コードでも動画を確認できます→
 https://www.youtube.com/watch?v=boQ8qETn4u0
【謝辞】
本研究は JSPS 科研費 (JP21KK0238, JP21K02688, JP20K02299)の助成を受けたものです。
【論文情報】
掲載誌:Pediatric International
タイトル:Social anxiety disorder in adolescents who stutter: A risk for school refusal
著者名:Yoshikazu Kikuchi, Masamutsu Kenjo, Eriko Yoshida, Saburo Takahashi, Daisuke Murakami, Yumi Yamaguchi,     Kazuo Adachi, Motohiro Sawatsubashi, Masahiko Taura, Takashi Nakagawa, Toshiro Umezaki
DOI :10.1111/ped.15622
九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科
助教 菊池良和(キクチ ヨシカズ)
Mail:kikuchi.yosikazu.544★m.kyushu-u.ac.jp
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