2025.05.13
オートファジーによるミトコンドリア分解の仕組みとその微細構造を解明 ~隔離膜はミトコンドリアに密着して伸長する~ (細胞生理学分野 神吉 智丈教授、山下 俊一助教)
ポイント
概要
マイトファジーは、異常なミトコンドリアを選択的に分解することで、ミトコンドリア機能の維持に貢献するとともに、異常ミトコンドリアより生じるストレスから細胞を保護しています。ある種のミトコンドリア外膜タンパク質はマイトファジーレセプター*3と呼ばれ、オートファジーに必須な膜構造体 (隔離膜) をミトコンドリア上に繋留することでマイトファジーを促進します。しかしミトコンドリアと隔離膜がどのように接触するのかは分かっていませんでした。
九州大学大学院医学研究院の山下俊一助教、神吉智丈教授、福島県立医科大学の荒井律子助教 (現 名古屋大学大学院医学系研究科講師)、福島県立医科大学の和栗聡教授らの共同研究グループは、長年未解明だったミトコンドリア-隔離膜複合中間体の微細構造とその形成分子機構を明らかにしました。具体的には、ミトコンドリア-隔離膜接触部位の電子顕微鏡観察により、隔離膜がミトコンドリア外膜に密着して伸長すること、さらにマイトファジーレセプターがミトコンドリアと隔離膜の間に集積することでこの密着を可能にしていることを解明しました。
今回の研究成果は、マイトファジー研究のブレイクスルーとなるだけでなく、ミトコンドリア異常を伴う様々な疾患に対する治療法の開発において有望な標的として期待されます。
本研究は、ウォルター・エリザ・ホール医学研究所の Michael Lazarou 教授、カリフォルニア工科大学の David C. Chan 教授らとの共同研究で行われ、研究成果は米国の科学雑誌 Journal of Cell Biology に2025年5月13日(火) 22時00分 (日本時間) に掲載されます。
研究の背景と経緯
マイトファジーは、異常なミトコンドリアをオートファジーによって選択的に分解する現象を指し、ミトコンドリア機能の維持に貢献するとともに、異常ミトコンドリアより生じるストレスから細胞を保護しています。本研究グループはこれまで、主に光学顕微鏡を用いて生きた細胞を観察してきました。その研究により、マイトファジーが起こると、隔離膜が細長いミトコンドリアの一部分に結合し、その部分をちぎり取るように切り離して分解することが分かっていました。このモデルでは、ミトコンドリア外膜タンパク質 (マイトファジーレセプター) がミトコンドリアと隔離膜を繋ぐ役割を持つと考えられてきましたが、光学顕微鏡レベルの解像度では詳細な機構を明らかにすることはできませんでした。一方、研究グループは2024年に、複数あるマイトファジーレセプターの中でも BNIP3 と NIX が特に重要な因子であることを見出しており、これら2因子がミトコンドリア-隔離膜結合を担うことが予想されました。
研究の内容と成果

BNIP3/NIX 二重欠損細胞における、ミトコンドリア-隔離膜結合をタイムラプス解析*4によって追跡した結果、初期隔離膜と思われるドット状の構造は形成されるものの、その後の隔離膜の伸長は見られませんでした。BNIP3/NIX二重欠損細胞では、隔離膜形成開始に必須なオートファジー開始複合体*5は正常にミトコンドリアに局在しました。この部位を光-電子相関顕微鏡法*6によって解析したところ、野生型細胞ではミトコンドリアに密着して伸長する隔離膜が観察されるのに対し、BNIP3/NIX 二重欠損細胞では、伸長する前の隔離膜やミトコンドリアから離れてしまった隔離膜が多数観察されました。これらの結果から、BNIP3/NIX はミトコンドリア表面で隔離膜を作り始める段階には関与せず、形成された隔離膜をミトコンドリアに密着させ、さらにミトコンドリアに沿った隔離膜の伸長を促す役割を持つことが分かりました (図1)。
さらに、蛍光顕微鏡や電子顕微鏡解析により、BNIP3/NIX はミトコンドリアと隔離膜の間に集積することで、両者の密着を促進していることを見出しました。
本研究では、研究グループがこれまでに提唱してきたマイトファジーの膜動態について、新たな分子機構および微細構造を解明することに成功しました。この結果から、図2に示す新しいモデルを提唱しました。
今後の展開
マイトファジーレセプターは、マイトファジー起動時に隔離膜が形成される起点を決定していると考えられてきましたが、本研究によって BNIP3/NIX は隔離膜形成の場を作ることには関与せず、隔離膜とミトコンドリアの密着および隔離膜伸長にのみ必須であることが分かりました。したがって、長いミトコンドリア上のどの部分で隔離膜の形成が始まるのかを決める因子については、まだ明らかになっていません。さらに、この部位がどのようにしてちぎり取られているのか (分裂しているのか) についても未解明です。本研究で見出した、BNIP3/NIX の集積と隔離膜の密着が、マイトファジーに伴うミトコンドリア分裂にどのように関与するのかを解明したいと考えています。

用語解説
- *1 オートファジー
- 細胞が自身の成分を分解する現象を指し、自食作用とも呼ばれます。細胞内で新たに作り出された二重膜 (隔離膜) が伸長し、細胞成分を包み込んで球状の構造 (オートファゴソーム) になった後、ここに分解酵素を含むリソソームが融合することによって内容物が低分子へと分解されます。オートファジーはタンパク質をアミノ酸に分解して栄養として再利用するだけでなく、ミトコンドリアや小胞体のような細胞小器官を分解することで、その質や量を調節しています。
- *2 隔離膜
- オートファジー誘導時に細胞質に出現する扁平な二重膜構造体を隔離膜と呼びます。隔離膜は伸びながら湾曲し、ミトコンドリアなどを包み込んでオートファゴソームとよばれる小胞になります。
- *3 マイトファジーレセプター
- ミトコンドリア外膜タンパク質の中でも、隔離膜タンパク質であるLC3と結合することができるドメインを持つタンパク質群をマイトファジーレセプターと呼びます。代表的なマイトファジーレセプターには、BNIP3、NIX (BNIP3L)、FUNDC1、BCL2L13、FKBP8 があります。
- *4 タイムラプス解析
- 生きた細胞内で動くタンパク質やオルガネラを、経時的に観察する解析方法です。目的のタンパク質に蛍光タンパク質をつなげて発現させた細胞を作製し、生きたまま蛍光顕微鏡上で観察します。一定の時間ごとに複数回 (今回の実験では90回) 蛍光写真を連続撮影し、それらをつなぎ合わせることで経時的な変化を観察します。
- *5 オートファジー開始複合体
- ULK1、FIP200、Atg13、Atg101 の4種類のタンパク質からなる複合体 (ULK1 複合体とも呼ぶ) を指し、飢餓などのストレス時に活性化します。ULK1 はリン酸化酵素であり、下流因子をリン酸化することでオートファジーを促進します。マイトファジー誘導時には、ミトコンドリア上に ULK1 複合体が局在し、そこから隔離膜形成が始まります。
- *6 光―電子相関顕微鏡解析
- 蛍光顕微鏡と電子顕微鏡の両方で得られた画像を重ね合わせて解析を行う手法です。今回の研究では、まず蛍光顕微鏡を用いてミトコンドリア上の隔離膜形成位置を確認し、その部位の微細構造を電子顕微鏡で観察しています。
謝辞
本研究は、JSPS 科研費 (16KK0162, 22K07207, 22K06300, 24H02274, 23K23878, 23K27351, 20H03415)、日本医療研究開発機構 AMED-CREST (JP24gm1710006)、武田科学振興財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の助成によって行われました。
論文情報
- 掲載誌:
- Journal of Cell Biology
- タイトル:
- The mitophagy receptors BNIP3 and NIX mediate tight attachment and expansion of the isolation membrane to mitochondria
- 著者名:
- Shun-ichi Yamashita#, Ritsuko Arai#, Hiroshi Hada, Benjamin Padman, Michael Lazarou, David C. Chan, Tomotake Kanki*, Satoshi Waguri* (#共同筆頭著者、*共同責任著者)
- DOI:
- 10.1083/jcb.202408166
お問合せ先
九州大学 大学院医学研究院 助教
(新潟大学大学院医歯学総合研究科・客員研究員)
山下 俊一 (ヤマシタ シュンイチ)
092-642-6089 092-642-6093 yamashita.shunichi.029(at)m.kyushu-u.ac.jp
九州大学 大学院医学研究院 教授
(新潟大学大学院医歯学総合研究科・客員教授)
神吉 智丈 (カンキ トモタケ)
092-642-6085 092-642-6093 kanki.tomotake.114(at)m.kyushu-u.ac.jp
