2026.03.09
肥満が RNF213 遺伝子変異保有者の頭蓋内動脈狭窄を促進する可能性 〜福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry: FSR)からの大規模多施設遺伝子解析報告〜(病態機能内科学分野 吾郷 哲朗教授、医療経営・管理学分野 松尾 龍教授、九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科 中村 晋之講師、清原 卓也助教)
- RNF213 p.R4810K 変異*1はもやもや病の発症しやすさに関わる遺伝子変異であることが知られていますが、日本人の約1–2%が保有する比較的頻度の高い遺伝子のタイプであり、大多数は無症候のままです。
- 近年、比較的若年で、もやもや病に類似した頭蓋内動脈狭窄 (ICAS)*2 を呈する患者において、本変異の保有率が高いことが明らかになりつつあります。
- しかし、RNF213 p.R4810K 変異保有者のうち、どのような背景因子が血管狭窄の発症・進展を引き起こすのかはこれまで不明でした。
- 本研究により、RNF213 p.R4810K 変異保有者で肥満 (BMI 30以上) を伴う場合、頭蓋内動脈狭窄のオッズ比*3が約6.5倍と著明に高いことが明らかとなりました。
- RNF213 関連血管狭窄*4が、肥満などとの相互作用によって発症する可能性が示され、発症予防および進展抑制のための新たな治療標的探索につながることが期待されます。
頭蓋内動脈狭窄は脳梗塞の主要な原因の一つであり、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病に加え、遺伝的要因の関与も注目されています。RNF213 p.R4810K 変異はもやもや病の発症しやすさに関わる遺伝子変異であることが知られる一方、近年、もやもや病に類似した頭蓋内動脈狭窄との関連も報告され注目されています。しかし、本変異保有者のうち、どのような背景因子が血管狭窄の発症・進展を引き起こすのかは明らかではありませんでした。
九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学分野の吾郷 哲朗教授、医療経営・管理学分野の松尾 龍教授、九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科の中村 晋之講師、清原 卓也助教らの研究グループは、九州大学病院および福岡県内7施設から構成される「福岡脳卒中データベース研究 (Fukuoka Stroke Registry: FSR)」において、急性期脳梗塞または一過性脳虚血発作患者14,471例を対象に、RNF213 p.R4810K 変異と頭蓋内動脈狭窄との関連がどのような因子によって規定されるかを解析しました。その結果、RNF213 変異保有者では体格指数 (BMI) が高いほど頭蓋内動脈狭窄を認める人の割合が増加し、特に肥満 (BMI 30以上) を伴う場合には、頭蓋内動脈狭窄を有するオッズ比が約6.5倍と著明に高いことが明らかとなりました。一方、変異非保有者では BMI 上昇による同様のリスク増加は明確ではありませんでした。本研究は横断解析であり地域集団に基づくため、一般化には慎重な解釈が必要ですが、RNF213 p.R4810K 変異保有者において肥満が頭蓋内動脈狭窄合併リスクを増強する「修飾因子 (第二の要因)」となり得ることを示しました。これらの知見は、遺伝的素因と生活習慣因子を統合したリスク層別化や、修飾可能な要因に着目した予防戦略の構築に寄与することが期待されます。今後、長期追跡研究や、インスリン抵抗性・慢性炎症などの代謝関連機序の解明が進めば、RNF213 変異保有者における発症予防と個別化医療の確立につながる可能性があります。
本研究成果は国際学術誌 Journal of Stroke に2026年1月2日付でオンライン先行公開されました。
研究者からひとこと
とくに40~50歳前後の若年者で生活習慣病の危険因子が乏しいにもかかわらず脳主幹動脈狭窄を認める場合には、RNF213 関連血管症の可能性があり、適切な診断とリスク管理が重要です。九州大学病院ではこのような患者さんに対する専門的評価および遺伝学的背景を踏まえた治療方針の検討を目的として、腎・高血圧・脳血管内科外来でのご紹介・ご相談を受け付けています。
頭蓋内動脈狭窄は脳梗塞の主要な原因の一つであり、脳内の主要動脈が狭窄・閉塞することにより脳梗塞発症や再発のリスクが高まります。RNF213 p.R4810K 変異はもやもや病の発症しやすさに関わる遺伝子変異であることが知られていますが、近年ではもやもや病に類似した頭蓋内動脈狭窄との関連が報告され注目されています。一方で、同じ変異を保有していても血管病変の出現や重症度には大きな個人差があり、遺伝要因単独では説明できない可能性が指摘されています。
本研究では、肥満をはじめとする動脈硬化関連危険因子に着目し、RNF213 p.R4810K 変異とこれらの要因の相互作用が頭蓋内動脈狭窄の発症に及ぼす影響を検討しました。
本研究では、福岡脳卒中データベース研究に2007年6月から2019年9月までに登録された急性期脳梗塞または一過性脳虚血発作患者14,471例 (平均年齢73歳、男性59.4%) を解析の対象としました。まず、入院時の血管画像所見に基づき、頭蓋内動脈の50%以上の狭窄または閉塞を頭蓋内動脈狭窄と定義し、RNF213 p.R4810K 変異の有無を遺伝子検査により判定しました。次に、患者を体格指数 (BMI) の4区分 (18.5未満、18.5–24.9、25.0–29.9、30.0以上) に分類し、年齢・性別・高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・飲酒などの影響ができるだけ小さくなるように調整した多変量解析により、RNF213 p.R4810K 変異と頭蓋内動脈狭窄との関連を検討しました。解析の結果、以下のことが明らかになりました。
図. RNF213 変異と BMI の組み合わせでみた頭蓋内動脈狭窄 (ICAS) の有無
解析対象の14,471例のうち、RNF213 p.R4810K 変異保有者は371例 (2.6%) でした。変異を保有し、かつ肥満 (BMI 30以上) を伴う患者では頭蓋内動脈狭窄を有する割合が18/27例 (66.7%) と高く、標準体重の非保有者を基準とすると頭蓋内動脈狭窄を有するオッズは約6.5倍 (多変量調整オッズ比 6.49) でした。また、変異保有者では肥満度が高いほど頭蓋内動脈狭窄のオッズが増加する傾向が認められ、遺伝子変異と肥満との交互作用*5は統計学的に有意でした (交互作用 P=0.014)。一方、変異非保有者では肥満度による頭蓋内動脈狭窄頻度の明確な増加は認められませんでした (上図)。
本研究は単一地域における横断的観察研究であり、因果関係の確定にはさらなる検証が必要ですが、RNF213 p.R4810K 変異保有者において肥満が頭蓋内動脈狭窄合併リスクを著しく増強する可能性が示されました。
RNF213 p.R4810K 変異を有する人では、肥満を伴うことで頭蓋内動脈狭窄のリスクがより強く増強される可能性が示されました。これは、遺伝的素因に対して、修飾可能な生活習慣因子が追加的に作用し得ることを示唆しています。
今後は、インスリン抵抗性、慢性炎症、脂質代謝異常など、肥満に伴う生体反応のうち、どの要因が血管病変の形成・進展に関与するのかを詳細に検討していきます。さらに、他地域・他集団における再現性の検証や、前向き研究による発症・進行リスクの評価を進め、RNF213 変異保有者に対する発症予防と個別化医療の確立につなげることを目指します。
- *1 RNF213 p.R4810K 変異
- RNF213 遺伝子に生じるアミノ酸置換 (p.R4810K) で、東アジア人に比較的多くみられます。もやもや病の発症しやすさに関わる変異として知られています。
- *2 頭蓋内動脈狭窄 (intracranial arterial stenosis: ICAS)
- 脳の中を走る太い動脈が狭くなる状態です。狭窄や閉塞により脳梗塞を起こします。
- *3 オッズ比
- ある要因の有無によって、事象の「起こりやすさ (オッズ)」がどれくらい違うかを示す統計指標です。本稿では RNF213 p.R4810K 変異の有無によって、どの程度頭蓋内動脈狭窄が合併するか、その起こりやすさを示しています。
- *4 RNF213 関連血管狭窄
- RNF213 p.R4810K 変異を背景に生じる狭窄・閉塞性の血管病変です。脳血管に多い一方、近年、頸動脈など脳以外の血管にもみられる可能性が報告されはじめています。
- *5 交互作用 (遺伝子×肥満)
- 2つの要因 (例:遺伝子変異と肥満) が重なったときに、病態との関連がより強く (または弱く) みられることを指します。本研究では「肥満があると、RNF213 変異と頭蓋内動脈狭窄の関連がより強くみられる」可能性を検討しました。
本研究は、JSPS 科研費 (JP21K10330, JP21K19648, JP21H03165, JP24K02669)、アステラス病態代謝研究会助成、臨床研究奨励基金 (2023年) の助成を受けて実施しました。福岡脳卒中データベース研究参加施設・研究協力者および臨床研究コーディネーターの皆さまに感謝いたします。
- 掲載誌:
- Journal of Stroke
- タイトル:
- RNF213 p.R4810K Variant and Intracranial Atherosclerosis: Increased Risk in Obese Variant Carriers
- 著者名:
- 高島正光、清原卓也、中村晋之、尾崎雄一、吉野文隆、橋本剛、日高壮意、佐原範之、入江芙美、脇坂義信、松尾龍、鴨打正浩、北園孝成、吾郷哲朗
- DOI:
- 10.5853/jos.2025.02607
九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科
講師 中村 晋之 (ナカムラ クニユキ)
E-Mail:nakamura.kuniyuki.524(at)m.kyushu-u.ac.jp
助教 清原 卓也(キヨハラ タクヤ)
E-Mail:kiyohara.takuya.882(at)m.kyushu-u.ac.jp
