2018.04.23
「久山町・九州大学・DeNA がICTツール「ひさやま元気予報」を開発」 衛生・公衆衛生学分野 二宮 利治教授
この度、この取組みについて二宮教授(写真:左)にお話を伺いました。
1. 「ひさやま元気予報」とはどんなツールですか。
久山町と九州大学では1961年から久山町民の方々を対象に、疫学調査「久山町研究」を行ってきました。久山町研究のはじまりは、久山町の初代町長である江口浩平町長の町民の健康を願う思いと、当時死因第一位であった脳卒中の正確な診断について一般住民を対象とした調査を必要としていた九州大学の、「ふたつの思い」が一致したことによります。
その後、57年もの長期にわたって得られたデータと研究成果を町民の方々の健康増進にさらに活かすため、DeNA が持つ ICT 技術とEngagement Science* を活用し 「ひさやま元気予報」が開発されました。病気の発症リスクの算出に使用される数式は、久山町研究で得られたデータを基にしています。
*Engagement Science:DeNA がゲーム事業やヘルスケア事業等で培ったデータ分析力とサービス運用力に基づいて、
利用者にサービスを使い始めてもらい、かつ使い続けてもらうための多種多様なノウハウのこと。
「ひさやま元気予報」
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「ひさやま元気予報」PCでの表示画面
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記者説明会の様子(2018.4.12)
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2. 久山町、九州大学のこれまでの取組みについて教えてください。
健診の様子
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その健診結果を基本データとして、久山町研究では前向きコホート研究*を行ってきました。その成果としては、1960-70年代では、脳卒中についての研究を行い、脳卒中の危険因子が高血圧であることを突き止めました。また、1980-90年代になると高血圧、糖尿病などの生活習慣病の実態と危険因子を明らかにしました。2000年代以降は、人々が長寿になるにつれて認知症の罹患率が上がっており、その予防が新たな課題となっています。
久山町研究で得られたことは健診時の健康指導で反映され、その結果、各疾患において全国と比較して、脳血管疾患で-36%、心疾患死亡で-50%(2002-2009年統計データ)と、久山町の住民は死亡率を下げることができました。
住民の方々のご理解とご協力のもと毎年の健診がなされおり、加えて久山町では住民の方の転出が少なく各人の健診データの追跡率は99%です。また、お亡くなりになられた際の剖検率も75%という高い数値となっています。このように半世紀以上にも渡り、安定したデータを用いた疫学研究は世界でも類を見ず、貴重な研究となっています。
*前向きコホート研究:分析疫学における手法のひとつで、特定の地域や集団を対象に疾患等の要因を持った群と持たない群とを
一定期間観察し比較研究するもの。
3. 「ひさやま元気予報」に期待することをお聞かせください。
KenCoM
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高血圧、糖尿病、認知症、いずれにしても中年期の若い頃からの予防対策が重要であり、それには、定期的に健診を受診して現状を把握して頂くのが第一歩となるのですが、若い方の健診率を高めることは難しいです。また、健康への行動変容は、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期という5つの時期に分類されるのですが、この「維持期」を継続することもまた難しいです。
今回の取組みでは、DeNA のヘルスケア事業会社である DeSC ヘルスケア株式会社が提供する健康増進支援サービス「KenCoM(ケンコム)」に「ひさやま元気予報」を搭載することになっており、これによりアプリやウェブでいつでも手軽に健診結果を見ることが出来るようになります。また、健診結果から計算された発症リスクを、「天気」という誰もが理解しやすいアイコンで直感的に示すことで、「健康状態の見える化」が実現します。そしてさらに、個人の健康状態に合わせた情報提供をすることで、行動変容の「維持期」の継続と、健診受診率向上を期待しています。
4. 今後の進展についてお聞かせください。
記者説明会 二宮教授の発表
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久山町の生活習慣病予防健診では、通常の健診では行わない詳細な検査も行うのですが、「ひさやま元気予報」では、あえてそのような項目は使用せず、ごく一般的な健診項目のみで使用できるようになっており、久山町民以外の方の使用も視野に入れたものとなっています。(計算式は、久山町での健診項目を基礎として算出されており、それによってより正確な計算結果を導けるようになっています。)
これまでの半世紀以上、久山町民の方々のご理解のもと、日本人にとって大変重要なデータを蓄積することが出来ました。今回の取組みの意義は、久山町長をはじめとする町民の皆様のご協力のもと、継続した研究を行うことができたこと、その研究成果が、DeNAのシステム力によって、久山町民の方々をはじめ全国の多くの方々へ還元できることだと思っております。九州大学の研究者として、久山町長をはじめ、住民の方々のこれまでのご協力に感謝を申し上げます。
■九州大学プレスリリース
■久山町研究室ホームページ(外部リンク)