2016.04.14
細胞分裂において染色体数を維持するための新しい分子機構を発見 (消化器・総合外科学分野 前原 喜彦 教授)
| 細胞分裂において染色体数を維持するための新しい分子機構を発見 -癌の悪性化の理解と革新的治療に期待- |
■概 要
九州大学大学院医学研究院の前原喜彦教授、飯森真人助教らの研究グループは、細胞分裂時において染色体数を維持するために必要な新しい分子機構を発見しました。
正常な細胞分裂では、遺伝情報をもつ染色体を二つの細胞に均等に分配します。一つの細胞あたりの染色体数を維持することは正常な細胞の分裂において必須となりますが、多くの癌において染色体数の変化が認められます。本発見は、癌の新しい形質の獲得や悪性化の理解および革新的治療につながることが期待されます。
本研究成果は、2016年3月31日(木)午前10時(英国時間)に、英科学誌『Nature Communications』の電子版で公開されました。
■背 景
一つの細胞は分裂することによって増殖することができます。細胞分裂の際には、分裂後の娘細胞に遺伝情報が正確に継承される必要があります。細胞の遺伝情報を持つものが染色体であり、細胞分裂期には複製された染色体が紡錘糸(※1)に引っ張られて二つの細胞に均等に分配されることで正常な細胞分裂が完了します(図、上)。ここで一つの細胞あたりの染色体数を維持することは正常な細胞の分裂において必須となります。
しかしながら多くの固形癌(>85%)(※2)において、染色体数が変化(増加あるいは減少)した異数性と呼ばれる状態が観察されます。異数性は、細胞分裂時における染色体の分配に異常(図、下)を起こすことが起因していると考えられており、異数性を起こすことが癌の発生や悪性化に寄与していることが数多く報告されています。
これまでに染色体の数を維持するための研究報告は、染色体自身の動態や中心体の制御に関して数多くされてきましたが、紡錘糸の制御メカニズムに関しては、いまだ未知の部分が多く残されています。
■内 容
研究グループは、紡錘糸の構成成分である微小管(※3)の結合タンパク質として知られる EB2 が細胞分裂期において特異的に微小管上から消失すること、Aurora B および CDK1 と呼ばれるリン酸化酵素(※4)によってリン酸化修飾(※5)されることを見出しました。さらに、EB2 はリン酸化されると微小管への結合強度が低下することがわかり、EB2 が細胞分裂期において特異的にリン酸化されることで、紡錘糸との結合性を低下させることが重要である可能性が示されました。
そこで、EB2 が細胞分裂期において特異的にリン酸化されることの重要性を明らかにするため、EB2のリン酸化部位を決定した後、非リン酸化型 EB2 をもつ細胞を作製して観察したところ、非リン酸化型 EB2 は細胞分裂期において微小管に強く結合することで微小管の過剰な安定化を促し、細胞分裂期の進行遅延を誘導しました。さらに、非リン酸化型 EB2 をもつ正常細胞を一定期間培養したところ不均等な染色体分配が誘導され、染色体数が維持できずに異数性を示す細胞が観察されました。
以上の研究結果より、微小管結合タンパク質の EB2 が細胞分裂期においてリン酸化修飾されて紡錘糸への結合性を負に制御されることが、正常な細胞分裂期の進行および染色体数の維持を保証するのに重要であることが明らかとなりました。
■効 果・今後の展開
今回の研究では、細胞分裂期における染色体数の維持に、微小管結合因子 EB2 が時間空間的に制御されることが重要であることを初めて明らかにしました。今回の発見における EB2 制御の破綻が実際の癌における異数性と関連するのかについて現在研究を進めています。
また、染色体の均等な分配の異常は癌の新しい形質の獲得や悪性化につながると考えられていますが、一方で、異数性を示す癌にさらなる染色体の分配異常を起こさせることは細胞死を誘導して癌の増殖を抑えることも報告されています。この戦略は有効な治療法となる可能性があり、染色体数を維持するための分子機構を理解することは今後ますます重要になると考えられます。
![]() |
【用語解説】
| (※1) | 紡錘糸: | 細胞分裂時に主に染色体に結合して染色体を分配する働きをもつ糸状の構造体。 |
| (※2) | 固形癌: | 臓器や組織などで塊をつくる癌の総称。 |
| (※3) | 微小管: | 細胞の骨格として細胞の形態維持、あるいは細胞内の物質輸送のレールとして必要なチューブ状の構造体。細胞分裂期には束化することで紡錘糸を形成し、染色体分配の中心的役割を担う。 |
| (※4) | リン酸化酵素: | リン酸基を基質となるタンパク質に転移する酵素。 |
| (※5) | リン酸化修飾: | タンパク質の構成成分であるアミノ酸の一部にリン酸基が付加される化学反応。リン酸基の修飾によりタンパク質は活性の獲得あるいは消失、他のタンパク質との結合や解離な ど、機能の調節をうける。 |
【論文名】
“Phosphorylation of EB2 by Aurora B and CDK1 ensures mitotic progression and genome
stability” Nature Communications DOI: 10.1038/ncomms11117
| 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 教授 前原 喜彦(まえはら よしひこ) 電話:092-642-5461 FAX:092-642-5482 Mail:maehara(a)surg2.med.kyushu-u.ac.jp (a)を@に置きかえてメール送信してください |
医学研究院 教授 前原 喜彦
医学研究院 助教 飯森 真人

