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2017.03.27

既存の薬剤が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に有効であることを マウスにおいて確認 (病態制御内科学分野 小川佳宏教授)

既存の薬剤が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に有効であることを
マウスにおいて確認

【ポイント】
特発性肺線維症の治療薬であるピルフェニドンが、NASHモデルマウスの肝臓の炎症所見と線維化を著しく抑制することを明らかにしました。
ピルフェニドンは肝細胞死を抑制することによりNASHを予防する可能性が考えられました。
この成果は、肝細胞死がNASHの進展において重要であり、既に臨床応用されているピルフェニドンがNASHの治療薬となる可能性を示すものです。

    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝学分野および九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野(第三内科)の小川佳宏教授、東京医科歯科大学 医学部附属病院の土屋恭一郎助教らの研究グループは、名古屋大学、国立成育医療研究センターとの共同研究により、既存の薬剤がマウスの非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を著しく抑制することを見出しました(図 1)。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」 (研究開発総括:永井 良三)※における研究開発課題「細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻による組織線維化の制御機構の解明と医学応用」(研究開発代表者:小川 佳宏)の一環で行われました。また、文部科学省科学研究費補助金ならびに上原生命科学財団、MSD 生命科学財団、日本応用酵素協会、日本糖尿病協会、日本糖尿病学会の支援も受けており、その研究成果は、国際科学誌 Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)に、2017年3月17日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されました。

 
※本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されています。

 

【研究の背景】
  非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)はメタボリックシンドローム注 1)の肝臓における表現型と考えられており、最も進行性のNASH(non-alcoholic steatohepatitis)は肝臓の炎症や線維化を伴ってしばしば肝硬変症や肝細胞癌を発症するため治療介入が必要です。しかしながら、NASHの発症機構には不明な点が多く、NASHに対する確立された治療法がないことが大きな問題となっています。
ピルフェニドンは特発性肺線維症注 2)に対する治療薬として、既に臨床の現場において使用されています。しかしながら、抗線維化作用の分子機構は明らかでなく、NASHに対する有効性も不明でした。今回、研究グループが独自に開発した NASHモデルマウス注 3)を用いてピルフェニドンの治療効果を検討し、NASH治療薬としての可能性を検証しました。

 

【研究成果の概要】

    研究グループは、NASHモデルマウスにピルフェニドンを経口的に投与することにより、脂肪肝の形成には影響を与えずに、NASHの病理所見である炎症所見と線維化を著しく抑制することを見出しました。ピルフェニドンはNASHモデルマウスにおいて認められた肝臓の細胞死を抑制しました(図 2)。培養肝細胞においても腫瘍壊死因子(TNF-α)注 4)により誘導される細胞死を抑制しました(図 3)。

【研究成果の意義】
  本研究により、既に臨床応用されているピルフェニドンの、NASHの予防薬・治療薬として適応拡大(ドラッグ・リポジョショニング)の可能性を明らかにしました。過剰な肝細胞死を抑制することがNASHの予防・治療につながる可能性があり、NASHの病態解明と新しい治療法の開発のためにも重要な知見と考えられます。
  

 

注 1) メタボリックシンドローム:内臓の周囲に脂肪が蓄積する内臓脂肪蓄積型の肥満をもつ人が、高血圧、高血糖、脂質異常症などの動脈硬化の危険因子を2つ以上有するという疾患概念です。
注 2) 特発性肺線維症:肺の奥にある「肺胞」と呼ばれる場所に炎症や損傷がおこり、壁が厚く硬くなり(線維化)、ガス交換がうまくできなくなる病気を肺線維症と呼びます。息切れ、空咳が出現し、(乾性咳嗽)で悩まされることもあります。特発性肺線維症はその中でも原因がはっきりと特定できないものを指します。
注 3) NASHモデルマウス:中枢性摂食調節に関与するメラノコルチン4型受容体の欠損マウスに高脂肪食または高ショ糖食を負荷することにより、ヒト肥満症患者と同様の糖脂質代謝障害を呈し、脂肪肝からNASH様肝病変、多発性の肝細胞癌を発症します(Am. J. Pathol. 179: 2454-2463, 2011)。
注 4) 腫瘍壊死因子(TNF-α):元来、がん細胞に細胞死を誘導する因子として同定された蛋白質です。その後の研究から、細胞の種類によっては細胞死などを引き起こすことが証明されました。
  
  
 【お問い合わせ先】 九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野(第三内科)
教授 小川 佳宏(おがわ よしひろ) 
  電話: 092-642-5275  FAX: 092-642-5297 
Mail:yogawa(at)intmed3.med.kyushu-u.ac.jp
※(at)は@に置きかえてメールをご送信ください

 
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