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2026.05.20

世界初!7秒のX線撮影で心臓弁逆流を高精度に評価 -先天性心疾患の経過観察を簡便・迅速に、より多くの人に-(臨床放射線科学分野 石神 康生 教授、総合周産期母子医療センター 山村 健一郎 准教授、放射線部 山崎 誘三 助教、循環器内科 坂本 一郎 特任助教)

ポイント

  1. ファロー四徴症(※1)術後患者では肺動脈弁逆流(※2)の重症度評価が生涯にわたり必要です。
  2. 胸部X線動態撮影(※3)を用いて、肺動脈弁逆流の重症度を簡便・迅速かつ低被曝で定量評価するシステムを世界で初めて開発しました。
  3. 本システムは重症肺動脈弁逆流の検出において93%という優れた診断精度を達成しました。適切な治療介入時期の判断に貢献することが期待されます。

概要

ファロー四徴症は最も頻度の高いチアノーゼ性先天性心疾患であり、現在では多くの患者が手術により成人期を迎えています。しかし、術後の肺動脈弁逆流は避けられない合併症の一つであり、重症化すると右心不全や不整脈のリスクが高まるため、生涯にわたる経過観察と適切なタイミングでの肺動脈弁置換術が必要です。肺動脈弁逆流の重症度評価において、心臓超音波は簡便ですが定性的評価にとどまり、観察者間のばらつきも大きいという問題があります。一方、心臓MRIは最も正確に定量評価ができる検査ですが、検査可能な施設が限られること、閉所恐怖症やペースメーカー装着患者には施行できないこと、検査コストが高いことなどの課題があります。
 九州大学病院放射線部の山崎誘三助教、大学院医学研究院臨床放射線科学分野の石神康生教授、九州大学病院総合周産期母子医療センターの山村健一郎准教授、循環器内科の坂本一郎特任助教(研究当時)、コニカミノルタ株式会社の渡辺諒一技術者らの研究グループは、胸部X線動態撮影で得られる肺動脈の画素値変化を「波形」として抽出・解析する新しいアプローチにより、肺動脈弁逆流の重症度を定量評価するシステムを世界で初めて開発しました。ファロー四徴症術後患者58名と健常ボランティア14名を対象とした検証では、本システムから得られる指標(Max PV slope)は心臓MRIで測定した逆流率と極めて高い相関(R=0.87)を示しました。さらに、重症肺動脈弁逆流(逆流率>30%)の検出において、感度93%、特異度94%、診断精度93%、AUC 0.98という優れた診断能を達成しました。
 胸部X線動態撮影は検査時間わずか7秒、被曝量も極めて低く、一般のX線撮影室で施行可能です。本システムは心臓超音波で重症度判定が困難な症例において、心臓MRI検査の必要性を判断する簡便かつ体に優しいスクリーニング検査として機能することが期待されます。また、心臓MRIが施行できない患者(閉所恐怖症、ペースメーカー装着など)における代替検査としても有用です。
 成人先天性心疾患患者は世界的に増加している一方で、地方や医療資源の限られた地域では専門的な心臓MRI検査へのアクセスが制限されています。本システムの普及により、こうした医療格差の是正にも貢献できると考えられます。
 本研究成果は、国際学術雑誌「Radiology」に2026年5月19日(火)(日本時間)掲載されました。

図1)胸部X線動態撮影とは 
単純 X 線撮影と同様の装置を用い、7-10 秒の息止め間に連続撮影する手法で、
15 フレーム/秒の連続 X 線画像を取得します。
研究者からひとこと

我々のグループでは、2022年にも胸部X線動態撮影を用いた肺循環解析プログラムを開発し、肺高血圧症の診断に有用であることを報告しました。その結果を基に診療ガイドラインにも取り上げられ、現在医師主導治験が行われています。本研究も多くの患者さんが恩恵を受けられるように、今後多施設共同研究を計画しています。これからも新たな視点から医療に変革を起こせるような研究をしていきたいと思います。(山崎誘三)

研究の背景と経緯

ファロー四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の4つの特徴を持つ先天性心疾患です。出生約3,500人に1人の頻度で発生し、チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も頻度が高い疾患です。手術成績の向上により、現在では90%以上の患者が成人期を迎えています。しかし、術後の肺動脈弁逆流は長期的な問題として残ります。重症の肺動脈弁逆流は右心室の拡大・機能低下を引き起こし、運動耐容能の低下、不整脈、さらには突然死のリスクを高めます。そのため、欧州心臓病学会のガイドラインでは逆流率30%以上を重症と定義し、症状がある場合はもちろん、症状がない場合にも肺動脈弁置換術が推奨されることがあります。
 現在、肺動脈弁逆流の定量評価には心臓MRIが標準とされていますが、1)検査可能な施設が限られている、2)高度な専門知識を持つ検査者が必要、3)検査コストが高い、4)閉所恐怖症の患者やペースメーカー/植込み型除細動器を装着した患者には施行困難といった課題が存在しました。
 一方、心臓超音波は簡便で広く利用可能ですが、術後の解剖学的変化により画質が不良となることが多く、定性的評価にとどまるため重症度判定の信頼性に限界があります。
 このような背景から、心臓MRIと心臓超音波の課題を克服する、簡便かつ定量的な評価法の開発が求められていました。

研究の内容と成果

胸部X線動態撮影は、通常のX線撮影装置を用いて7秒間の息止め中に15フレーム/秒の連続撮影を行う技術です(図1)。造影剤を使用せず、被曝量も国際原子力機関の定める胸部X線写真正面像+側面像の基準よりも少なく、胸部CTの30分の1程度です。本研究では、従来の「画像を見て診断する」アプローチではなく、連続画像から肺動脈領域の画素値(X線透過性)の経時的変化を「波形」として抽出し、その形状を数値化するという新しいアプローチを採用しました。
 肺動脈弁逆流がある患者では、心臓が拍動するたびに血液が肺動脈から右心室へ逆流します。この逆流により、肺動脈内の血液量の変化パターンが健常者とは異なります。具体的には、逆流が重症なほど、心臓拡張期に肺動脈内の血液量が急激に減少するため、波形の傾きが急峻になります(図2)。研究グループはこの「波形の傾き(Max PV slope)」を重症度の指標として着目しました。


 ファロー四徴症術後患者58名(うち重症肺動脈弁逆流27名)と健常ボランティア14名を対象に検証を行った結果、Max PV slope (画素値変化率の最大傾き)が逆流率と非常に高い相関を呈し、(R=0.87、P<0.001)、重症肺動脈弁逆流(逆流率>30%)を非常に高い精度で検出できることがわかりました(感度:93%、特異度:94%、診断精度:93%、AUC:0.98)。異なる専門分野・経験年数の3名の医師(放射線科医2名、小児循環器科医1名)による評価でも高い再現性が確認され(観察者間一致係数:0.90)、特別な訓練なしに安定した結果が得られることが示されました。

今後の展開

現在、多施設共同研究を計画中であり、数年以内の完了を目指しています。この研究で施設間での再現性が確認され、基準値が確立されれば、以下のような臨床応用が期待されます:
  1.    スクリーニング検査としての活用:心臓超音波で重症度判定が困難な症例において、心臓MRI検査の必要性を判断する中間的検査として活用
  2.    MRI施行困難患者への対応:閉所恐怖症の患者やペースメーカー/植込み型除細動器を装着した患者における代替的な定量評価法として活用
  3.   医療格差の是正:心臓MRI検査へのアクセスが限られる地域や施設における、適切な専門施設への紹介判断に活用
  4.   他疾患への応用:本手法は他の先天性心疾患(両大血管右室起始症など)や後天性弁膜症(感染性心内膜炎、肺高血圧症など)による肺動脈弁逆流にも応用可能と考えられます
 なお、本研究で用いた動態撮影画像から波形解析を行い、肺動脈弁逆流を評価する技術は九州大学とコニカミノルタ株式会社が共同で特許を取得しています。

用語解説

(※1) ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot) 心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の4つの特徴を持つ先天性心疾患です。チアノーゼ性先天性心疾患の中で最も頻度が高く、出生約3,500人に1人の割合で発生します。現在では乳児期の手術により多くの患者が成人期を迎えています。
 (※2) 肺動脈弁逆流(Pulmonary Regurgitation) 心臓から肺へ血液を送る肺動脈弁が完全に閉鎖せず、血液が右心室へ逆流する状態です。ファロー四徴症の手術では肺動脈狭窄を解除するため、多くの場合で術後にある程度の逆流が生じることは避けられません。重症化すると右心不全や不整脈の原因となります。
 (※3) 胸部X線動態撮影(Dynamic Chest Radiography) 通常のX線撮影装置を用いて、7秒程度の息止め中に連続的にX線画像を撮影する技術です。造影剤を使用せず、被曝量も極めて低く抑えられています。肺内の血流変化をリアルタイムで観察することが可能です。

論文情報

掲載誌:
Radiology
タイトル:
Novel Dynamic Chest Radiography Technique for Assessing Pulmonary Regurgitation in Repaired Tetralogy of Fallot
著者名:
Yuzo Yamasaki, Koji Sagiyama, Tomoyuki Hida, Takuya Hino, Megumi Ikeda, Kosuke Tabata, Daisuke Toyomura, Kenichiro Yamamura, Ichiro Sakamoto, Masateru Kawakubo, Ryoichi Watanabe, Hidetake Yabuuchi, Hyemoon Chung, Jongmin Lee, Kousei Ishigami.
DOI:
10.1148/radiol.252344

お問合せ先

九州大学病院放射線部

助教 山崎誘三(ヤマサキユウゾウ)

TEL:092-642-5695 FAX:092-642-5706 Mail:yamasaki.yuzo.776(at)m.kyushu-u.ac.jp

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