研究TOPICS

2026.03.16

多発性硬化症の診断精度を向上させる新たなMRI画像指標 -組み合わせや若年層対象でさらに診断精度が向上、早期診断に期待-(神経内科学分野 磯部 紀子教授、松吉 彩乃大学院生、竹内 創大学院生、九州大学病院 脳神経内科 篠田 紘司助教)

ポイント

  • 多発性硬化症*1は、若年世代に多い脳や脊髄の疾患で、早期診断・早期治療が重要ですが、似た病気との区別が難しく、診断の遅れや誤診が生じやすいことが知られています。
  • 本研究グループは、多発性硬化症やその類似疾患の評価に最適化した高精度の MRI 撮像法を用い、合計192名を対象とした解析で、新しい MRI 画像指標の組み合わせが、特に若年者において診断精度を高めることを見出しました。
  • 本成果は、患者さんの早期診断と適切な治療開始につながることが期待されます。

概要

多発性硬化症は若年成人で発症しやすく、身体障害や脳機能障害を引き起こす可能性のある自己免疫疾患ですが、似た症状を示す疾患は多く、しばしば診断が難しいことが問題となります。近年、MRI 技術の発達により、「中心静脈サイン*2」、「パラマグネティックリム病変*3」という新たな MRI 画像指標が多発性硬化症の診断に有用であることが米国や欧州より報告され、2024年に改訂された多発性硬化症の国際診断基準にも組み込まれました。しかし、これらの画像指標が日本人を含むアジア人でどの程度有用であるかは十分に検証されていませんでした。

九州大学病院脳神経内科の篠田紘司助教、九州大学大学院医学研究院神経内科学分野の松吉彩乃大学院生、竹内創大学院生、磯部紀子教授らの研究グループは、九州大学病院放射線科神経放射線グループ、飯塚病院画像診療科と共に多発性硬化症やその類似疾患の患者さんに最適化した MRI 撮像法を作成し、日本人多発性硬化症患者さんにおける「中心静脈サイン」、「パラマグネティックリム病変」、「皮質病変*4」の出現頻度や数を評価し、これらの新しい MRI 画像指標の有用性を明らかにしました。また、これらの MRI 画像指標の組み合わせによって特に若年者で診断精度がさらに向上することも明らかにしました。今回の発見により、多発性硬化症の診断が早期かつ正確に行えるようになり、できるだけ早く適切な治療へつながることが期待されます。

本研究成果は、国際雑誌 Multiple Sclerosis Journal に2026年2月26日に掲載されました。

図. 新しい MRI 指標の「中心静脈サイン」と「パラマグネティックリム病変」
研究者からひとこと

本研究の成果により、新しい MRI 指標を用いることで、多発性硬化症を疑われた患者さんをこれまでよりも正確に診断することが可能となりました。今後もより良い診療を目指して研究を続けてまいります。

研究の背景と経緯

多発性硬化症 (multiple sclerosis, MS) は、脳や脊髄に炎症が起こる自己免疫の病気です。若い世代で発症しやすく、手足のまひやしびれ、見えにくさ、記憶力や集中力の低下など、さまざまな症状を引き起こすことがあります。しかし、多発性硬化症はほかの病気とよく似た症状を示すことが多く、診断が難しい病気の一つです。そのため、できるだけ正確に見分ける方法の確立が重要な課題となっています。

近年、MRI 技術の進歩により、「中心静脈サイン」「パラマグネティックリム病変」「皮質病変」といった新しい画像所見が見つかるようになりました。これらは多発性硬化症に特徴的であることが最近わかった病変パターンで、海外の研究では診断に役立つことが報告されています。そして、これらの所見は最近改訂された国際的な診断基準にも取り入れられました。図左で示しているように、「中心静脈サイン」は、白く写っている病変の中心を横切る黒い線 (静脈) が見える所見で、多発性硬化症の病変が血管の周囲から起こるという特徴を反映しています。そして、図右で示している「パラマグネティックリム病変」は、病変のふちに鉄がたまることで見える変化で、くすぶった火のように長く続く炎症を示していると考えられています。「皮質病変」は大脳の表面にできる病変で、病勢の進行と関係があると報告されています。しかし、これらの所見が日本人を含むアジア人でも同じように役立つかどうかは、これまで十分に検証されていませんでした。

そこで私たちは、多発性硬化症やその類似疾患の患者さんに適した MRI 撮像法を作り、日本人患者さんにおけるこれらの所見の現れ方を詳しく調べました。そして、それぞれを単独で使った場合、あるいは組み合わせた場合に、どの程度多発性硬化症を見分けられるのかを検討しました。さらに、比較的若い患者さんに絞った解析も行い、診断への有用性を詳しく評価しました。

研究の内容と成果

本研究では、多発性硬化症および多発性硬化症に似た病気 (視神経脊髄炎スペクトラム障害*5や MOG 抗体関連疾患*6) の患者さんを対象に、本研究グループが新しく作成した方法で撮影した MRI 画像を解析しました。その結果、「中心静脈サイン」は多発性硬化症の患者さんに多く認められましたが、ほかの病気でも一部に見られることがわかりました。一方、「パラマグネティックリム病変」は多発性硬化症以外では、全く認められず、「皮質病変」も多発性硬化症以外ではごくまれにしか見られないことが示されました。

さらに、「中心静脈サイン」が一定数以上認められる場合には、多発性硬化症を見分けるうえで有用であることが示されました。また、「パラマグネティックリム病変」や「皮質病変」があることも組み合わせることで、診断の正確さがさらに高まることがわかりました。そして、新しい国際的な診断基準で提案されている判定方法 (Select 6基準*7と呼ばれる判定方法) でも検討を行いましたが、こちらも「パラマグネティックリム病変」や「皮質病変」と組み合わせることで、高い精度で多発性硬化症を診断可能であることが確認されました。特に重要なことに、比較的若い患者さんでは、これらの所見を組み合わせることで診断の正確さがさらに向上する傾向が見られました。

以上の結果から、「中心静脈サイン」を基準にしながら、他の MRI 所見を組み合わせて評価することで、多発性硬化症と多発性硬化症に似た疾患を高い精度で見分けられることが示されました。

今後の展開

本研究により、日本人およびアジア人の多発性硬化症が疑われる患者さんにおいて、「中心静脈サイン」や「パラマグネティックリム病変」が診断に役立つことが初めて示されました。このことから、多発性硬化症が疑われる患者さんに対して、本研究グループが作成したような MRI 撮像法を用いて評価すると、より早い段階で、より正確な診断を行うことができることが期待されます。さらに、正確な診断は、適切な治療を早期に始めることにつながります。本研究グループは、今後も MRI 撮像法や判定方法をさらに改善し、診断の精度を高めるとともに、病気の進行や治療効果をより正確に評価できる方法の確立を目指します。

用語解説

*1 多発性硬化症 (multiple sclerosis, MS)
免疫系の異常により、自分の脳、視神経、脊髄のあちこちで、神経を覆う細胞が繰り返し障害される神経難病の一つ。
*2 中心静脈サイン
頭部 MRI で病変の中心部に小静脈が確認される所見のこと。
*3 パラマグネティックリム病変
頭部 MRI で、脳の病変の辺縁部に鉄が沈着している所見のこと。慢性的な脳内炎症に関わっているとされる。
*4 皮質病変
脳の表面 (皮質) に生じる病変のこと。身体障害や、脳の機能障害に強く関連する重要な病変パターン。
*5 視神経脊髄炎スペクトラム障害
多発性硬化症と同様に視神経、脊髄に病変をきたしやすい自己免疫疾患の一つ。抗アクアポリン4抗体と呼ばれる自分の体の蛋白を攻撃する免疫物質 (自己抗体) が原因となることが多い。
*6 MOG 抗体関連疾患
ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白 (MOG) に対する抗体が、脳、視神経、脊髄に多発性硬化症と似た病変をきたす疾患。
*7 Select 6基準
頭部 MRI 検査で、脳内に中心静脈サインを示す病変が6個以上ある場合、あるいは中心静脈サインが5個以下であっても病変の半数以上に中心静脈サインがある場合に、総合的に陽性と判定する方法のこと。

謝辞

本研究は JSPS 科研費 (JP23K06964, JP24K02371, JP25K10629)、厚生労働科学研究費補助金 (JPMH23FC1009)、公益財団法人中冨健康科学振興財団、公益財団法人武田科学振興財団の研究助成を受けたものです。

論文情報

掲載誌:
Multiple Sclerosis Journal
タイトル:
Diagnostic performance of central vein sign, paramagnetic rim lesion and cortical lesion in Asian patients with multiple sclerosis
著者名:
Koji Shinoda, Ayano Matsuyoshi, Hajime Takeuchi, Mitsuru Watanabe, Katsuhisa Masaki, Eikichi Igeta, Hironori Kamano, Koji Yamashita, Osamu Togao, Noriko Isobe
DOI:
10.1177/13524585261420650

お問合せ先

九州大学病院 脳神経内科

助教 篠田 紘司(シノダ コウジ)

TEL:092-642-5340 FAX:092-642-5352 E-Mail:shinkein(at)med.kyushu-u.ac.jp

左から竹内創、松吉彩乃、篠田紘司、磯部紀子 (撮影: 吉良雄一)
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