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2024.06.11

ミトコンドリア分裂の必須因子を発見~狭窄後のトドメが分裂の決め手~(細胞生理学分野 神吉教授、古川助教)

ミトコンドリア分裂の必須因子を発見
~狭窄後のトドメが分裂の決め手~
ポイント
①ミトコンドリアの分裂は、ダイナミン様タンパク質に狭窄されることによって起こると考えられてきましたが、それだけで十分かどうかは証明されていませんでした。
②ミトコンドリア内に存在するマイトフィッシン/Atg44がダイナミン様タンパク質による分裂において決め手となることを明らかにしました。
③ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する重要な細胞小器官であり、その形態制御に関する本研究は、ミトコンドリア異常により生じる様々な疾患の病態解明や治療法開発に結び付くものと期待されます。
 

概要

エネルギー産生を担うミトコンドリアは、細胞外の環境情報に応じて分裂と融合によるダイナミックな形態変化を示すことが知られています。ミトコンドリアの分裂では、ダイナミン様タンパク質 (酵母Dnm1/哺乳類Drp1) がミトコンドリアの外側からリング状に巻き付くことによってミトコンドリアの狭窄・分裂が起こるというモデルが長年信じられてきました。しかしながら、Dnm1/Drp1の力だけで本当にミトコンドリアが分裂するのかという疑問が残っていました。
 九州大学大学院医学研究院の古川健太郎助教、神吉智丈教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科の芝田晋介教授らの共同研究グループは、Dnm1による狭窄だけではミトコンドリアの分裂は完了せず、マイトフィッシンと呼ばれるミトコンドリアの中に存在するタンパク質が分裂の決め手となることを明らかにしました。
 今回の研究成果は、長年未解決だったミトコンドリア分裂の研究におけるブレイクスルーとなるだけでなく、ミトコンドリア異常により生じる様々な疾患の病態解明や治療法開発に繋がることが期待されます。
 本研究成果は米国の科学雑誌「Autophagy」に2024年6月4日(火)(米国時間)に掲載されました。

【研究の背景と経緯】

ミトコンドリアはエネルギー産生を含む生命活動の根幹を担う重要な細胞小器官ですが、古くなったあるいは異常が生じたミトコンドリアはオートファジー(※1) (ミトコンドリアの場合はマイトファジーと呼ばれる) によって分解されます。本研究グループは、酵母(※2)を用いた研究によって、2023年にマイトファジーにおける必須因子としてマイトフィッシン/Atg44を発見しました。Atg44の欠損細胞は、ダイナミン様タンパク質Dnm1の欠損細胞と同様に肥大化したミトコンドリア形態を示すことから、両者はミトコンドリア分裂において協調して機能することが予想されました。

【研究の内容と成果】  
 Atg44欠損細胞におけるDnm1の挙動を調べた結果、肥大化したミトコンドリアに多数のDnm1が集まっている様子やミトコンドリアが狭窄している部分にDnm1が強く集まっている様子が観察されました。さらに、ミトコンドリア分裂のタイムラプス解析(※3)を行ったところ、Atg44が正常な場合はDnm1が集まったところで分裂が起こるのに対し、Atg44欠損細胞ではそのような分裂は全く観察されませんでした。次に、Atg44欠損細胞において、Dnm1が集まっているミトコンドリアの狭窄部分に狙いを定めて光-電子相関顕微鏡解析(※4)を行ったところ、極限まで細くなっている様子が観察されました。さらなる解析から、このような狭窄部位ではミトコンドリアの膜(※5)は切れておらず、つながった状態を維持していることも分かりました。最後に、ミトコンドリアの分裂直前の狭窄部位にはAtg44が集まっている様子を観察することにも成功しました。以上の結果から、図1に示したようなAtg44とDnm1の協調によるミトコンドリア分裂モデルを提唱しました。
 ダイナミン様タンパク質の発見から25年以上が経過し、これらがミトコンドリアを狭窄して分裂させるというモデルが長年信じられてきました。本研究では、ダイナミン様タンパク質だけでは分裂は完了せず、マイトフィッシンが決め手となることを見出したことは、これまでのモデルを大きく書き換える成果となります。


【今後の展開】 
 現在、マイトフィッシンは酵母などの真菌類や一部の植物でしか見つかっていませんが、マイトファジーの研究結果から、哺乳類でもその存在が示唆されています。今後は哺乳類のマイトフィッシンを発見することが重要課題の一つとなります。ミトコンドリアの形態はその機能と密接にかかわっていることが知られており、様々なミトコンドリア関連疾患でミトコンドリア形態異常が認められています。具体的には、哺乳類におけるダイナミン様タンパク質の変異は、神経変性疾患や心疾患など様々な病態を引き起こすことが知られています。マイトフィッシンはミトコンドリア形態制御の重要因子であることから、その理解と応用により、ミトコンドリア形態異常を伴う様々な疾患の病態解明や治療法開発につなげたいと考えています。



【図1】マイトフィッシンとダイナミン様タンパク質の協調によるミトコンドリア分裂モデル


【用語解説】 
(※1) オートファジー
 細胞内で新たに作り出された脂質の膜が伸長し、細胞成分を包み込むように球状の構造が形成された後、分解酵素によって低分子へと分解されます。この一連の反応をオートファジーと呼びます。オートファジーはタンパク質をアミノ酸に分解して栄養として再利用するだけでなく、ミトコンドリアや小胞体のような細胞小器官を分解することで、その質や量を調節しています。

(※2) 酵母
 パンづくりやお酒づくりに欠かせない酵母は、単細胞生物ですが、細胞内の基本的な現象には高等生物との共通点が多く見られ、遺伝子操作が簡便に行えることから、モデル生物として利用されています。ノーベル賞に繋がったオートファジー・細胞周期・小胞輸送の研究にも貢献しています。

(※3) タイムラプス解析
 一定の時間ごとに観察対象の連続画像を撮影する解析手法です。今回の研究では、ミトコンドリアを赤色の蛍光タンパク質、Dnm1を緑色の蛍光タンパク質で可視化し、ミトコンドリアの分裂の様子を観察しています。

(※4) 光-電子相関顕微鏡解析
 蛍光顕微鏡と電子顕微鏡の両方で得られた画像を重ね合わせて解析を行う手法です。今回の研究では、蛍光顕微鏡を用いてミトコンドリアの狭窄部分に集まったDnm1の位置を確認し、電子顕微鏡を用いてその部分の微細構造を観察しています。

(※5) ミトコンドリアの膜
 ミトコンドリアは、脂質から成る外膜と内膜、その間のスペースである膜間腔、内膜に囲まれたマトリクス、内膜がひだ状になったクリステから構成されています。今回の研究では、脂質を切る役割を持つマイトフィッシンが欠損すると、Dnm1によってミトコンドリアが狭窄されても膜そのものは切断されていないことが分かりました。

【謝辞】
 本研究は、JSPS科研費(JP19H05712、JP21K05500、JP22H02615、JP23H04255)、日本医療研究開発機構AMED-CREST(23gm1710006s0101)、科学技術振興機構JST-CREST(JPMJCR19H3)、日本損害保険協会、武田科学振興財団、発酵研究所、野田産業科学研究所の助成によって行われました。

【論⽂情報】
掲載誌:Autophagy
タイトル:Atg44/Mdi1/mitofissin facilitates Dnm1-mediated mitochondrial fission
著者名:Kentaro Furukawa*, Manabu Hayatsu, Kentaro Okuyama, Tomoyuki Fukuda, Shun-ichi Yamashita, Keiichi Inoue, Shinsuke Shibata, Tomotake Kanki* (*責任著者)
DOI:10.1080/15548627.2024.2360345

【お問い合わせ先】
九州大学大学院医学研究院・助教 古川 健太郎(フルカワ ケンタロウ)
(新潟大学大学院医歯学総合研究科・客員研究員)
TEL:092-642-6089 FAX:092-642-6093
Mail:furukawa.kentaro.828@m.kyushu-u.ac.jp

九州大学大学院医学研究院・教授 神吉 智丈(カンキ トモタケ)
(新潟大学大学院医歯学総合研究科・客員教授)
TEL:092-642-6085 FAX:092-642-6093
Mail:kanki.tomotake.114@m.kyushu-u.ac.jp

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