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2019.05.29

マウスES細胞から休止状態の卵母細胞を体外培養で作製することに世界で初めて成功(林克彦教授・島本学術研究員)

 

 
マウスES細胞から休止状態の卵母細胞を体外培養で作製することに世界で初めて成功
~繁殖力を長期に維持するメカニズムの解明や不妊治療法の開発に期待~ 
 


メディア向け説明会の様子

研究成果を発表する島本学術研究員

質疑応答する林 克彦教授
  
  九州大学大学院医学研究院 学術研究員の島本走博士と林克彦教授の研究グループは、マウスの多能性幹細胞であるES細胞から、これまで誘導することができなかった休止状態の卵母細胞を、体外培養下で作製することに成功しました。
  これまでに同研究グループでは、多能性幹細胞を用いて卵子を作製する手法を開発しましたが、雌マウスの卵巣で長期間に渡り生殖能力を担保するために貯蔵されている、休止状態の卵母細胞は誘導できませんでした。本研究では、人工的に作製した卵子と生体マウスの卵子の形成過程を詳細に比較することで、体外培養系では発現量が足りない遺伝子や、不足している環境因子を見つけ出しました。こうして見出したFoxo3という遺伝子の発現誘導や、生体内で発生していると考えられる酸化ストレスを、低酸素培養によって再現し、体外培養系をマウスの卵巣内の環境により近づけることで、休止状態の卵母細胞を作製することに成功しました。さらには、誘導された休止状態の卵子では、低酸素で働くHIF遺伝子が機能していることが明らかとなりました。
  本研究成果により、休止状態の卵母細胞を培養下で作製できるようになったことから、ヒトを含めた哺乳類の雌における繁殖能力の長期的な維持メカニズムいった生物学的に重要な課題にアプローチしやすくなったと同時に、早期閉経などの不妊原因の究明や治療方法の開発への貢献が期待されます。
  本研究成果は、日本学術振興会科学研究費(18H05545および25290033)の支援を受け、『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』にオンライン掲載されます。

研究者からひとこと:
  卵母細胞がどのように形成されるかに関しては未だに多くの謎が残されています。本研究によって、体外培養下での卵母細胞形成過程を生体内の実際の過程により近い形で再現することができたと考えています。この研究から得られた知見が、卵母細胞形成機構の解明や不妊治療法の開発等、生物学や医学の発展に貢献すれば幸いです。
  

 【お問い合わせ】 九州大学大学院医学研究院ヒトゲノム幹細胞医学分野 教授 林 克彦(はやし かつひこ)
  電話:092-642-4844 FAX:092-642-4846
Mail:hayashik(a)hgs.med.kyushu-u.ac.jp
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