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2022.12.02

「ひきこもり度を簡単に評価できる⾃記式質問票を新たに開発 -直近1 ヶ⽉間の傾向を把握、早期発⾒・⽀援へ期待-」(精神病態医学分野 加藤隆弘 准教授)

ひきこもり度を簡単に評価できる⾃記式質問票を新たに開発
-直近1 ヶ⽉間の傾向を把握、早期発⾒・⽀援へ期待-
ポイント
  1. ①「社会的ひきこもり」はコロナ禍における外出⾃粛やオンライン授業・在宅ワークの普及により、爆発的な増加が懸念され、ひきこもりの予防は喫緊の課題。
  2. ② 直近1 ヶ⽉間のひきこもり度を⾃分⾃⾝で評価できる⾃記式質問票HQ-25M の開発に成功。
  3. ③ HQ-25M が職場や学校などで広く活⽤されることで、ひきこもりのリスクが⾼い⼈を早期発⾒できるようになり、早期⽀援に繋げることで病的なひきこもりの予防実現に期待。

「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は社会参画せずに 6 ヶ⽉以上⾃宅にとどまり続ける状態であり、ひきこもり状況にある⼈(以下、ひきこもり者)は国内 110 万⼈を越えると推定されています。コロナ禍になり、外出⾃粛やオンライン授業・在宅ワークの普及により、従来ひきこもりと縁のなかった⼈々でも病的なひきこもりに陥りやすい状況下にあり、ひきこもりの予防および⽀援法・治療法の確⽴は国家的急務です。九州⼤学病院では世界初のひきこもり研究外来を⽴ち上げており、ひきこもりの⽣物・⼼理・社会的理解に基づく⽀援法開発を進めています。その⼀環として、 2018 年には 6 ヶ⽉間のひきこもり傾向を評価できる 25 項⽬からなる⾃記式質問票「Hikikomori Questionaire-25;以下 HQ-25)」を⽇⽶共同開発しました。HQ-25 はすでに 6 カ国語以上の⾔語に翻訳され、世界中で活⽤されつつあります。

今回、⽇本学術振興会(JSPS)・⽇本医療研究開発機構 (AMED)等の⽀援により、九州⼤学⼤学院医学研究院の加藤隆弘准教授・⽇本⼤学⽂理学部⼼理学科の坂本真⼠教授・オレゴン健康科学⼤学のアラン・テオ准教授らの国際共同研究チームは、ひきこもりリスクの早期発⾒によるひきこもり予防システム構築のために、直近 1 ヶ⽉間のひきこもり傾向を簡便に把握できる⾃記式質問票(1 ヶ⽉版ひきこもり度評価尺度 One Month version of Hikikomori Questionaire-25;以下 HQ-25M)の開発に成功しました。

2022 年 3 ⽉、未就労の⽇本⼈成⼈男性 762 名を対象として HQ-25M をオンライン調査として実施したところ、ひきこもり傾向が⾼いほど HQ-25M のスコアが有意に⾼いことを確認し、HQ-25Mの予備的妥当性を確認しました。今後、⼥性を含む様々な⼈々に実施することで、信頼性・妥当性のさらなる検証を⾏うとともに、国外への普及も進めてゆきます。

 

ひきこもりは、2022 年に⽶国精神医学会が発⾏した国際的な精神疾患診断マニュアル DSM-5TRにおいて「hikikomori」として新たに掲載され、⽇本発の社会現象として世界中でその存在が注⽬されています。世界中で hikikomori 者の急増が懸念されるコロナ禍・ポストコロナの時代、今回の⾃記式質問票 HQ-25M が職場や学校などで広く活⽤されることで、ひきこもりリスクの⾼い⽅々の早期発⾒が実現し、病的なひきこもりに⾄ることを予防するための重要なツールとなることが期待されます。

本成果は、2022 年 11 ⽉ 30 ⽇(⽔)午前 0 時(⽇本時間)に、⽇本精神神経学会が発⾏する国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されました。

【研究の背景と経緯】

「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は社会参画せずに 6 ヶ⽉以上⾃宅にとどまり続ける状態であり、ひきこもり状況にある⼈(以下、ひきこもり者)は国内 110 万⼈を越えると推定されています。コロナ禍になり、外出⾃粛やオンライン授業・在宅ワークの普及により、従来ひきこもりと縁のなかった⼈々でも病的なひきこもりに陥りやすい状況下にあり、ひきこもりの予防および⽀援法・治療法の確⽴は国家的急務です。

九州⼤学病院では世界初のひきこもり研究外来を⽴ち上げており、ひきこもりの⽣物・⼼理・社会的理解に基づく⽀援法開発を進めています。その⼀環として、2018 年、6 ヶ⽉間のひきこもり傾向を評価できる 25 項⽬の質問からなる「ひきこもり尺度(Hikikomori Questionaire-25;以下 HQ-25)」を⽇⽶共同開発しました。HQ-25 は、ひきこもりの重症度を簡便に評価でき、すでに 6 カ国語以上の⾔語に翻訳され、世界中で活⽤されつつあります。HQ-25 は、6 ヶ⽉間のひきこもり状態を把握するツールであり、ひきこもりの予防や早期発⾒のためには、より早い段階でのひきこもりリスクをスピーディーに評価できるツールが求められていました。そこで、本研究では、HQ-25 をベースとして直近 1 ヶ⽉の状態を尋ねるスケールとして新たに HQ-25M を開発し、その妥当性を予備的に検討しました。

【研究の内容と成果】 

本研究で新規開発した⾃記式質問票 HQ-25M は、6 ヶ⽉版の HQ-25 を改訂したもので、直近1ヵ⽉間のひきこもり的な状況を把握するための質問票です(資料)。6 ヶ⽉版の HQ-25 と同様に、25 項⽬の質問・3 つの下位尺度(「社会性の⽋如」「孤⽴」「情緒的サポートの⽋如」)から成り⽴っています。

ひきこもりは、⼥性よりも男性に多く認められます。したがって、今回のパイロット調査では、ひきこもり者を含む未就労の 20 代から 50 代の⽇本⼈男性 762 名を対象として 2022 年 3 ⽉にオンライン調査として HQ-25M を実施しました。

参加者を回答に基づいて、以下のように 3 つの群に分けました(表 1)。

・ひきこもり的状況が⼀切ない⼈:「⾮ひきこもり群」

・ひきこもり的な期間が 6 ヶ⽉未満の⼈:「ひきこもり予備群」

・ひきこもり的な期間が 6 ヶ⽉以上の⼈:「ひきこもり群」

HQ-25M の合計得点と社会的ひきこもりの期間との間に有意な相関を認めました(表 2:Spearman の 順位相関係数による解析)。また、HQ-25M の 3 因⼦もひきこもり期間と有意な正の相関を⽰しました。

HQ-25M の合計得点と 3 つの下位尺度の得点の群間差を検討するために、被験者間の 1 要因分散分 析を実施しました。「ひきこもり群」は、「⾮ひきこもり群」および「ひきこもり予備群」と⽐較して、 すべての得点で有意に⾼いスコアでした。下位尺度では「孤⽴」の因⼦において、「ひきこもり予備群」 の⽅が「⾮ひきこもり群」と⽐べて有意な⾼値を認めました。

今回の調査では、HQ-25M に加えて、過去 1 ヶ⽉間の⼼理的苦痛を測る K10 という尺度も同時に実 施しました。HQ-25M と K10 の得点の関係を検討したところ、有意な正の相関が認められました(表 2)。

以上のように、ひきこもり者を含む未就労者を対象としたオンライン調査により、1 ヶ⽉版ひきこも り度評価尺度 HQ-25M は、ひきこもり期間や⼼理的苦痛の強さと有意な正の相関があり、ひきこもり の早期発⾒を⽀援するツールとしての予備的な妥当性の検証に成功しました。

【今後の展開】

本研究は、オンライン調査に基づいており、ひきこもり評価に際しては最新の「病的ひきこもり」 の国際診断基準(Kato, Kanba, Teo: World Psychiatry 2020)を⽤いておらず、未就労の⽇本⼈男性に 対象が限られているなど、いくつかの限界があります。今後、こうした限界を補い、⽇本だけでな く、ひきこもり者が報告されている国内外の現場において、⼥性やより重症のひきこもり者を含めた 対象に対して HQ-25M を実施することで、さらなる妥当性の検証を⾏う予定です。

ひきこもりは、2022 年に⽶国精神医学会が発⾏した精神疾患の国際的なマニュアル DSM-5TR にお いて「hikikomori」として新たに掲載され、⽇本発の社会現象として世界中でその存在が注⽬されてい ます。コロナ禍・ポストコロナの時代、世界中で hikikomori 者の急増が懸念され、今回の⾃記式質問 票 HQ-25M が職場や学校などで広く活⽤されることで、ひきこもりリスクの⾼い⽅々の早期発⾒が実 現し、病的なひきこもりに⾄ることを予防するための重要なツールとなることが期待されます。

【参考】
ひきこもり研究ラボ@九州⼤学(https://www.hikikomori-lab.com/
九州⼤学では、2013 年に⼤学病院内に専⾨外来を⽴ち上げ、国内外の医療研究機関やひきこもり⽀援 団体と連携し、ひきこもりの多⾯的理解に基づく具体的な⽀援法の開発を進めています。上記 URL の ホームページに、今回の HQ-25M はじめ各種ひきこもり評価ツールやご本⼈・ご家族向けの⽀援に役 ⽴つ情報を掲載していますのでご覧ください。
【謝辞】
本研究は、⽇本医療研究開発機構(AMED)「脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト)」(AMED:JP21wm0425010)および⽇本学術振興会・科研費(JP16H06403, JP18H04042, JP19K21591, JP20H01773 and JP22H00494)の助成を受けて実施したものです。 
【論文情報】
掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences
タイトル:One month version of Hikikomori Questionnaire-25 (HQ-25M): Development and initial validation.
著者名:Takahiro A. Kato, MD, PhD*, Yudai Suzuki, PhD, Kazumasa Horie, MA, Alan R. Teo, MD, MS, Shinji Sakamoto, PhD* (*Corresponding authors: Kato & Sakamoto)
D O I :10.1111/pcn.13499
【お問い合わせ先】
九州⼤学⼤学院医学研究院 精神病態医学
(九州⼤学病院精神科神経科気分障害ひきこもり外来/ひきこもり研究ラボ@九州⼤学)
准教授 加藤 隆弘(かとう たかひろ)
TEL:092-642-5627 FAX:092-642-5644
Mail: kato.takahiro.015★m.kyushu-u.ac.jp 
※★→@に置き換えてメールをご送信ください。
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