2014.10.08
脊髄損傷急性期の高血糖が運動麻痺の予後を悪化させることを発見 岡田准教授
| 脊髄損傷急性期の高血糖が運動麻痺の予後を悪化させることを発見 〜急性期血糖値コントロールの重要性〜 |
概 要
九州大学大学院医学研究院の岡田誠司准教授と小早川和医師らの研究グループは、労働者健康福祉機構 総合せき損センターとの共同研究により、脊髄損傷直後には糖尿病を持たない患者にも急性高血糖が生じていることを発見し、さらにこの急性高血糖が脊髄損傷後の運動機能回復を阻害していることを証明しました。この研究成果は、脊髄損傷後の運動機能回復能を十分に引き出すためには、急性期高血糖の適切なコントロールが重要であることを示すものです。
本研究成果は、2014年10月1日(水)(米国東部時間)に米国科学雑誌『Science Translational Medicine』オンライン版で発表されました。
■背 景
脊髄損傷後には脊髄実質の直接の損傷後に、免疫細胞による炎症、神経系細胞のアポトーシス(細胞死)、髄鞘の脱髄(※1)などの二次損傷が引き起こされ、脊髄のダメージがさらに拡大します。中枢神経はその自然回復能が限られているため、脊髄損傷後の二次損傷増悪因子を特定して病態をできる限り軽減させ、機能回復を促すことが重要です。しかし、現在まで治療介入可能な脊髄損傷増悪因子は全く解明されていませんでした。
■内 容
研究グループは今回、総合せき損センターに入院した新規脊髄損傷患者528名の詳細な臨床データを多変量解析(※2)等の手法を用いて多角的に分析しました。その結果、脊髄損傷患者のうち約半数の患者に血糖値の上昇が起こっていることが判明し、入院時に高血糖を呈する患者の運動機能回復が著しく低下していることが明らかになりました。さらに、高血糖モデルマウスの損傷脊髄からセルソーター
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図:脊髄損傷直後に脊髄常在性ミクログリアの活性化が起きる(図左および図中)。脊髄損傷急性期の高血糖はミクログリアの活性化を亢進させて正常血糖状態の損傷脊髄よりも炎症反応、神経系細胞の細胞死、脊髄髄鞘の脱髄反応を増加させ、運動機能予後の悪化を引き起こす(図右)。
■効 果・今後の展開
今回明らかとなった結果により、これまで注目されていなかった脊髄損傷急性期の高血糖を治療することで運動機能回復の増悪防止につながる可能性が示唆されました。前向き臨床試験(※5)により、脊髄損傷急性期における血糖コントロールの有効性を確認することが重要であると考えられます。今後さらに、機能回復に最適な血糖コントロールプロトコールの確立のための研究を行う方針です。
【用語解説】
(※1)脱髄:
| 脱髄:神経軸索を取り囲む髄鞘が障害されること。神経伝導が障害され、脊髄損傷後の運動麻痺の一因となる。 |
(※2)多変量解析:
| 複数の因子(変数)が結果に及ぼす影響を統計的に分析する手法。 |
(※3)セルソーター:
| 細胞生物学などの分野に用いられる実験装置で、蛍光抗体で染色した細胞一つ一つを液流に乗せて流しレーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって、目的細胞の特性解析や仕分けを行う目的で主に使用される。 |
(※4)ミクログリア:
| 脊髄を含め、中枢神経系に存在する単球系細胞。普段は中枢神経系のメンテナンスを行っているが、中枢神経の組織損傷や細菌感染が起こると、早期から活性化して最前線で炎症を惹起する。また、病的状態では脱髄性反応にも重要な関わりがある。 |
(※5)前向き臨床研究:
| 研究を立案、開始してから(過去に遡らず)新たに生じる事象について情報収集し、調査する研究を前向き研究。一方、過去の事象について情報収集し調査する研究を後ろ向き研究と呼ぶ。 |
| 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 准教授 岡田 誠司(おかだ せいじ) 電話:092-642-6120 FAX:092-642-6099 Mail:seokada(a)ortho.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)を@に置換えてメール送信してください。 |

