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2021.05.10

「人工知能による原発性アルドステロン症の病型予測モデルを開発 」(病態制御内科学分野 小川佳宏教授)

 
人工知能による原発性アルドステロン症の病型予測モデルを開発
~手術で治癒可能な高血圧症の早期発見に向けて~

 

  
  高血圧症は、脳心血管病の最大のリスク要因です。わが国では、高血圧症の患者は約4300万人であると推定されていますが、その中で適切に血圧がコントロールされているのは、わずか1200万人程度です。超高齢社会において健康寿命の延伸のためには、高血圧症の適切な診断・治療は国民医療の観点からも喫緊の課題です。高血圧症の多くは原因不明の「本態性高血圧」ですが、約10%は原因が特定できる「二次性高血圧」であり、治療方針が大きく異なります。
  原発性アルドステロン症は、副腎に由来するアルドステロンという血圧を上げるホルモンの過剰により高血圧症を発症する病気であり、病型によっては手術により治癒が期待できます。原発性アルドステロン症は、高血圧症の5-10%を占める頻度の高い二次性高血圧の一つであり、本態性高血圧と比較して脳心血管病のリスクが高く早期発見が重要です。しかしながら、病型診断には専門医療機関における検査が必要であるため、早期に正しく診断される患者は多くありません。
  九州大学大学院医学研究院の小川佳宏教授、馬越洋宜特任助教、同大学大学院医学系学府の兼子大輝大学院生らの研究グループは、人工知能(AI)の技術により、簡単に測定できるアルドステロン、カリウム、ナトリウムの3つの血液検査項目のみで、病型を高い精度で予測可能なモデルの開発に成功しました。今回のAI技術により専門医療機関でないプライマリケアの段階において、手術で治癒可能な病型の患者の早期発見が可能となり、効率よく適切な治療の提供につながり、医療の質の向上が期待できます。
研究者からひとこと:
近年、人工知能(AI)の医学応用が進んでいます。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう難しい時期、若手スタッフ・大学院生が熱心にAIの勉強をしてくれて、簡便な病型予測モデルの開発に成功しました。AIの技術による病気の診断や予後予測のモデルの開発により、新しい時代に相応しい医療・医学の発展に貢献したいと考えています。
小川佳宏教授(中央)と馬越洋宜特任助教(左)、兼子大輝大学院生(右)
 
 

  【問い合わせ先】 大学院医学研究院 教授 小川 佳宏
     TEL:092-642-5275  FAX:092-642-5297
    Mail: yogawa(a)med.kyushu-u.ac.jp
※(a)を@に置き換えてメールをご送信ください

ポイント
人工知能(AI)の技術により、原発性アルドステロン症(注1)の病型予測モデルの開発に成功しました。
プライマリケア(注2)の段階において、3つの血液検査項目の測定により高い精度で病型予測が可能であることを見出しました。
本研究成果により、手術で治癒が可能な高血圧症の患者さんの早期発見と適切な治療の提供が期待され、医療の質の向上につながります。
  
【研究の背景】
高血圧症は脳心血管病(脳卒中および心疾患)の最大の危険因子です。脳心血管病による死亡率は過去50年間で大幅に低下したものの、高齢者では悪性腫瘍(癌)とほぼ同程度の死亡原因になっており、十分な血圧コントロールが求められます。原発性アルドステロン症は、副腎に由来するアルドステロンという血圧を上げるホルモンの過剰による高血圧症であり、高血圧症全体の5-10%と有病率が比較的高い疾患です。原発性アルドステロン症の病型によっては手術による治癒が可能ですが、病型診断には専門医療機関における検査が必要であり、早期診断法の確立が望まれます。 
  
【研究成果の概要】
本研究では、病型の診断がなされた原発性アルドステロン症の患者を対象にしました。年齢や体格指数(body mass index: BMI)などの身体所見とプライマリケアの段階において簡単に測定可能な血液検査項目を用いて、AIの技術により原発性アルドステロン症の病型を予測するモデルの開発を試みました。3つの血液検査項目(アルドステロン、カリウム、ナトリウム)が予測に重要であることを見出し(図1)、この3項目のみにより、89%という高い予測精度を有する病型予測モデルの開発に成功しました。更に、独立した外部施設の患者を対象にした解析により、開発した予測モデルの汎用性・妥当性が検証されました。
  
【研究成果の意義】
AIの技術により、3つの血液検査項目で原発性アルドステロン症の病型を高い精度で予測可能なモデルの開発に成功しました。プライマリケアの段階において、手術により治癒が可能な病型の患者を予測することで、効率よく適切な治療の提供につながり、高血圧症による脳心血管病の予防が期待されます。
【用語の解説】
(注1)原発性アルドステロン症
副腎に由来するアルドステロンというホルモンが自律的に過剰分泌される病気です。アルドステロンは、塩分を体内に保持し血圧を維持する働きがありますが、過剰に分泌されると高血圧症を発症します。一般的な高血圧と比較して、脳心血管病のリスクが非常に高く、危険な高血圧とされています。手術により治癒が可能なものと手術による治癒が期待できず降圧薬加療を要する2つの病型に分類されます。 
(注2)プライマリケア
特定の病気を診療する専門医療に対して、普段から気軽に健康相談にのってくれる身近な医師による総合的な医療です。
  
<謝辞>
本研究は、JSPS科研費JP20K17493、JP20K21604、武田科学振興財団などの支援を受けて実施したものです。
  
<論文情報> 
論文名: Machine Learning Based Models for Prediction of Subtype Diagnosis of Primary Aldosteronism Using Blood Test 
(人工知能の技術を用いた血液検査による原発性アルドステロン症の病型予測モデル)
著者名: H. Kaneko, H. Umakoshi, M. Ogata, N. Wada, N. Iwahashi, T. Fukumoto, M. Yokomoto-Umakoshi, Y. Nakano, Y. Matsuda, T. Miyazawa, R. Sakamoto, and Y. Ogawa.
掲載誌: Scientific Reports 2021
DOI : 10.1038/s41598-021-88712-8
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