研究TOPICS

2026.10.30

吃音の児童生徒に対する「合理的配慮」ニーズの実態を解明 ~学校環境への適応を促し、二次的な困り感(不登校・社交不安)を防ぐ手がかりに~(耳鼻咽喉科学分野 中川尚志教授、 大学病院 菊池良和助教)NEW

ポイント

  1. 吃音のある児童生徒が求める学校での合理的配慮が、成長や進学に伴いどのように変化するかが未解明でした。
  2. 小中高生の診断書などの分析により、配慮ニーズが小学校の「保護的支援」から中高の「自立・社会参加支援」へ移行すること、また「音読・発表への配慮」は全学齢で必須であることを解明しました。
  3. 教師や家庭が子どもの「困り感」を適切に把握できるようになり、進級時のスムーズな環境適応や、二次的な不登校・社交不安の予防への貢献が期待されます。

概要

2016年の障害者差別解消法の施行により、公立学校における合理的配慮の提供が法的義務化されたものの、吃音(きつおん)のある児童生徒が学校生活で必要とする具体的な配慮ニーズが、発達段階(小学校から中・高校)や学校システムの移行に伴いどのように変化するのかについては十分に解明されておらず、医療・教育現場での実態解明が望まれていました。

医療機関で作成された「意見書・診断書」の内容分析を通じ、吃音のある児童生徒が必要とする合理的配慮ニーズが、小学校の「学級担任制による保護的支援」から、中高の「教科担任との連携や社会的自立に向けた支援」へと、学校構造に応じて変化することを明らかにし、学齢を通じた配慮ニーズの普遍性を解明しました。九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の菊池良和助教、山口優実博士、佐藤あおい言語聴覚士、中川尚志教授、福岡教育大学の見上昌睦教授、長崎県立大学の吉田恵理子准教授の研究グループは、九州大学病院を受診した吃音のある小中高生116名の意見書・診断書の内容分析を行い、小学校では「吃音のある児童生徒がからかい・いじめを教師に報告する」や「教師がほかの児童生徒に吃音について説明する」などの保護的な配慮が多い一方、中高では「担任以外の教師との情報共有」や「在籍校外での面接への配慮」などの社会参加支援へとニーズが移行することを明らかにしました。また、音読や発表への配慮ニーズは学齢を問わず共通して高いことも確認されました。

今回の知見は、教師や家庭が吃音のある児童生徒の「困り感」に気づくための重要な手がかりとなるものです。児童生徒が毎年の新しい環境へスムーズに適応するための一助となり、二次的な社交不安や不登校の予防につながることが期待されます。本研究成果は、米国の雑誌「Pediatrics International」に2026年10月30日(金)午前9時(日本時間)に掲載されました。

児童生徒が希望する合理的配慮のグラフ

研究者からひとこと:

吃音のある児童生徒は、「困っていなさそう」と誤解されやすく、人知れず悩みを抱え込んでいるケースが多く見受けられます。今回の知見が、法律に基づく合理的な配慮を学校現場で提供していくための、教育現場と当事者との対話の第一歩となることを願っています。(菊池良和)

研究の背景と経緯

2016年4月の「障害者差別解消法」施行に伴い、日本の国公立学校においては吃音のある児童生徒に対して「合理的配慮」を提供することが法的義務、私立学校では努力義務となりました(※注)。しかし、言葉が滑らかに出ない言語障害・発達障害の一種である吃音に関しては、教員の知識不足や理解の難しさから、適切な環境調整が行き届かない課題が指摘されていました。

2023年9月11日に当研究グループが発表したプレスリリース(「見逃されている『きつ音』の中高校生の不登校の原因の一つを発見!」)においては、吃音外来を初診する中高生の26%が不登校状態にあるという深刻な現状が明らかとなり、小学生の頃からの早期支援および中高生への継続的な支援の必要性が浮き彫りになっていました。 すなわち、学校現場においては「障害者差別解消法」に基づく「建設的な対話」を通じた「合理的配慮」の提供が、依然として不十分な状況にあったと言えます。

研究の内容と成果

九州大学病院を受診した吃音のある小中高生116名(小学生65名、中高生51名)を対象に、専門医(菊池良和助教)が本人・家族との共同意思決定のもとで作成した意見書・診断書116通の記載内容を、帰納的内容分析を用いて客観的に分類しました。

分析の結果、合理的配慮は5つの大カテゴリーおよび21のサブカテゴリーに整理され、以下の主要な成果が得られました。

表1. 5つの大カテゴリー
  小学生 (n=65) 中高生 (n=51)
からかい・いじめを教師に報告する 70.8% (46名) 19.6% (10名)
教師が吃音について説明する 55.4% (36名) 9.8% (5名)
発表への配慮 64.6% (42名) 68.6% (35名)
担任以外の教師との情報共有 18.5% (12名) 45.1% (23名)
在籍校外での面接への配慮 0% (0名) 33.3% (17名)

小学生では「からかい・いじめを教師に報告する(70.8%)」や「教師が吃音について説明する(55.4%)」など、学級担任の権限を活用した環境調整のニーズが顕著でした。一方、中高生では「担任以外の教師との情報共有(45.1%)」や「在籍校外での面接への配慮(英検・入試面接など)(33.3%)」など、教科担任制や進学を見据えた社会的自立支援へと明確に変化しました。

(※注)障害者差別解消法における学校での合理的配慮については、公益社団法人 子どもの発達科学研究所「コハツWEB」を参照。
https://web.kohatsu.org/25_044-3/

表2. 21のサブカテゴリー
カテゴリー / サブカテゴリー 小学生 (n=65) 中高生 (n=51)
からかい・いじめを教師に報告する 70.8% (46名) 19.6% (10名)
話し方を指摘されたことを報告する 50.8% (33名) 13.7% (7名)
真似されたことを報告する 40.0% (26名) 9.8% (5名)
笑われたことを報告する 32.3% (21名) 11.8% (6名)
嫌な言葉を言われたことを報告する 12.3% (8名) 7.8% (4名)
不快な身体的接触を報告する 3.1% (2名) 2.0% (1名)
教師が吃音について説明する 55.4% (36名) 9.8% (5名)
教師がクラス全体に吃音について説明する 43.1% (28名) 5.9% (3名)
教師が個別に児童生徒へ吃音について説明する 12.3% (8名) 3.9% (2名)
発表への配慮 64.6% (42名) 68.6% (35名)
発表への配慮(音読以外) 32.3% (21名) 29.4% (15名)
教科書の音読への配慮 23.1% (15名) 19.6% (10名)
時間制限のある発表への配慮 15.4% (10名) 5.9% (3名)
日直(司会や号令など)への配慮 13.8% (9名) 13.7% (7名)
呼名(健康観察)への配慮 6.2% (4名) 0.0% (0名)
特別行事での発表への配慮 4.6% (3名) 7.8% (4名)
発表の免除 4.6% (3名) 5.9% (3名)
グループワークへの配慮 0.0% (0名) 17.6% (9名)
自己紹介への配慮 0.0% (0名) 13.7% (7名)
担任以外の教師との情報共有 18.5% (12名) 45.1% (23名)
教科担任との情報共有 18.5% (12名) 35.3% (18名)
職員室入り口付近の教師との情報共有 0.0% (0名) 13.7% (7名)
部活動の顧問との情報共有 0.0% (0名) 9.8% (5名)
在籍校外での面接・試験への配慮 0% (0名) 33.3% (17名)
英語検定への配慮 0.0% (0名) 19.6% (10名)
入学試験の面接への配慮 0.0% (0名) 13.7% (7名)

今後の展開

医療者と吃音のある児童生徒との対話を通じて提案した合理的配慮がどの程度実現されたのか、学校現場のフィードバックをいただき、医療と教育の連携を深めながら、吃音のある児童生徒の支援の輪を増やしたいと考えます。

謝辞

本研究はJSPS科研費(JP24K00440)の助成を受けたものです。

論文情報

掲載誌:
Pediatrics International
タイトル:
School-age Differences in Reasonable Accommodations for Students Who Stutter: A Content Analysis of Medical Letters
著者名:
Yoshikazu Kikuchi, Yumi Yamaguchi, Masamutsu Kenjo, Eriko Yoshida, Aoi Sato, Takashi Nakagawa
DOI:
10.1111/ped.70566

お問合せ先

九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科 助教

菊池 良和(キクチ ヨシカズ)

TEL:092-642-5668 FAX:092-642-5685 Mail:kikuchi.yosikazu.544(at)m.kyushu-u.ac.jp

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